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進化と不安

 仄かな明かりだけが灯る一室。そこでこぽこぽと気泡が弾ける音だけが室内に響いている。

 その気泡の音が聞こえてくる場所。そこには一つの大型シリンダー。

 そして中には一人の少女が浮かんでいた。

 安らかな顔をして液体が充満するシリンダー内に浮かぶ少女。

 彼女の名は南雲霞、またの名をブルーサファイア。

 以前悪次郎、盛周たちバベルに捕らえられ、連れ去られたヒロインの一人だ。

 そんな彼女は今、治療と称して件の大型シリンダーに注がれた液体の中、漂っている。


 もっとも、治療というのも強ち嘘ではない。なぜなら、彼女の身体は通常の方法では治療できないからだ。

 なぜなら彼女はガイノイド。女性版のアンドロイドであり、純粋な人間ではない。それ故、本来人が持つ自然治癒能力などが極端に低い。

 もちろん、というべきか。彼女がもともと盛周の護衛。伴侶としてとなりに侍るために擬態用としてある程度の治癒能力は持ち合わせているが、それもあくまで表面部分のみ。内部の治癒は自力では不可能だ。

 ならばどうするか? その答えがシリンダー内に充満している液体だ。

 この液体、彼女専用に調整されたもので内部に極小の治療用ナノマシンが投入されている。それが彼女の体内に侵入、治療を行っているのだ。

 それに治療用ナノマシン投入の目的はそれだけではない。他にも目的がある、それは――。








「――体内にナノマシンを定着させ、完全なるメンテナンスフリー化するとともに、随時バージョンアップを行わせる、ねぇ……」


 バベル秘密基地、大首領の私室で報告書を受け取った盛周は、どこか胡散臭そうに資料を見つつ呟く。


「そうだとも。なによりあの娘の里帰りなど早々出来るものではないからね。なら、そうするのも已む無しだろう?」


 対して、盛周に霞の治療についての報告をあげたバベル四天王にして霞の産みの親の一人。青木奈緒は当然とばかりに自身満々な様子で告げる。

 もちろん盛周も彼女の主張は理解しているし、それが出来ること自体は疑っていない。だが――。


「しかし、その。バージョンアップというやつはすぐに行えるのか? ……俺には、すぐに行えるとは思えないんだが」


 そう自身が感じた疑問をぶつける盛周。

 そんな盛周に奈緒は笑いながら。


「はっははは。……そりゃ、当然出来る訳ないじゃないか」

「……おい」


 彼の疑問に肯定する奈緒と、そんな彼女をじと目で見つめる盛周。

 じと目で見つめられた奈緒は、色々な意味で身を震わせながら弁解の言葉を口にする。


「……んぅっ! まって、まって。別にからかっている訳ではないよ。ただ、あの娘の身体がある意味、さらに人に近づいたってことだから」


 彼女の言葉を聞いた盛周はしばし無言になるものの、興味を引かれたようで続きを促す。

 盛周による無言の催促を受けた奈緒は嬉々とした様子で続きを話しはじめる。


「なぁに、理屈自体は簡単さ! 人間の身体にも超回復というのがあるだろう?」

「筋トレをして、しばらく身体を休めると筋肉を付けやすい身体に変化する。というやつだったか?」

「そう、それ! ……まぁ、正確にはもっと色々あるんだけど、今回の本筋には関係ないから割愛させてもらうよ。まぁ、今回のことを端的に言ってしまうと、定着させたナノマシンで今後あの娘には自身の身体を自己改造してもらおうって話だよ」

「なるほど、それでさらに人間に近づく、と……」

「そういうこと。……まぁ、他にも仕込みはしてるけど、ねぇ」

「……? なにか言ったか、博士?」


 どうやら最後に奈緒が呟いた言葉は盛周に届かなかったようで、彼は疑問の声をあげる。

 そのことに関して奈緒は誤魔化すように首を横に振って否定する。


「いやいや、なにも言ってないとも。それよりも――」


 そう言うと奈緒は部屋に設置されている時計を見る。そして時間を確認した奈緒はポツリと呟く。


「――もうそろそろ、あの娘が目覚める時間かな?」


 そして奈緒は盛周に視線を向けると問いかけてくる。


「さて大首領、君はどうする? 私はこれから、あの部屋で、あの娘が目覚めるのを待つことにするけど」

「そうだな……。いや、俺は遠慮しておこう」

「……それは残念」


 奈緒はシリンダーがあった部屋で霞が目覚めるのを待つことにしたが、盛周はここに留まることを選択した。

 それは今だ盛周が大首領である、という確証を得ていない霞に、わざわざ情報を与える必要がない。という判断と、それ以上に。


「これ以上あいつを悩ませるのは、流石に忍びない」


 ただでさえ、もとバベルの裏切り者として苦労しているであろう霞に、さらなる心労を与えるのを嫌ったのも心の中にあった。

 その言葉を最後に奈緒は部屋を出て霞のもとへ向かっていった。

 そんな彼女を見送りながら盛周は。


「……女々しいものだ、本当に」


 と、自嘲するように呟く。

 それは自身の弱さを吐露するような響きが込められていた。

 しかし、いつまでもそのようにしているわけにもいかない。と、盛周は自身を奮起させ、今、己が出来ることに邁進するのであった。

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