グアンブリン島沖海戦・2
グアンブリン島沖・<<足柄>>CIC
『どないや状況は?』
『やはり湾内にいるよりかは正常化してきています』
仄暗いCICの中十文字は電測員のモニターを覗き込む。身長が比較的低いせいか割り込むように見えるが、日常茶飯事なのだろう、電測員も慣れたものだ。カルブコ山噴火による降灰が始まったことで、クラッターが増えて処理が増えるのは防空体制上避けたい事案だった。また、沖合に出れば沿岸からのクラッターも排除できる。一応南に下ったときにデータは回収しているが、ないならない方がいい。深堀はそこまで考えて<<足柄>>以下の艦艇をそうさせていたのだろう。ウィングに出れば地獄めいた空模様の中にいるであろう<<脊振>>の方をみやる。あちらはあちらで合戦用意とカルブコ山への再砲撃の為の射表を作成中だ。言うは易しで崩壊点を作るとして噴火を誘発しないように加減しつつとなると相当な計算が必要となる。求められる仕事が高度過ぎるでほんま
『よし、ほならうちらはうちらの仕事を済ますで。EMCON解除、電波を贅沢に使っていくで。大盤振る舞いや!各方面にも伝え』
『了解です』
あちらさんが航空攻撃をかけてくることは既定路線、防空艦としてこの<<足柄>>の本領発揮の場面だ、ケチってる場合ではない。<<足柄>>には10㎞ほど後方に距離を置いて<<夕雲>>が続く、同じく10㎞左右には<<氷雨>><<霧雨>>の2艦が控える。<<親潮>>は<<背振>>の対潜警戒に回ってもらっている。補給艦の<<大瀬崎>>は<<黒壇>>と<<白蓮>>が直掩について離脱してもらっているからこの場にはいない
『さて、あちらさんの技量はどんなもんやろな』
『こちらでの反応、未だありません』
その回答に十文字は頷く。やはり覆域下、高度を下げて侵入してくるか。及第点ってやつや、舐めてかかれる相手やないな・・・せやけどな
<<こちらキングヘイロー、Rコンタクト。<<足柄>>より南西方向、数28、距離200、送る>>
そう、<<背振>>から借り受けたキングヘイロー、AEWヘリがルックダウン性能を保証する。そのリンクによりCICのスクリーンには輝点が一気に増大する。強力な電波を出しているのは<<足柄>>だけではない
<<R1からR12増速、高度上昇中>>
『キングヘイローを狙いに来る。そうやろうなぁ、目標は明確や』
強力な電波を出すAEWは高価値目標として涎の出るような目標や、ここで狙わんわけない。うちらにとっての一番の目玉や、潰せば絶対的に優位に立てる。けれど、それはこっちにもお見通しな話なんやで。なんも対策しとらんと思うたか?
『じゃあ始めよか、セイウンスカイに回線を繋ぎや』
該当海域より100㎞西方 <薩摩管制航空隊:セイウンスカイ>
<<はいはーい、待機時間はベストでしたねぇ。さっすがキング、勝負所は外さないねぇ>>
実の所、大使館からの脱出行に対して高松宮はギルバート諸島まで進出していた第三艦隊は5航戦の薩摩から、給油機を繋ぐ形でイースター島までAEWの星雲を1機と、空中給油を連続で成功させて到達することのできる技量を持つ1小隊を進出させていた
本来なら大使館員を回収した時点で撤収して良いのだが、それをしなかったのは高松宮の温情だった。とはいえ、そのペイロードは長距離進出のため長距離AAMを胴体下に4発のみと他は増槽というものだった。小隊で言えば12発のそれが切り札だった
<<いけるか?>>
<<仕掛け抜群ですからねぇ。やれると思いますよ>>
今、キングヘイローと<<足柄>>が強い電波を出している。つまり、そこに重ねてこちらの電波を投げかけても気付きにくいという戦術的奇襲を吹っ掛けようとしているのだ。そしてAEWとしての能力も、星雲とアルゼンチンが保有するE-1と較べたらこちらが探知距離や解析能力等でも優位であるだろうという推測も十分に立てれた。分のいい賭けと言えるだろう
