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私、増殖中

作者: たなか

 ポコン、ポコンという何だか気の抜けるような音と共に、目の前の召喚陣から数秒おきに私によく似た何か(・・・・・・・・)が召喚され続けるなか、私は究極の選択を迫られていました。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 きっかけは古本屋でいかにも胡散臭い魔導書を興味本位で買ったことでした。そこには悪魔や精霊の召喚方法が微に入り細を穿ち説明されていました。ただ実践しようとしたところで、必要とされる材料はフェニックスの尾、ユニコーンのたてがみ、バジリスクの生き血など、どこで手に入れれば良いか分からない品で溢れていてどうしようもありません。


 そこで子供騙しだと決めつけ、本を放り投げて諦めてしまえばよかったのですが、私の中の好奇心が邪魔をしました。最も低級な悪魔グールの召喚には、たった一つ、ノームの髪の毛一房さえあればいいと書いてありました。どうして悪魔を召喚するのに精霊の髪の毛を使うのかは疑問ですが、とにかく私は自分の毛先をハサミで切って代用することにしたのです。


 何を隠そう私の苗字は野村。三分の二が被っていれば、イケるんじゃないかと思っても不思議ではありません。床の上に髪を置き、その周りに絵の具で本の通りに複雑な召喚陣を描いていきます。最後に召喚の呪文を唱えた瞬間、眩い光とともに床に亀裂が入り私の髪の毛が地の奥底に飲み込まれていきました。


 さらに召喚陣の文字がうっすら赤く光り始めて……ポコンという音と共に、私そっくりの何かが現れました。同じ言葉を繰り返しブツブツ呟いています。


「ううぅ……ううぅ……ごはん……たべたい……」


 更に数秒後、もう1ポコン。


「ああぁ……ああぁ……おにく……たべたい……」


 私に襲い掛かってきたりはしないようなので、どうやら彼女達は本当に白米とお肉が食べたいだけのようです。とりあえず、便宜上ノームラと呼ぶことにしました。


 嗅覚が優れているのか、私の記憶が残っているのか、見事に冷蔵庫と炊飯器を自力で探し出し、貪るように白米と魚肉ソーセージにかぶりついています。幸せそうで何よりですが、相変わらず召喚陣からは途切れることなく第三、第四のノームラが出現しています。


 説明書通りに従わず適当に扱った電子機器が暴走するように、どうやら召喚陣もおかしくなってしまったようで、無理やり文字を消して発動を妨害しようとしても、見えない壁に阻まれて触れることすら出来ません。


 私は人生最大の決断を下さねばならなくなりました。


 一つ、このまま増殖し続けるノームラ達に圧し潰されて死ぬ。ひょっとしたら術者である私が死亡することによって、この無限召喚も止まるかもしれません。


 二つ、もしかすると近い未来、世界を滅ぼす原因になるかもしれないノームラ軍団を野に放ち、自分はさっさと逃げる。少なくとも人を襲ったりはしませんが、このペースで増殖し続けるモンスターが、近いうちに食糧問題に直結するのは明らかです。


 最終的に、私は後者を選びました。だって、死んでも止まらなかったら、ただの死に損じゃないですか。元々人生に絶望していたからこそ、こんな得体の知れない黒魔術に手を染めたのですが、それとこれとは別です。それに大量のノームラによる圧死なんて、惨めな死に方ランキングのTOP10に余裕で入ってしまうと思うのです。


 ということで、近いうちにノームラがあなたのお宅に突撃となりの晩御飯させていただくかもしれませんので、その折には何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 先生の初期傑作「増えるタイプの悪役令嬢」に続く増えるシリーズ爆誕!? それにつけても、もし野村が、ティプトリー・Jrの「たったひとつの冴えたやりかた」を読んでいれば、人類は滅びなかったかも…
[良い点] ノームラさんはヨネ●ケ似なんですねそうですね。 大量のノームラさんに潰される、でドラえもんのバイバインで栗まんじゅうを増やしすぎたシーンを思い出したんですけど、 あれ、どうやって解決し…
[一言] えぇぇぇぇぇぇ! おしゃもじはどうするの? (そういう問題ではない)
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