憧れの空 【月夜譚No.170】
天には、手は届かない。
太陽に向けて広げた掌を、彼は虚しく地面に下ろした。こうして芝の上に寝転がって青い空を眺めているのは気持ちが良いのだが、そこに行けないのだと思うと、何だか悲しくなってくる。
彼は視界の端で動く影を捉えて、横向きになった。吹いた微風が背中を撫でて、少し擽ったい。思わず、溜め息が零れる。
どうして、自分だけが違うのだろう。他の皆と異なって生まれてきてしまったのは、前世で大罪でも犯してしまったからなのだろうか。
埒もない考えをして、更に自分を嫌いになる。けれど自分は自分で、他の誰かには成り得ない。
彼は眉根を寄せて、思い切って仰向けになった。
青い空――その中で数人の仲間が、背中の羽を大きく広げて気持ち良さそうに飛んでいた。まるで泳ぐように、すいすいと。
何故、自分の背中の羽はこんなにも小さいのだろう。自身の体重も持ち上げられず、これでは何の為についているのか分からない。
やはり、見なければ良かった。彼は一息に身体を起こして地に足を踏み締め、帰路に就いた。