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あれから週3回くらいでアイディークが来て色々な魔術を教えてもらっていた。
本にないような魔術を沢山教えてもらい、様々な知識がついていった。それらもすぐに覚えたリリーアジュだが、二つ同時に魔術を使うことだけは、とても時間がかかった。
なにせそれが載ってる本があまりない。
魔術の本は何百冊か家にあるが、載ってるのは数冊しかない。しかもそこには、『2つ使えることもある』のみで、やり方なんて全く書いてなかった。
アイディークに聞いてみても、
「んー、感覚?なんつーか、んー、ひょいひょい?って感じかな?」
意味がわからなかった。
それ故にコツがうまく掴めずにいた。
やっと何となく分かった時に初歩的な小さい火と少しの水を出せた。
出せた時にアイディークのひょいひょいって感じって言ってたことが分かった。
意味が分からなかったが、アイディークの言ってたことは本当だった。
そうやって、月日がいつの間にかまた一年過ぎていた。
魔獣討伐まであと1年。
そろそろ一度、魔獣討伐メンバーが招集されるはずた。
「どうだ、リリア。三重の結界張れそうか?」
「5回に1回成功するくらいだわ。アークみたいに上手く出来ない」
いつからか、いつの間にかお互いを愛称で呼ぶようになっていた。
毎日魔術を頑張っていても、アイディークが初めて見せた魔術までのレベルには追いつかなかった。
しかも、アイディークの年齢は自分より5歳年上だった。もっと上かと思っていてのは内緒だ。
聞けば、自分の年の時にはすでに空間ずらしの魔術も使えていたそうだ。
恐るべしアイディーク魔術師。
しかし、何故そんな凄い魔術師なのに、世間では有名じゃないのか…
本人に聞いても、隠してるだけ。としか返事が来なかった。
「ほら、リリア。これも食べてみろ。タルト好きだろ?」
授業後は必ずと言っていいほど、アイディークの用意したケーキなどを食べるティータイムがある。
「ほら、あーん」
「…」
しかも、この1年でアイディークとの距離がすごい短くなったと思う。
前までは対面に座って、リリーアジュが食べているのを見ているだけだったのに、今では横に座って、何故か楽しそうにケーキを食べさせてくる。
リリーアジュにとっては、目の前にきたケーキをひたすら食べる時間だ。
その間、アイディークはずっと優しい笑顔を浮かべているだけだ。
ちなみに、アイディークの笑顔の破壊力にはまだ慣れていない。
その夜にメンデランス家に封筒が届いた。国王の印がされている封筒だ。
ライデンがそれを開いて手紙を取り出す。
そこには討伐メンバーを一度招集させる内容だった。
場所は王城にて、日時は1週間後の午前中。
「リリア、自信を持つんだ」
アイディークよりも隣にいた時間が長いライデンはリリーアジュの成長を誰よりも知っている。
「いいか。何を言われても気にしないように。リリアは素敵な私の娘だ。私の宝物だ」
「はい、お父様」
私は本当にいいお父様を持った。
嬉しくて涙が出る…
「もしも、リリアの悪口を言った者がいたら、そいつの名前をしっかり覚えて、私に報告するんだよ?いいね?」
…お父様、その方をどうするおつもりですか?とは怖くて聞けなかった。
「アーク…とうとう討伐メンバーの招集がきたわ」
授業後のティータイムでリリーアジュが呟いた。
「もうそんな時期なんだな」
「私、魔術を沢山覚えたわ。魔獣相手には怖くないの」
「そうだな。リリアは魔術の覚えがとてもいい。綺麗な魔術を発動できる」
「でも、怖いの」
人が怖い。
他人の目が怖い。
「大丈夫だ」
隣にいたアイディークはリリーアジュの頭を撫でて、胸元に引き寄せた。
「アークっ!」
「俺が守るから」
恥ずかしかったのは一瞬。
どこで、どうやって守るのとかあるけど、アイディークの『守る』と言う一言は何故か安心感があった。
「大丈夫だ」
次にアイディークに会えるのは、討伐メンバーの招集後日だ。
それまで、今を満喫しよう。
そう思い、リリーアジュはアイディークに抱き返した。
「っ!?」
アイディークはまさかリリーアジュが抱き返してくれると思わず、目を見開いてしまった。
動揺しているのをバレないよう、落ち着け、落ち着け!と心の中で叫ぶ。
自分の胸の中に抱いているリリーアジュには幸いにもバレてないようだ。
この可愛い子は俺をどうしたいんだ。
とか思いながらも、アイディークはリリーアジュから手は離さなかった。
「アークって、何者なの?とても安心するわ」
…。安心する…だと?
「今頑張って落ち着けって心に呪文唱えてるのに、なんでそんな発言するのかな〜」
「え?」
「んー。何でもないよ」
これじゃ手が出せないわ。
「可愛いな、リリアは」
「もう!アークったら!」
顔を真っ赤にして、恥ずかしいのを誤魔化すかのようにアークの胸元をぽかぽか叩くリリーアジュだった。