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復旧計画

レロンカビ湾、脊振




 イースター島を経由した第31統合任務部隊は、一路目的地であるプエルトモントへ無事到達したのだが、市街周辺の状態は酷いの一言ですませる事すら許されないような状況だった。

 地震発生からはや2週間目に至ろうかという現地なのだが、殆ど復旧にすら至っていない。むしろ、ガソリンが足りなくなって作業を行うべき重機やヘリの稼働がほぼ無くなっていて、食料の不安に晒されながら治安の悪化に自分達ではどうすることも出来ない絶望感の中で、現地行政府は完全に麻痺していた。

 惨状の上では直接津波の被害を受けた太平洋側の海岸部はさらに目も当てられない状態で。まず、手をつけていられない。というのがすぐに海陸、現地行政府での共通認識で得られるのに時間はかからなかった。

 プエルトモント市長のミスター・アッペン氏からは



『我々には、もはやどこから手をつければ決めることが出来ない。だからこそ外国軍である諸公の皆様が、ただ効率に依って復旧作業に当たってもらいたい』



 と、憔悴し切った状態で参加した最初の協議で言質をいただいた。為政者として屈辱だろうというのに頭を下げる事の出来る御仁だ。大事にしなければ。

 そのためには市長との通信ラインを構築する事。これは我々にフリーハンドを与えたからといって、市長が中身を知らないという事を避けるためだ。あしざまにいえば、市長は知っていた。というスケープゴートになるための措置でもあるが、市内の丘陵の上にある市庁舎に無線機を設置し、相互回線を構築する。これは持ち込んできたこちらの民生無線機でどうにかなる



『例えていうなら今、チリ共和国という国は人体でいう血栓が動脈で至る所に発生している状態で、しかもそれは破裂して出血し続けているようなものだねぇ』



 これは被害の状況報告を大まかに読み込んだ阿久根砲雷長が漏らした言葉だが、これが一番しっくり来る表現かもしれない。

 だが、幸いにしてかチリは人体ではない。そして造血器官はその足元、地震や津波の被害が軽微で済んだ最南端の第12州、その州都のプンタアレナスに隣接するフエゴ島北部に、チリが唯一保有する油田があり良質で知られている。また、製油所も小規模ながら存在する。ここからの供給が一番現実的であった

 プエルトモントは港町であり本来であれば船舶でも賑やかな街であったのだが、地震と津波によって周辺港湾が軒並み破壊された為、洋上にあった船舶は燃料に余裕があるものは北上、あるいはプンタアレナスへと退避しており、プエルトモントにいる船舶は軒並み残燃料に乏しく、かつ津波で流出した沿岸部の資材や土木で船体に傷を負った船も多く、利用出来る船舶は限られた


『それで、あたしの出番って事ね』


 機関長の目白中佐がそれぞれ運用に耐えうるか確認を行っており。一番状態の良いオイラーに護衛をつけて送り出す。これがまず我々が行う最初の仕事になるだろう。護衛が必要なのは、同じく補給が途絶えているプエルトモント側が出し渋る可能性に配慮するのもあるが、洋上の浮遊物などへの警戒が必要になるからである。このSLOC(海上交通路)の打通をもってプエルトモント市の民生力の復旧をはかる



『陸軍は当初の目的であった民生支援計画をすべて廃棄するのだ』



 一方、陸軍の神幸軍団長はというと、協議でまとめられた被害状況の報告を受け取るなり吐き捨てるように当初予定を白紙に戻した。そしてドン!と机に両手の拳を叩きつけ、憔悴しきったアッペン市長の手を握ると滂沱のごとく涙を流した


『今、民生支援をしても、手持ちの物資を消費してそれで終わりなのだ。それではこの酷い状況をただただ傍観しただけになる。市長、許せないのだ!それだけはこの帝国陸軍の神幸は軍団長として絶対に許せないのだ!』

『では・・・一体どうするのです?』


 神幸は地図に市長を招き寄せると、マーカーで一気に首都のサンディエゴまでプエルトモントを線で結んだ。


『国道5号線、このパンアメリカンハイウェイの大動脈を最優先で動かせるようにするのだ!それ以外の事をするのは、まず捨て置くのだ!』


 そう、この最近すべてのアスファルト舗装が完了した状態に優れる道路さえ動くようになれば、そこから櫛の歯のように海岸部へ向けて、いや、今回の震災復興については山津波の分もあるので肋骨のように支援の手を伸ばしていくことが出来るようになる。また、沿岸の港湾が使用不可能である以上、サンディエゴからの復旧の手が伸びてくるのもこの線からになるだろう


『市長!今から我が軍団がする行動は直接市長、ひいては民間人を助くるものではないかもしれないのだ。それでも、絶対に明日が来るために必要なことをしていくのだ!だから、もうしばらくだけどうか、生き抜いてほしいのだ・・・!』


