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シャドウブレイク

ギルバート諸島沖上空




 どこまでも青さが広がる南国の空に、日光を鈍く反射する白色の機体が3機、その翼を広げていた。A14K2、砕風改と呼ばれる艦載機の群れが、ジェットの轟音を気持ちよく響かせている



<<はいはーい、空域に入ったようだし、ここからは皆さんのお耳の恋人、セイウンスカイが今回はお届けするよ〜>>



 その陽気さに当てられてか、間延びした声が無線機越しに聞こえてくる



<<・・・おい、アパッチはどうした。お前はうちの隊附きじゃなかったろうが>>

<<ちょっと成田ブレイズリーダーさん、相変わらずブリーフィングのはなし聞いてなかったんですか?アパッチは熱発で搭乗割が変わった話してましたよね?>>



 セイウンスカイというのは、AEWである星雲にそれぞれ割り当てられたコールサインで、スカイ・アパッチ・フォーカスの名前が彼ら、空母薩摩の管制航空隊には充てられていた。そしてブレイズのサインを与えられた砕風の編隊もまた薩摩の艦載機である



<<もーうっ!だから摩耶言ったのにぃ。その話聞いたらアパッチさん泣いちゃいそう>>

<<知らん。穴太あのう中佐の話は長いんだ。私は飛べさえ出来ればいい>>


 そんな会話をしつつ、機体を揺らす。特にブレイズ2のコールサインを持つ幼稚さが残る彼はおかんむりのようだった。


<<まあまあお二人とも、ちゃんとコールサイン使ってないとその穴太中佐から大目玉ですよ~。バッチリこっちから流すことも可能なんですからねぇ>>

<<・・・聞いてやる>>



 どうしてこう、戦闘機乗りというのは自分勝手な人が多いんでしょうかねぇ、と。セイウンスカイの方も呆れつつ、出撃内容について再確認を行う事とした



<<ことの発端はアパッチさんが管制した時に、虚探知をかなりされた事に起因するんですねぇ。で、探知した目標に航空機を向かわせてもコンタクト出来ない。これが続いた事でだいぶ自信を無くされたみたいで>>


 

 CAP(空中戦闘哨戒)中の小隊が振り回され過ぎれば、戦時ならばともかく、燃料消費が増えるので飛行甲板(フライトデッキ)のサイクルがタイトになるのはいただけない。そのリスクを負った上でやってみたものの成果は得られなかった。それがアパッチさんを追い詰めていた


<<んで、こう言っちゃなんですけど、ぼくらとしてもアパッチさんにそこまで能力的におかしいとか感じたことはないんですよ。それなら、アパッチさんは何かを探知していたんじゃないかと>>

<<前置きが長い。さっさと言え>>



 本当にこの人はもう。あの理詰めの美輪参謀の妹なんでしょうかねぇ。言葉尻が強いのでセイちゃん少し苦手でーす



<<つまり、周辺にステルス機が居るんじゃないかって事です。ですから、お三方には距離を開いて同時にレーダーを発信して貰うという寸法です>>

<<あ、わかっちゃった。ただ虚探知だけを追ってたアパッチさんは反応の強弱で距離を見誤っちゃったって事?>>



 かわって僚機のブレイズ2は飲み込みが早い。セイウンアパッチが小隊を送っても捕捉出来なかったのはそのせいだろう



<<ですので、多方向から電波を当てて同一位置の違う虚探知(コンタクト)を観測していけば、じゃじゃーん!見えない戦闘機のおでましおでましー、となるかもしれません。という事です>>

<<・・・チッ面倒だな。対レーダーミサイルの良い(マト)だ>>



 舌打ちしましたよこの人!?まぁ、実際編隊組んで長機だけがレーダー発信をしたり、AEWにそれを任せるのはそれを避ける為でもあるし、アパッチがさせなかったのもそう。苦労してたんだねあの人、後でなんか差し入れしてあげよっと



<<その面倒事を増やさないよう、今回見つけて情報収集しとけば楽になりますから。方位、送りますよ。レーダーの発信についてはそれぞれのRIOさんにも伝えてありますので、心配ご無用でーす>>



 ステルス、まではいかなくても低RCS化はどこでも流行りですからねぇ。取れる時のデータは取っておかなくちゃ



<<ブレイズリーダー、了解(コピー)2、3、散開(ブレイク)>>

<<ブレイズ2、アイコピー>>

<<ブレイズ3、ま、何もなければ名前の通り日光浴でもするさ、アイコピー>>



 さてさて、まだまだ魚はうろついてるでしょうかねぇ。釣り上げることが出来るといいんだけど。どうでしょ。もし、もっと成果をあげようと考えるなら、艦隊の方に近づいて、艦艇からの発信を誘発まで出来れば万々歳って感じだろうから、そうは問屋をおさせたくはないなぁ

 コンソールのモニター上に散開するブレイズ編隊のプロットが移動していく。実際の所、空は常にレーダー上でクリアというわけではない。雨雲にだって反応するし、なんだったら海上の波にだって反射して影を返してくる。だから虚探知自体は免れない。それを全部表示して居たら何もかもがパンクしてしまうからフィルターにかけるわけだけど、その目を変えながらすくいあげるのが戦術航空士タクティカルコーディネーターの役割だから、そのセンスが大事なわけ



