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タッパの違いは戦力の決定的な違いであらへんで!

フロワード岬沖、足柄




 残骸が浮かぶ海域をヘリを駆使して避けながら足柄を旗艦とした啓開部隊はマゼラン海峡西口から侵入し、一路補給地点であるプンタアレナスへと向かいつつあった。周辺の海流と残骸が浮かぶ海域を記録していけば、今後行き交う船舶の事故を避けることが出来るはずだ。そうなれば継続的に交通網を復帰できる。国家にエネルギーを循環することが出来るのだ



『気に食わへんなぁ』



 これまでの航海は事前に予想されてたよりも順調に進んでいるのだが、肝心のその長は不機嫌そうにお猿の腰掛と呼ばれる椅子に座って頬杖をついていた。海峡を進むとなると、艦長はCICから艦橋に出てくるのが常だ。ましてや、このマゼラン海峡は強風で知られる海の難所だ。幸運にも晴れて穏やかであるため、艦長直々に舵を取るまでには至っていない。そくささと生贄役の従兵が声をかける



『実際ヘリは役に立ったじゃないですか』

『気に食わんのはそこちゃうわボケ』



 この啓開部隊は足柄・氷雨・霧雨の3隻からなるのだが、村雨級の2隻がヘリ格納庫を持つ汎用駆逐艦で、この足柄にはベアトラップのみで固有の搭載機はない。が、駐機スペースはあるので、背振が2機搭載するヘリのうち1機を短期間ならばという判断で露天駐機のうえで3機体制として運用していた。何故か背振に借りを作ったようで艦長の十文字の機嫌も悪くなったわけだが、それは個人の感情でしかないので置いておく。現在も太平洋側の残骸把握に1機が飛び、1機が整備中、1機が待機状態にあった



『気付かへんか?ここのところ居た漁船がいきなり減ったで』

『え?』



 海峡入り口までは産油地であるからプンタアレナスからの漁船・・・場合によっては漂流物の金目の物を回収する浚渫(サルベージ)船ともいえるだろうか。が、思った以上に海に出ており遭遇していたのだが、それが先ほどから一気にいなくなった。

 こういうのは、けして悪いことはしていないはずだけど、道路で警察車両を見かけて、あっやべ、近寄らんとこ。となる精神に近い。ならば、海上で警察車両に近い何かとなれば



『フロワード岬の陰に艦影!』

『さぁて、どこのどいつや。国籍艦種識別急げ!』


 パシッと両の手を打ち鳴らすと、十文字は立ち上がって岬の方を見据える


『目標はアルゼンチンの軍艦旗を掲揚!識別、該当艦は巡洋艦プエイレドンに近似!増速しつつあり!』

『フォークランド紛争の立役者かいな!』



 プエイレドン。元は米海軍に在籍していたデモイン級3番艦のニューポートニューズだ。フォークランド紛争時、部隊からベルグラノを損失しつつも指揮下の駆逐艦を2隻割いて対潜制圧させつつ急行し、フォークランド諸島の防衛陣に加わったことで上陸作戦をとん挫させるに至った経緯がある。ポイントを稼ごうとしたそのあとの機動部隊による航空戦でも、ハリアーは勇戦敢闘したものの、圧倒的多数のタイガーに駆り立てられ、このままでは艦隊が逆にアルゼンチンによる航空攻撃を受けると判断がくだされ、撤退する羽目になる。時の第一海軍卿からサッチャーはその責任を問うた時に『You get what you pay for.』と言われたらしい。どうもその話自体は、唯一戦果を挙げたコンカラーが帰港時に掲げた海賊旗を新聞に叩かれた時点で出てきた話なので、信憑性には欠ける。しかしそれは余談か



『艦番号視認!プエイレドンに間違いありません!接近中!』

『おうおうチキンレースか!懐かしいなぁ!こっちも増速せぇ!僚艦は速度落として距離を取れ。周辺に他の船舶が無いか、ようけ確認しときや!』



 国際海峡中で何を、という話ではあるが、公海上でお互いの針路を譲らないという駆け引きはどの海軍国でもしており、場合によっては衝突による圧し合い押し合いにまで発展することはままある。手荒い歓迎やんけ!と、もてあましがちな制帽を被り直し、十文字は鼻をすする。マゼラン海峡波高しや!



『艦長!相手は1万8千トンですよ!?』

『やかましい!こちとら坂田の金時の足柄様やぞ!投げ飛ばしたらぁ!』



 相手は足柄の排水量と較べて二倍近い、高雄以降の日本防空巡と較べても1.5倍近くある。どっちがぶつかれば負けるかは言わずもがなであるが、腕を組んで自信満々に十文字は立ち尽くす。深堀のようなお上品なだけが帝國海軍じゃない事をそろそろ見せつけてやらんとあかん。舐められたら軍組織はそこで終わりや、そこのところがわかっとらんねん



ビーッ!ビーッ!



