グアンブリン島沖海戦・5
当事者の感想はそれぞれの視点で異なる
アルゼンチン海軍、元プレイエドン乗組ナタン・エストレジャスの証言
ー<<足柄>>の攻撃はどうでしたか?ー
『私の配置は艦橋右舷側のワッチでしたから、直接相手の方向を見てる訳ではありませんでした。どちらかというと戦闘前に、お前の配置は<<インディペンデンシア>>がどれだけ耐えているか報告する位置だ。と言われてました。そっちもそっちで撃たれていましたので、最初はこっちにも撃ってきたか!程度でしたが、それが一向に途切れないんですよ。実際は間隔があるのでしょうが、水柱があるでしょ?それが途切れないもんだからずっと嵐の中にいるみたいでした』
日本海軍、元足柄乗組藤森鳴尾の証言
-<<プレイエドン>>の攻撃はどうでしたか?-
『私は第一分隊でしたので、CICであっちの砲弾が飛んでくるのをモニター越しに見る事が出来たうちの一人でした。流石に海上での戦闘となると距離が距離なので戦車戦みたいに射撃即命中な事はほぼありませんし、私の役割は探知した砲弾、状況的に空中探知目的ならRで呼ぶんですが、Cで呼称していました。本来ならShellでSなんでしょうけれど、ソナー探知の目標と被るので旧記的なキャノンボールからそうなったと聞きます。私も砲術科の出ですからね、砲弾の出弾で言えば優良可不可の内の良とは言えるんじゃなかろうかと。恐ろしかったですね、訓練では想定でいくらかはやったことはありますけど、想像できますか?通常の対艦ミサイルの非ではない個数の目標が1分ごとに飛んでくるのを観測し続けるんですよ?近距離戦なんてやるもんじゃないと思いましたね。それに至近の着弾で船体も震えますしね。問題はそれだけではなくて・・・』
グアンブリン島沖・<<足柄>>
『C46~54、着弾します!至近、命中の可能性大!』
『よぉし、踏ん張りや!CIC操舵、舵をあてるで!』
テキパキと十文字は指揮を飛ばしつつ、モニターに小さくなりつつ表示される丸い円、落着予想地点を艦から遠ざけるように動かす。最後まで円はその幅を揺らしている、これは一定の誤差を除去できないからだ
ドドドドドドドドド!
そして林立した水柱を縫って、<<足柄>>が姿を現す。その姿に大きく変わりはない、が
『艦長!右舷艦首区画に浸水発生!』
『ちぃ、弾片被害か。船務長は応急班を編成、浸水を止めぇ!速力は絶対に落としたらあかん!』
十文字はそう命じてから爪を噛む。弾片被害か、場所から言って折角装備している装甲帯の外、<<足柄>>、ひいては妙高級の装甲帯はVLS弾庫までしか対応していない。弾片は飛び散るものであるから浸水量こそ破孔が開く命中弾には及ばないにしても、その蓄積していく浸水量と速度低下、特に艦首部は速度を維持する限りその圧力で傷が開いていきかねない恐れもある。厄介だった
『こっちのはどうや!』
『命中弾あり!水柱の反応が少ないです!』
敵側の砲弾探知にフル活用している対空電探に代わり、水上電探のほうを水柱を確認する形で弾着観測に利用している。命中したならば水柱は発生しない、簡単な仕組みだ
『よし!砲術よくやった!そのまま撃ち続けェ!』
頷いて電測士の肩をばしばし叩きつつ、砲雷科をアジる。ここからは我慢比べや、そして相手はこの殴り合いを主目的として建造された奴や、生半可にはいかんのは最初から分かってた事や
『続けてC55~63探知、弾道確認』
『応!上等や、勝負根性みせてみぃや!』
お互い速度が落ちて追随できなくなるか、主砲の方に問題が発生して撃てなくなるか。相手の意気をくじくという事にならなければそれは続く、海戦というのは度胸較べのチキンレースや!