<<ブレイズリーダー、交戦を許可します。指示目標、R1からR12。斉発>>
<<・・・R13からの目標は良いのか>>
ブレイズリーダーの言い分は正しい。キングヘイローは<<足柄>>近傍に陣取っているのだから、<<足柄>>が接近する戦闘機と思しき目標を迎撃して、<<足柄>>のレーダー覆域下にない攻撃機の方をこちらが攻撃したほうが理にかなっている。確かにそう。でもですねぇ
<<にゃはは、ブレイズリーダー、星雲って海軍内に予備機含めると100機以上いるんですよ、で、海鳥のAEWっていまんとこ何機いると思います?>>
<<知らんな>>
でしょうねぇ!部内政治に関心が無さ過ぎなんですよ貴女は。天才だから自分にはそのシートが絶対に回ってくると考えてるし、ギャルっぽく言うとちょーごーまーんって感じですねぇ
<<20機いないんですよね、確か。そんな椅子を勝ちとるような人がですね・・・ただの人だと思います?>>
<<・・・>>
<<怖い女ですよ、油断しちゃあいけない>>
しばしの沈黙の後、返信があった
<<ブレイズリーダー了解、指示の目標、斉発。フランソワ3踊らせるぞ!>>
フランソワ、日本が使うフォネティックコードでのFにしかすぎないが、そこに数字の1、2、3がそれぞれに付随する事から、搭乗員達の間ではその読みが先行してミサイル投射戦を回避運動も含めて【踊り】とこの頃は称していた。一種の流行りである。12本の白い軌跡が空中に伸びていく、音速を超えるそれはあっという間に見えなくなり
<ベインシコ・デ・マヨ航空隊:EAA>
それは完全に奇襲となった。敵のEAWヘリを排除すべく高度を取ろうとしたシュヴィヤール指揮する戦闘機隊は、運動エネルギーを消費した状態で12本の鋭い矢を受けることになったからだ。ロックオン警報が鳴った時にはもう遅い、<<足柄>>とは違う方向からの一撃は、まさに慮外の一撃であっただろう
<<全機!散開!散開!ペイを捨ててダイヴしろ!>>
目ざとく気付いたシュヴィヤールの無線もむなしく、何個もの爆炎が空中に花開く
<<隊長!戦闘機隊が!>>
『ちぃ、世代が先の戦闘機が出て来たらこれか!』
反応から見れば10機近い味方機が失探している。長距離AAMの一斉発射でなければ現出しない状況だ
『どうします!?』
複座のため同席している相棒が困惑気味に聞き返す。まだあちらに戦闘機がいれば、自分達も危うい。どれだけいるかもこちらからはわからない
『行くぞ、引き返すとしても追撃があれば二度目の攻撃が出来るとは限らん』
ミサイルを抱えた俺達じゃなおさら逃げられない。ならば突貫して目標に投射した方が任務の目標にも添うことが出来るだろう。航空機と言うのは基本的にその場にずっと居続けられないという特性を考えればタイミングは此処しかない
<<全機、突っ込むぞ!元から容易な相手ではなかったはずだ!気合い入れろ!>>
<<了解!!!>>
全機が同意を返してくれる。衝撃こそあれ、すぐに調子を取り戻すのは誇り高きアルゼンチン海軍航空隊の統率が高いレベルにある事を示している。そしてその様子を、キングヘイローを通して高空から見つめる瞳があった
脊振・CIC
『・・・<<足柄>>、大丈夫そう?』
青白く照らされるCICの戦況図のモニターには、<<足柄>>へと向かう輝点が映し出されている。亜音速の機体であるからそこまでの速度ではない
『この輝点がある限りは大丈夫だよ、綾部君。事はスムーズに進んでいるよ』
綾部の問いに阿久根は楽しそうに答える。船務長としては声を掛けるのもはばかれたが、根が心配性の為か阿久根に問いかけたのだ。そしてそれに対する阿久根の答えは明確だった。水平線下の敵機が探知できているという事なのだから、それは正しい。だが、情報が正しいからと言って対応できるかはまた別の問題となる
『それと、もしかしたら勘違いしているかもしれないが、この仕掛けを言い出して来たのはキングヘイローの方さ。まぁ、君らが旨い紅茶を飲みに行っていた時だから知らないのも当然だが。驚いたね』
