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その3

アレス皇国、その顛末です。

とんでもない教皇様の宣言が出されました。

創世の女神の加護を受けるロードリック王国。


王侯貴族も一平民も変わらず女神を敬い、感謝をささげる。

毎日の営みを女神に見守られ、生を受け、生きていく。


そんな日々を女神に祈りつつ穏やかに毎日を過ごす、ロードリック王国。


女神の加護を甘く見ていた諸外国に、その鉄槌が下される。

それは信仰の女神と言えど同じこと。

歪みは正されなくてはならないから。


・・・・・・・・・・


「あんたたち、アタシの従者にしてあげるわ!ありがたく思いなさい!」

そう宣言した幼女は、アレス皇国の教皇、ヴァネッサ・フィランコーズ。

第127代の女教皇である。

教皇の任命は大司教が受ける神託によって決まる。

通常は5年に一回執り行われる大祭で神託を受け、継続か新任かが明らかとなる。


当初、選ばれるのは貧民にもいたらしい。だが近年は貴族がほとんどで、大祭が近づくと大司教への差し入れが増え、その多寡によって決まるのでは、ともっぱらの噂である。


去年の神託により選ばれたのは、皇国の伯爵位にあった少女だった。

元々わがままだった少女の性格が更にひどくなっていくのは当然で、今や皇国内でも問題視する声が上がっている。

その問題児教皇が謁見の間で発した言葉は、まさに爆弾だった。


宣言後、広間は沈黙に支配された。

国王は絶句し、王妃は気絶して連れだされた。側近たちも動揺していたが、約半数は顔をしかめて教皇をにらみつけたりため息を落としたりして、こうなる事態を予測していた節が見える。

女教皇一人が得意気に胸を張り、一行を無遠慮に眺めてはにやついている。

「うん、結構見られるじゃない。偶然だけど来てよかった」


「なあ、あの幼女やけに色気づいてないか?」

小さな声でゲインズがささやく。その表情に嫌悪感があるのは否めない。

「よくもまあ、行動を許されるものだな」

ジェミニが吐き捨てるように言う。

「この無作法を咎めきれない周りがいかんな。権威と礼儀は成り立つものだ」

トーマスも呆れたようだ。

コルフォートは黙って教皇を観察し、次いで玉座に目をやる。

「アレス皇国王、これは一体どういう仕儀だろうか」

熱も何もない、平坦な声だった。が、一行は察してしまった。

コルフォートは今、怒り心頭に発しているのだ、と。


「コ、コルフォート殿……これは」

「我が国は貴国とは比ぶべくもない弱小国家ではありますが、このような扱いを受けるいわれなどないと思いますが?」

「そ、それは確かに…」

「それとも、そう扱ってもよいと神託でも出ましたか?」

「……!!」

「ならば我が国もそれなりに迎え撃たねば失礼でしょうね」

「まっ、待ってくれっ……」

「何をごちゃごちゃ言ってるのよ。国王と話すよりアタシとおしゃべりしましょ。さ、ついてらっしゃい」

強引に話に割り込み、自分一人で決めて出ていこうとする。

その奔放さ、というかわがまま度合いに一行は呆れを通り越して気の毒な子を見る目になった。


そのまま2,3歩行ってついてこないことに気づき、不機嫌な顔を向ける。

「何よ、さっさと来なさいよ。聞こえないの?」

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」


「お、お嬢様っ!いけませんっ!!」

突然、廊下から走りこんできた侍女が縋り付く。

「国王陛下の御前でございます、許しもなく入場されることはかないません!」

「え~、どうしてよメリッサ。アタシの方が偉いんでしょ、いいじゃない」

「偉いとかそういう前に、手順を踏んでください!お嬢様は朝起きて顔を洗う前にお食事を召し上がりますか?外出されるときに靴をお履きになりませんか?手順を踏むとはそういうことです」

