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二つの恋心

 いつの間にか部屋に訪れていた奈緒を見やる盛周。


「博士、いつの間にここへ?」

「ついさっき、だよ。 ……それよりも、随分と風通しがよくなったねぇ」


 そう言いながら壁に開いた大穴を見る奈緒。

 その言葉に盛周は苦笑いを見せる。


「まったくだ……。あそこまで大暴れされるとはなぁ……。まぁ、それよりも、だ」


 そう言うと、盛周は先ほど見せた霞の不可解な行動について問い掛ける。


「……それで? 博士、俺は霞に洗脳などは施すな。と指示を与えていた筈だが?」

「あっはっはっはっ。奈緒さんはそんなことをしていないよ」

「ならば、霞が明らかに俺に対して恥じらいなどを感じていたようだが、その理由は?」

「あぁ、それ?」


 盛周の言葉を聞いた奈緒はくすくす、と笑いながら盛周の勘違いを訂正するように答える。


「あくまであれは洗脳じゃないとも。あれは、ただ単に少し()()になるようにしただけだよ?」

「素直に……?」

「うむ、そうだとも」


 そう言って奈緒は鷹揚に頷く。そして――。


「あの娘はどうやら色々と溜め込むことが多いみたいだからねぇ」


 と、悩ましげな様子で喋る。

 奈緒が発した溜め込む、という言葉の意味に興味を持ったのか、盛周はそのことについて聞き返す。


「……溜め込む? あいつが、か?」


 盛周が発した驚きの声に、奈緒はやれやれ、といった様子で首を横に振っている。そして――。


「まったく、ダメだよ大首領? 女の子は繊細なんだから、ちゃんと見ててあげないと」

「ぐ、む……」


 奈緒からされた、まさかのダメ出しに口ごもる。

 本人としても、多少そのことで思うことはあれども、朱音や渚ならともかく、まさか奈緒から注意を受けるとは思わなかったのだ。

 そして、その盛周の思考を察したのだろう。奈緒は不満げな表情を見せる。


「む、どうやらまだ理解できてないみたいだねぇ。奈緒さんだって立派な女の子なんだよ?」


 そう言いながら、盛周の胸を責めるように突っつく奈緒。

 そんな奈緒に、思わず女の子? と言いそうになる盛周だが、その言葉を発した瞬間大惨事になることは目に見えていたので、何とか漏らさないようにこらえる。

 何とかこらえている盛周をよそに、奈緒は霞が何を溜め込んでいるのかを話す。


「もともとあの娘は大首領の伴侶となるべく産み出された存在だよ? だからこそ、君に対して好意的になるように刷り込まれてるし、本人だって満更じゃなかった筈さ」


 そこまで言った奈緒は、人差し指を立てながら、なのに。と言葉を続ける。


「君のとなりには幼馴染みで、なおかつあの娘にとって恩人であるレッドルビーがいた訳だ。あの娘は随分と悩んだと思うよ? なにせ、我を通せばレッドルビーを悲しませ、かといって見過ごせば己の存在意義を否定するに等しい」

「確かに、それは……」


 奈緒にそうまで言われれば盛周とて、どういった意味合いかは、否応にも理解できる。

 そして、さらにいえば盛周は霞がどういった選択肢を取ったのかも知っているのだから。

 ……渚を立て、自らは身を引く。という選択を。


「そんなの、流石に歯痒いと思わないかい? 特に、自分の娘がそんな奥ゆかしいことをやるなんて、さ」

「……」


 奈緒の言葉、何より笑いながらも、内心激怒している雰囲気が見え隠れしている彼女を見て言葉を失う盛周。

 それとともに、霞のことにしても楽観視しすぎていたか、と自省する。

 流石に彼としても、霞がそこまで思い詰めていたことに気付いていなかったのだから。


「だから――」


 思考の海に沈んでいた盛周の意識は、続く奈緒の言葉を聞いて浮上する。同時に、驚きと呆れも含むことになるが。


「奈緒さんはちょっと、あの娘の背中を押してあげたのさ。何より自分の心を殺すのは絶対にダメだからね」

「博士、お前……」

「命短し、恋せよ乙女。と言うだろう?」


 奈緒のおどけた様子に頭を抱える盛周。

 頭を抱える盛周をよそに奈緒は愉しそうに笑う。もっとも、その内心は――。


(ま、最初から諦めるなんて言語道断だしねぇ……。それに最悪、あの娘の体内(ナカ)に保存してある()()を入れる手もあるし)


 などと、盛周や霞が知れば詰め寄られそうなことを考えているのであった。

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