『<<脊振>>の方はどうや?』
こちらもお互いに仮想敵として来た相手同士の砲戦だ。足元を掬われては堪らないので確認を行う。それが見れるだけでも戦術リンク様々であった
『事前の予測どおりの展開ではあります。先方は回避運動優先でやたらめったら舵を切ってを繰り返してます』
『流石にこうも回避に専念されたら、そうは当てられへんな』
つまり、時間がかかるという事だ。状況はこちらから変えていくしかない
<<脊振>>CIC
『と、思っているだろうねぇ。敵味方お互い』
画面を見ている阿久根がそう呟いた。そこまではお互い想定どおりの戦況、そこを変えるのは被弾の状況のみと、焦れる展開を耐えるしかない。本当にそうだろうか?<<脊振>>にキャスティングボードがない?どうにも不愉快に思える。こういう所が胆力が無いと言われるところなんだろうが、あれだ。私も仲間に入れてくれよ、というやつだネ
『艦長、意見具申』
『どうした砲雷長』
空溝が答える。この人は胆力があり過ぎるからねぇ。耐えると言う意味では深堀前艦長にして現司令よりも耐性があるんじゃなかろうか
『6・3射法を実施したい』
『分火射撃をここでか?』
何を馬鹿なと言った口調で空溝は返すが、顎に手をあて具申を吟味する。この場面で阿久根が無意味なことを言ってこない相手である事を理解しているからだ
『戦闘中だから手短に説明するが、交互射撃の亜種だヨ。6発を観測に使い修正、その射元で射撃を継続するのが交互射撃だが、この射法は』
『回避を行う相手を常に6発で観測し続けながら撃つと言う事だな』
さすが理解が早い、と空溝に阿久根は肯く。ただ、当然ながら本射が3発・・・継続的に回避行動を行う相手の運動エネルギーは消費し続けているので、観測の射弾も命中を期する事に近くなりはしようも、命中弾数の期待値は下がる。だが、現状で当たる事を優先するならこれだろう。正直なところを言えば、一番有効なのは主砲門数的に12門を持つモンタナ級向きなやり方ではあるのだが
『許可しよう。ただし注文がある』
阿久根は首を傾げた。注文とはなんだろうか
『残弾が厳しいだろうが、弾種はHEをあるだけ使え、ここで使い切ってしまって構わん』
『・・・了解』
空溝には何か思うところがあるのだろう。阿久根は反論せず矢継ぎ早に指示を出す。彼女の見立てがなんであるかは分からないが、同級の相手にHEを使うのはそれなりに意味があるのだろう
『さて、上手く当たってくれよ』
そうひとりごちて、空溝は画面に視線を向ける。それは現在の砲戦を監視している対砲・対水上レーダーの画面ではなく、遙かその先を映し出す対空レーダーを見つめていた。その視線には、船務長の綾部が気付く
『艦長?』
『新時代の海戦がどのようなものになるか、考えた事はあるか?』
綾部にも空溝の言っている事がわからなかった。新時代?確かに対砲レーダーなどを使っての砲戦が現在進行形で行われているが、それが空溝の言う新時代の海戦でない事は確かだった。ここに来て、いわゆる技術の延長線上には無い事象、そんなものがあるのだろうか?
『R目標探知、IFF照合、民間のヘリです!距離450、本艦の針路方向北、真っ直ぐこちらに向かってきます!』
タイミング良く対空レーダーの担当が振り向いて報告する。フィルターがあったとしても火山の噴煙がいつエンジンを痛めるかもわからないチリ本土から!?しかもこちらは戦闘中だと言うのに!?