 そういってバシバシと神幸はアッペンの背中を叩き、力強く抱きしめる。それにアッペンもウンウンと頷く。なるほど、共感力。称揚力ともいうべきか、するべき演技・・・演技ではないのかもしれないが、それが出来るのがこの神幸軍団長なのであるのだな


『それで、できうる限りで良いのだ。市長が伝えられる範囲で、国道五号線と市内を繋ぐサルヴァドール・アレンデ通りには、車を駐車したままにしないでくれと伝えて欲しいのだ。我々はその復旧を行うけれども、その交通を阻害するものを可及的速やかに火力を含む手段で除去していくのだ』

『わ、わかりました』


 つまり本題はこれだ。恐らく街道上には、例えば周辺地域から家財を積んで道路に乗ったものの、道路の寸断や給油の可否で立ち往生している車両が累積しているのは目に見えている。これの排除をするわけだが、当然他人の財産であるわけでしかも命からがら逃げてきてのそれは、全財産を失いかねない選択を強いるという話だ。アッペン氏は解っているのだろうか


『・・・処理の際には写真か映像での記録を取る事を明文化したらどうか』

『っ!そうですね、そうしてもらいたいです』


 誰が難の為に排除したのかがわからなければ保証のしようがない。本来なら紙面なりなんなり用意するところなのだろうが、それを現場で用意するのは手間であるし、行政の人員を割く余裕もなかろう



『本部大隊附きの捜索中隊を投入するのだ。偵察を目的とする部隊で写真撮影はお手の物なのだ。だから安心するのだ』

『は、はい!どうかよろしくお願いします!』



 それで最初の協議と共に復旧計画の初動の打ち合わせは終えたわけであるが・・・さて。どうだろうかな。現状が悲惨なのは理解しているが、懸念事項の一つが未だに払拭できていない


『司令。やはり政府は混乱してるようだ。連絡が繋がるまで時間がかかるとの事だ』

『・・・駐在大使とのやり取りもなかなかできないのは良くないな』


 尾栗参謀が報告書を持ってくる。頼んでおいたチリ政府との連絡網の構築の件だが、日本大使館はサンティアゴにあり、チリの大統領府もサンティアゴにあるのだが議会中で政府は議会のあるバルパライソで被災し津波に飲まれている。

 大多数の議員が犠牲になる中でも大統領は健在でバルパライソで指揮をとっており、各回線は沖合に戻ってきたチリ海軍のエスメラルダと米海軍のブエナビスタの中継を経て繋げているような状態だから、我々だけの回線ではないので途切れがちになるのは致し方ないが、神幸軍団長が言い出した、大学設備の宿舎化についての問い合わせに、オソルノ市にあるロスラゴス大学の本学に連絡がつかず、サブキャンパス長の判断に任せるという投げやりな回答を得た後はなしのつぶてである


『・・・』

『どうした?思うところがあれば忌憚なく発言してほしい』


 参謀が考えているので、話を促す


『司令。何故大統領はバルパライソから首都に戻らないんだろうか。津波で被害を受けた都市から艦艇を経て通信を行うより、まだ被害の少ないサンティアゴに戻った方がいいだろうに』

『うん。それは正しい・・・だが』


 この問題は根深い、議会がバルパライソに移動してきているのは既存の軍事政権時代のしがらみから離れるためで、わかりやすく言うならば平城京から長岡京に遷都して旧来の寺社勢力や貴族と物理的に距離を置くというのと同じだ。復興作業によりその主体となる陸軍のパワーバランスが強くなる。特に首都サンティアゴに戻っての指揮は危惧するところが多いのだろう

 そしてそれを、外国軍たる我々が指摘して移動するように言うのは内政干渉の極みだ。どこまでやるべきか。いや、何が起きるかを想定して動くべきか


『蜀犬日に吠え、呉牛月に喘ぐ、というのを見たのは漱石だったかな』

『司令?』


 まだ事は起きてはいない。ならば、今一番強いカードを手に入れる事から始めればいい。そしてそれはエネルギーであり、もうすでに我々は動いている。そしてそれが現地のチリ国民にとっても良い事だと私は信じる


『引き続き連絡調整に参謀も手を尽くしてほしい。艀の手配、それに食料関連の備蓄、冷凍倉庫を含むキャパシティの確認。チリ国民に対して出来ることはまだまだある。優先順位をそちらに回す』

『・・・わかった』


 ここより我々の災害支援が始まる。何が今後待ち構えているかはまだわからないが、今そこに横たわる都市には死が蠢いている。これを食い止めるための血液を、なんとか循環させるのだ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何事も想定通りにはいかない点。 とんとん拍子に進むと楽ですが、戦争にせよ災害にせよイレギュラーな事態が発生する事こそが普通であるべきですよね。小説書いてるとどうしても忘れがちになりますが……
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