45分後



 目的の無い飛行というのは人を退屈させる。かといって飛行機を振り回して機動マニューバを行えば燃料は食うし疲れもする。未だセイウンスカイからの発信の指示は来ない



<<おい、あたりが無いなら引き上げるぞ>>

<<こういうのは待つのが大事なんですよー、それに、あたりが無いというと、ちょっと違うんですよ>>


 怪しい虚探知はあった。だが、まだ釣りが足りない。もう少しこちらに寄せてから発信ピンを当てたい


<<どこだ>>

<<言ったら台無しにしちゃうでしょー、もー・・・環礁ラグーン上に雲がかかりやすいのは知ってますよね。そこの陰に沿うように動いてるので紛れやすいんですよ>>



 相手も馬鹿じゃあない、ちゃんと警戒をしてるからそういう所を飛んでる・・・と思う。おそらくはこれであるとは思うけれども確信はない



<<なら、そんなに高度は高くないな>>

<<もう少し待ってくださいねぇ。あちらも基本的には電波を弾きやすい機首方向をこちらに向けようとしてると思うんです。それなら、ぐるっと回ってこっちを向くはずです>>



 そして、その環礁より南は英領だし、北側かさらにぐるっと一周して東に抜けるコースをとるしかない。この虚探知が十中八九米軍だろうけれども、そうであるならば帰れなくなる。が、ここでバレて雲中にでも入られたらそれでもうおじゃんだ。雲中は航空機にとってとても快適な空間ではないが、紛れるのには適している



<<・・・セイウンスカイ。そいつだけか?>>

<<へ?>>


 唐突な成田さんの問いに、頭の回転が止まる。単機、おそらく単機だろう。ステルス機なら複数機としても編隊の間隔を広くして反応が重なったり多くなったりしないようにするはず。いや待て待て、さっき私はなんて考えていた?艦隊への接近が出来れば万々歳、となればこの高度が低い目標にブレイズ編隊を全部送ってしまうと、当然発信の範囲は狭くなるわけだから、もし、もう一機がいるのなら、ここからさらに奥に踏み込むことが出来るだろう



<<もう一度聞くぞ、そいつだけか>>

<<・・・少し時間をください>>


 そう、相手だって空母機動部隊の艦載機が相手だとわかってやっている。ならば策ぐらい練ってくるはずだ。相手がこれまでの成功で慢心しているという前提は確かにおかしい。探知している目標のプロットを見つめる。怪しいのはどれだ。どれがそうなのか


<<むー、リードはこういうとこ野生の感でずるーい!>>

<<精進するんだな>>


 悔しいが確かにそうだ。まだ相手が居る可能性は捨てきれない、そしてそれは


<<怪しい反応が積乱雲の上にあります。高度一万二千。こっちはとても雲には入れないでしょうから、追うなら楽ですね>>

<<なら、釣れるな>>


 そう。いるのがわかって追うのと、そうでないのは全然違う。そして低空を回る虚探知のそれが適度な位置に回ってくる。これを追えば、あっちは深入りしてくる。そこを捕まえる。だましのテクが使えるのはそっちだけじゃないぞ



<<・・・発信、開始してください>>



 これまで星雲の一か所からの発信だった電探が、その数を4つに増やす。特にイエロートムキャットと呼ばれた砕風にはそれを支えるだけのレーダーが積まれていて、その発信は強烈であった。RIOがそのデータを星雲へと流し、その影を追う



<<ブレイズ2と3はそのまま降下、頭から相手を押さえてレーダーを当て続けてください。ブレイズリーダーは降下すると見せかけてから目標に誘導しますので、高度の高い方に食らいついてください>>

<<食らいつけ、か。上等だ>>



 嬉しそうな言葉が返ってくる。その餓狼のような反応と同じように、降下速度を足した速度をもってブレイズリーダーは大型の機体を切り返させる。その見事さはこちらから見てもほれぼれするほどだった。まるでその首元に食らいつくようだ



<<ねーねー、どんな気持ちー?あ、写真撮っとくね、ユーコピー?>>

<<こいつ、おもったより回らないな>>


 降下したブレイズ2や3もうまくやっているようだが、やはりというか空力的に近接格闘戦には劣るようで、それはもうくるくる纏わりついている。あれは本当にやりにくかろう



<<どうした!この空にもはや隠れる影は無いぞ!>>



 そしてこっちは完全に重なる勢いで食らいついている。こうなってしまうと相手は新型機だ、事故を起こして機体を散乱させるわけにもいかないから、打つ手がなくなってしまう。となれば

 電探が新たな反応を捉えた。通常の反応である。それが4機最大速度に近い速さで接近してくる



<<みなさーん、どうやらお楽しみの時間は終わりのようですよー。キャッチ&リリースをお願いしまーす>>



 出迎え機を寄越して数的有利にしてくるしかないよね。まあ、これが敗北宣言というやつです。だいぶあっちのアヴィエーターも絞られるだろうなぁ、と少しだけ同情する。後はお互いに所属を明かしてお終い、という流れである



<<コンタクトした。あちらはUSSジョン・G・タワーと名乗っている>>

<<了解。挨拶はお願いしますね。こっちはデータを母艦に送りますので>>



 写真の方は撮った機が母艦に戻ったら現像されて各所に配信されるだろう。一般にもメディアリリースされるかもしれない。一仕事終わったのだ

 こうして、X-35、後にF-35と呼ばれる事になる機体の最初の露出がこのギルバート事件となった事は、その運命を大きく動かした事に違いなく、またステルス機の運用には大きなノウハウが必要と再確認が行われた。かつ、既存機側にも対ステルス戦術を確立する必要があるとされ、様々な施策が活発化した事は言うまでもない




影、まずは破れたり




 だが、技術と人はあらゆる問題を踏み越えていく。その先がどうなるかは誰にも見通せてはいなかった



感想等お待ちしております

マーベリック前にこのネタは先に出しとかんとあかんかったんや!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >X-35 流石にA-12とかじゃなかったか そう言えば太平洋戦争がないとアメリカの航空機産業の勢力図とかも変わってきそうですね。もしかしたら史実とは名前だけ同じの別物になってる可能性…
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