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最悪の魔女は幸せを知る  作者: 涼邪
第一章
9/13

9


「呼んでよ。俺の名前を。お前だけが呼べる、俺の名前を」


アイディークの真剣な瞳がリリーアジュを見つめる。


「あ、あの…」

「俺は嬉しいよ。リリアがアークって呼んでくれるの」

「私も!私も、リリアって呼んでくれるのは嬉しい」


本当に嬉しかった。お父様以外に愛称を呼ばれるなんて想像してなかったから。


「俺の身分がバレて、魔獣討伐隊のリーダーでもあった俺のことを、もうアークなんて呼んでくれないと思ってたから」

「なんで?」

「だって、俺はお前にずっと隠してたんだぞ?嫌われると思ってた。けど、リリアに初めから言うと逃げられるとも思ってたから、申し訳ないとは思っているが、後悔はしていない」


確かに。あの時の私だったら、アークから、実は王族。実は討伐メンバーのリーダーとか言われたら、萎縮してたわ。それに絶対にアークだなんて愛称も呼ばなかったと思う。


「なぁ、リリア」

「どうしたの?」

「俺の恋人になるのは嫌か?」


はい?


リリーアジュの目は点となり、口を少し開けて固まってしまった。

間抜けな顔だと自覚しているが、あまりにも衝撃で頭の中の整理がスローモーションになってしまったからだ。と言い訳をしておこう。


「な、にを言って…?」

「好きだよ。リリーアジュ」



リリーアジュの瞳に映るアイディークは、冗談ではなく、本気で言っている。

本気で言っているからこそ、適当に返事をしてはいけないと思った。


「私、アークといると落ち着くの。とても安心する。けど、それが恋や愛なのかが分からないの。自分の気持ちが分からないまま、アークに返事をすることはできないわ。だから、ごめんなさい。もう少し待ってくれないかしら」


そう言うと、アイディークは、ふぅーっと息を吐いて、肩から力を抜いた。


「えっと、アーク?」

「いや。断られたんじゃなくて安心したわ。待ってるよ。リリアの気持ちが整理できるまで。けど、少しくらい手を出してもいい?」

「手!?」


ボンっと顔を真っ赤に染めるリリーアジュを見てアイディークは笑った。


「うそうそ。冗談だよ。けど、その反応は脈ありだな」


サンフラワー色の綺麗な瞳が細められ、こちらをジッと見つめる。


これは、あれだ。

さっきも聞いた、色気と言うやつだ。

だから、細められた目だけで、こんなにドキドキするんだ。


「さて、長くまで留めてしまったな。俺も帰るから、家まで送ってやるよ」

「それは大丈夫よ。お父様が待ってると思うから。それより家って、アークの家はここじゃないの?」


隣に寝室もあるのよね?王城に住んでるんだと思ってたのだけど。もしかすると、ここは仕事する上でのアイディークの部屋なのかも。


「こんなところに住めねぇよ。硬っ苦しい。ちゃんと俺の屋敷もある。今度招待するからおいで」

「わかったわ。ありがとう!」


リリーアジュは少しウキウキした気持ちで席を立った。

城門までアイディークが送ってくれると言うので、ありがたくお願いした。

来る時は瞬間移動したので、ここが何処なのか、わかっていなかったので助かった。


確かに助かったのだが…


外までの道のり!色んな人がジロジロ見てくる!!

城内だから、多分王族やアークの関係者とか、王城で働いてる人とかなんだろうけど!!


しかし、次第に人々と目が合わなくなってきたし、内緒話もなく、皆見て見ぬふりをしている。


急になんでだ?と思ったが、アイディークを見て、答えがすぐにわかった。


アイディークの目が怖い。

睨まれただけで心臓が止まるのではと思うほど、とても怖い目をしていた。


それは、言えば冷徹の狼モードだった。


「どっちのアークが本物?」


優しい笑顔を浮かべるアイディークか、睨んだだけで人を殺せそうなアイディーク。


「残念ながら、どっちも俺だよ」


自分だけに向けられる優しい笑顔に再びダウンさせられるリリーアジュだった。




王城の門に近づくと、そわそわしているライデンがいた。ライデンはリリーアジュ達に気付くと早足でこちらに向かってきた。


「リリア!!」

「お父様!!」


お互い抱擁している姿を知らない人が見ると、まるで何年かぶりの再会のように見える。が、実際は数時間離れ離れになっただけだ。


「大丈夫だったか?何もされていないか?」

「えぇ!大丈夫だったわ!アークがいてくれたから」


後ろからゆっくり歩いてきたアイディークにライデンが笑いかけた。


「そうですか。やっと正体を教えたのですね」

「あぁ。流石にリリアも冷徹の狼は知っていたみたいだ」


魔術のことに関しては人一倍知識があるが、世の中のことには疎いリリーアジュ。

アイディークの言葉に少しムッとしたが、事実なので黙っておいた。


「さぁ、暗くなる前に早く帰れ。今日は疲れただろ。明日も招集があるから、ゆっくり休めよ」


メンデランス家の馬車が近くまで来て、御者が扉を開いてくれたので、乗ろうとした時、アイディークが、あ、そうそう。と思い出したかのように声を出した。


「ライデン。ドロリシア侯爵に気をつけろ。特に、あそこの令嬢、ベルナーラにはな」

「御意に」


ライデンは眉間に皺を寄せながら、去りゆくアイディークに礼をした。

少し顔色が悪くなるリリーアジュ。

そして、顔をあげたライデンは爽やかな笑顔になっていた。


「リリア。何された?」


アーク!?お父様になんてことを!!


「なっ、なんでもないわ!!」

「へぇー。なんでもないのに、あの方は気をつけろと言ったのか…」

「いや、その…」

「アイディーク様は嘘つきであったのか…」

「い!いいえ!そんな!とんでもない!!」


このままだと私のせいでアークが悪者になるじゃないの!!お父様が意地悪だわ!


「なら、どうしたのかい?」

「う…うううう」


観念したリリーアジュは馬車の帰り道でホールで起きた出来事をライデンに話した。

話終わるときにはライデンの顔から怖い笑顔は無くなっていた。


「そうか。流石アイディーク様だ」

「…お父様は…アークとは…」

「そうだな。私の大切な兄上のたった1人の愛弟子だ」


ライデンはどこか懐かしそうに、寂しそうに見えた。

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