航空支援を受ける算段がほぼつかないという事から、阿久根は阿久根として航空脅威にどう対応するか考えていたのだ。それは軍事情報として米海軍も新型艦戦(F-35)等の配備と並行して進めているという情報から、個人的に情報収集していたものだ。だが、先制して言い出して来たのはあちらの方だったから、まあ驚くのも致し方ない
『元々ファイターパイロットからリタイアして来た人よね』
『飛べば飛ぶほど知能指数が下がる。とまでは言わないがね、この艦に居させるには勿体なさすぎる。この任が終わったら後方の教育畑に移すべきだね。絶対に必要になる』
その阿久根の言葉には、流石の綾部も驚く。ここまで彼女が他人を手放しで褒めるのを初めて聞いたからだ
『始まった』
不敵な笑みを崩さず、阿久根はモニターに示された3つの輝点。<<足柄>>からの対空ミサイルのそれを見つめる。釣られるように綾部もモニターを見て違和感に気付く
『始まったって、まだ射程外じゃない。<<足柄>>は何をして・・・まさか!?』
『ご明察の通りだよ、綾部君』
思えば当然の話であった。帝國海軍は戦艦を諦めなかった。それは核戦力や重厚な空母戦力を保ちながらも排水量では1.4倍18隻の戦艦を保有する米海軍や、大和級を超える砲を搭載する守護聖人級4隻を保つ英海軍に対抗することを必要とされていたのだから。その為にいかにアドバンテージを作るかを試行錯誤して予算を投じて来た。そしてそれは新素材の装甲板や弾の補給に利するパッケージラックなどに結実した。それに加えて
『海鳥の主任務は弾着観測も含まれている。特に電子装備を強化したAEWタイプは水平線の向こうを飛ぶ誘導砲弾の最終誘導を担う役割もその一つ。なら、対空ミサイルを誘導したっていいはずだろう?』
<<R14、16、17撃墜判定>>
モニターから輝点が消える。これは彼らにとって二度目の奇襲となったはずだ。相手からみて水平線下にありながら撃墜されるなんてのは晴天の霹靂に違いない。しかし、彼らの攻撃意思は翻らない、ぶれることなく直進を続ける。回避行動で攻撃可能地点まで到達出来るまでの時間を長くしたくなかったのだろう
『彼らはミスを犯した』
『そうね』
楽しそうな表情を変えない阿久根に、少し悲し気に綾部は同意した。先ほど<<足柄>>が放った3発という数は、限界誘導数ではない。それは
『交互撃ち方による試射、そして目標に過たず命中した。ならば!』
『観測後急斉発』
綾部の言葉が終わると共に、輝点が一気に九つ増える。これは呆れるほどに砲撃の手順を則ったものだ。それに、誘導も導きさえすればミサイル自体の捕捉誘導機構もある。技術的には出来合いの物しか使っていない。それがこんな・・・相手は回避運動もないほぼ等速の亜音速目標、撃墜難度は高くないとなれば
<<撃墜!撃墜!全弾命中!>>
流石の事態に、<<足柄>>の電測員の報告も熱を帯びている。こうもカチっとハマればそうもなろう。だが、キングヘイローのリクエストはもっと完璧であった
『なるほど、三斉射目は回避行動を見越して通常の対空射撃と同様に一目標に2発、それでも8発に収まる。完璧だわ』
『だろう?かつ、使った誘導弾は20発に収まる。<<夕雲>>の誘導弾は使ってもいない』
<<キングヘイロー!キングヘイローが纏めて撫で斬った!>>
放たれた8つの輝点は残された4つの輝点と重なり、すべて消える。電撃的な結末、共同交戦能力(CEC)とはこれほどまでにも効果的であるのか。現海域の経空脅威は大幅に減少した。これで我々を阻止できる存在はアルゼンチン海軍の水上艦艇群に絞られる事となる
『さぁ、決戦といこうじゃないか』
もはや悪魔的な笑みを浮かべつつ、阿久根の言う通り、状況はエスカレートの頂点へと向かって加速していくのであった
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