『民間機と回線を繋ぎなさい、早く避退させないと。こちらは戦闘中なのよ・・・!?』
一体どこの馬の骨が、と綾部は青ざめつつ、矢継ぎ早に指示を出そうとするが、それを止めたのは空溝だった
『その必要はないぞ、船務長。警告はできても、我々にはそれを止める強制力はない』
『民間機がオープンチャンネルで、我々はCNNの報道ヘリだとわめいています!』
CNN?米国系列の放送局だ。よりによってそこが出てくるとなると尚更面倒な手出しは出来ない。しかし、今更になって出て来てどうするというのか
『各艦に通達、民間機には手出し無用、好きにさせろとな』
『艦長!?』
先ほどの言葉もあわせれば、この状況は艦長にとって折り込み済みなのだ。しかしそれがどういう意味であるかというと
『艦隊戦の実況中継を放送させるのですか!?』
『そうだ。そしてそれが私なりの答えだ』
新時代の扉、報道の手段とレベルは時代が上がるにつれて高度化して来ている。フォークランド諸島紛争で航空攻撃をかけるアルゼンチン海軍の航空隊が撮影されたように、従軍報道も同様に進化していく。つまり、第三者に見られながら海戦を行う事は、少なくとも水上戦闘艦にとっては十分にあり得る話なのだ【海戦の見える化】はすぐそこまで来ている
『<<インディペンデンシア>>に命中弾!』
『よし、良いぞ砲雷長』
さっそくの命中弾に空溝が喜色を浮かべる。HEでの命中弾はさぞ外面的には派手に見えるだろう。火災など起こせば尚更だ。そして、それを見せたい相手は・・・
同刻、ブエノスアイレス・アルゼンチン大統領府
『海戦の実況だと!?』
大統領府内、歴史的なピンクの色を持ちブエノスアイレスの中心街にある建物内でその怒声は響いた。軍閣僚を集めて協議していたキャビネットルームにはテレビが無いので、応接広間の方に移動となったのだ。既に艦載機の被害による空母の撤退の許可を出し、水上部隊の状況に気を揉んでいたところにこれだから当然の反応とも言えた。あくまで軍司令部を経由しての情報を得るのが筋だったから、想定外も想定外だった
『おい、BBCでもなくCNNじゃないか。なんでこれを許可している!?リアルタイムか、これは!?』
『これはアメリカの許諾済みという事なのか!?大使館に連絡をとれ、急げ!』
スタッフも実態を把握し、慌てて動き始める。今現在戦闘している事は報道されていたとはいえ、空母部隊の損害は損害の大きさもあって、市民にはまだ情報提供すらされていなかった。そこを飛び越えて海戦の実況が南米全域に向けて、お茶の間へ提供されている。海上をのたうつ<<インディペンデンシア>>が<<脊振>>が、<<プレイエドン>>が、そして<<足柄>>が咆えている。炎が渦巻く、火勢をあげているのはこちらの方、それでもなお戦っている
『大統領、<<インディペンデンシア>>が・・・燃えています・・・』
『おお・・・』
燃え落ちる城塞。猛々しく戦っているそれは、いつ無くなってもおかしくない。軍事独裁政権を維持する権威の没落に等しい。駄目だ、駄目すぎる、これを続けてはいけない。航空機を失った空母は空母がある限りどうにかし続けられるが、彼女らの死はそれだけのインパクトがもたらされるのは間違いない。アメリカはこれを許容している。駄目だ、駄目だ、駄目だ!
『撤退だ・・・全部隊を撤退させろ!火山への対応は余技だ!ここで水上部隊を全て失うわけにはいかない!』
『閣下!現地部隊は戦闘の最中です。それにまだ戦闘の結果が出ているわけではありません、損害の程度もただ火災がその重篤度を必ずしも示すものではありません!』
海軍の補佐官がそう応える。だが彼は分かっていない。これは・・・我々の政治の問題なのだ。我々が政権を運用する上で基盤が崩れかねない。軍の道理でだけ事が進むわけではない!
『見てください!<<ブレイエドン>>の射弾が命中しました』
『おおっ!』
ワールドカップのサッカーの実況よろしく多くのスタッフがかぶりつく画面では<<足柄>>の後部に白く噴煙があがっている。大統領は一方の<<プレイエドン>>を見返す。度重なる被弾でその美しい艦影には破壊の痕がところどころに目立っている。一点返したところでどうだと言うのだ
『大統領!』
外務省から出向の補佐官が、メモをもって駆け寄ってくる。そのメモを受け取って一瞥するなり、大統領はわなわなと震え、応接広間のソファーへへたり込むように座った。あまりの憔悴に、盛り上がったスタッフたちも何事か、と大統領へと視線が集中する
『中止・・・中止だ!大統領の命として、我が国はチリと南極に対する介入を中止する・・・!』
絞り出すように言葉に出した大統領の手からメモが落ちる,。そこには
【大将軍、一命をとりとめ、チリ米大使館にて意識を回復】
と、記されていた
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