 そこにけたたましく警報音が鳴る。その音響に関しては、十文字にとっても意表をつくものであった。これは、そんなバカな!



<<CICより艦橋!プエイレドンより連続波(CW)!射撃照準レーダーです!本艦を照射!>>


『総員戦闘配置!対水上砲雷戦用意!上等や!』

『艦長!まさかやる気ですか!?』



ビーッ!ビッ・・・ビーッ!ビーッ!



 各員が慌ただしく配置に就く中、引き続き断続的に照射の警報音が鳴り続ける


『当然こっちからは撃たへんわ!あっちが撃ってきたら咄嗟砲撃!CIC!砲雷長はCIC指示の目標で構わずぶち込んでやりや!通信長!あらゆるバンドで誰何し、記録せぇ!砲旋回はまてぇ!』


 ひったくるように艦内電話のマイクを取ると、CICに対して反撃の用意を十文字は用意させる。要はここが吹っ飛んでも良いようにする準備だ。この距離、既に彼我は10㎞を切っている。乱打戦になれば、発射速度こそ自艦の単装8in砲が上回るが、あっちはあっちで9門の8in砲が叩きつけられる事になる。こっちは前後に2門しかない



ビーッ!ビーッ!・・・ビーッ!



 プエイレドンから発せられる射撃照射レーダーの電子の波は、未だ断続的に足柄の船体を打ち続けていた。艦内電話のマイクを乱暴に戻した十文字の動きがぎくり、とした動きをして止まる。そして警報機の方を見て、再びマイクを取り上げる


『CIC、確認や。照射レーダーの妨害にECMなんぞまだ命じておらへん以上、しとらんよな?』

<<実施しておりません。電波状況は彼我共にクリアです>>



 それを聞いて、警報機の方を向いて十文字の顔がゆがむ。いまだ警報機は断続的に警報音を流しており、それが意味することに何か思い当たる事があるようだ



『戦闘配置を解く!取舵10!大陸側に寄せて通る!』

『艦長!?』


 しかし、唐突に戦闘配置の終わりが告げられては、部下の方は意味が分からない


『野郎、射撃照射レーダーを通信手段に使うやつがあるかい!アホか!』

『な!?』


 そう、断続的に流れる警報音は照射に合わせて長短の音を鳴らしていた。それで自身の進む方向をこちらに伝えていたのだ。言わずもがなであるが、これは危険かつ非常識な手段である。そういう事をしているから南米きっての狂犬国家と言われてしまうのだ!と、愚痴をこぼしてしまいそうになるのをぐっとこらえ、相手がそれをした意味を考える。照射レーダーは当たり前のことだが、探索レーダーと違いその目的の為に指向性の高いレーダーとなっている。

 つまり、かなり漏れにくい会話を行う事ができるという事だ。前線の兵員同士が持つチャンネルを持ちたいというのは、統率にあたっては褒められたものではないが、これがある事で避けられた戦もありそうな話だ



『艦長、プエイレドンが右舷側を擦過します!』

『よっしゃ、舵もどーせー!』



 テキパキと航行の手順を踏みながら、艦の態勢を立て直す。こちらからの誰何には答えないが、引き続き警報音はなり続ける。その意は



貴艦トノ邂逅ヲ祝ス、ヨキ航海ヲ



 どの口が・・・!と、艦橋の誰もが顔を歪ませる。続く僚艦とタンカーにはちょっかいをかけることもなく、プエイレドンはマゼラン海峡を抜けていった。おそらく左回りにベーグル海峡経由で本国に戻るつもりだろうと思われた。その後、部隊はフロワード岬を過ぎると60㎞ほど北上し、プンタアレナスに無事到着する事が出来た。本当に顔見せだけが目的だったようだ



『大男、総身に知恵は回りかねとかいうもんやが、なかなかやるやないけ。ええわ、次は完膚なきまで叩き潰してやるさかい、覚悟しとき』



 その中で十文字の顔は、狩るに足る相手を見つけたとばかりに餓狼の表情を浮かべて、過ぎ去ったプエイレドンの姿を見据えていた

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― 新着の感想 ―
[良い点] そりゃまあ不倶戴天の敵が半身不随になってるのにアルゼンチンが動かないはずないですよね。ローマ教皇呼ばなきゃ… [気になる点] ハリアーと文中にありましたが、これってアルゼンチンの機動部隊相…
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