「ふ~ん、そうなんだ。でも誰も怒らなかったよ」

「お嬢様に言っても無視されますでしょう」

「そんなことないもんっ!」


女性陣も顔を見合わせため息ラッシュ。

「あれが今代の教皇か?世も末だな」

シャロンが首を振る。

「あんなお子ちゃまを選んでどぉすんだろうね」

ミーシャが呆れ。

「いくら人を選ばないと言っても限度がありましてよ」

カリーナの目には人とも見えていない。

「本当に信仰の女神さまの基準は分からないですわ」

フェリシアも弁護できないくらいのひどさだった。


「ねえねえメリッサ、それよりもあの男たち、アタシの従者にするよっ」

いきなり言い出すわがまま教皇。

「え、どなたです…か…?………はあぁぁっ!?」

教皇の指さす方を見て最初は不審そうに、その後顔色を一気に青ざめさせた侍女。

どうやらこちらの身分を知っているようだ。


「お、お嬢様っだ、だめです、絶対にいけませんっっ!!」

「え?……メリッサ、どうしたの、真っ青だよ?」

「あ、あの方達は、ロードリック王国の方々です!従者などとふざけることすら、できない方達なんです!」

「ロードリック王国?ああ、あのちっさい弱い国ね。それならますますいいじゃない。この国の方がずっと大きいもん。いう事聞かせちゃえば問題ないでしょ」


「お嬢様!何と、いう、こと、を……!」

絶句し、涙をはらはらと落とす侍女をそこに残して教皇はこちらを向く。

「ねえ、小さい国よりアタシの方が力あるわよ。お金あるし、贅沢だってできるし、やりたいことがなんだって出来るんだから。アタシの物にならない?」


途端に空気が冷えた。男たちもそうだが、女性陣の威圧がすごい。

皆一様に笑顔を浮かべているが、シャロンはそれに殺気が、ミーシャは闘争心が、カリーナには悪女の笑みが乗っかっている。

そして、一番顕著なのが……。

「フェリシア?」

いつも浮かべる笑みがきれいに消え、無表情になっていた。


「な、なによう、あんたたち」

それはわがまま教皇にも分かったようだ。わずかにひるんだようだが、

「そ、そんなにそいつらと仲がいいんならあんたたちも侍女にしてあげるわよ。それでいいでしょ?」

更にやらかした。


侍女は言葉もなく、教皇を腕に抱え込む。

「く、苦しい。……メリッサ?」

「お嬢様。あの方たちは皆様の婚約者様……それぞれ侯爵家、伯爵家のご令嬢様方です。これ以上は口を開いてはなりません」

「え…………うそでしょ?そんな……」

爵位を聞いてやっと状況が分かったのだろう。わがまま教皇の顔から血の気が引いた。


「教皇様には初めてお目にかかりますわね。わたくしカリーナ・バートルードと申しますの」

妖艶にほほ笑むカリーナ。いつもならやらない流し目まで加えている。

「初めてのお目通りですわねっ。ミーシャ・ティノヴェルです。よろしくぅ?」

上目遣いに妖精のすごみが見て取れる。

「お初にお目にかかる。シャロン・アッカイドだ」

二ッと笑った口元に漂うのは殺気だ。おまけに手は剣の柄にかかっている。

「「「よろしくしないけれど、ご挨拶まで」」」

ハモリまではやりすぎと男たちは思うが、邪魔をする勇気もない。


そして、最後に。

「わたくし、フェリシア・ユーノストと申します。教皇様におかれましてはご冗談がお好きなようですけれど、どうやら我が国をご存じないようですので、さもありなんと思いましたわ。無知では仕方ありませんものね」

ふふふと含み笑いをして見せるフェリシア。但し、目は座ったまま。


「な、何を……もごっ」

「お嬢様っ。お静かになさいませ」

何かを喚こうとした教皇は侍女に口をふさがれた。だが、もう遅い。

「教皇様は信仰の女神さまの神託にて選ばれたお方。凡人のわたくし共から言えることはございません。ですので、モノ申すことが可能なお方に来て戴きましょう」


「な、なあシャロン、何が起こるんだ?」

「よく見ておいて、私の将軍様。あれは彼女しかできないことなんだ」

「すっごいんだよぉ。楽しみにしててっ」

「フェリシア?いったい…」

「駄目だコルフォート。邪魔はするな」

「し、しかし!」

「トーマスの言うとおりだよ。今は見ているしかない」

「ええ、そうですわ」


ひそひそ話す一行から少し前に出たフェリシア。

顔をやや上に向け、両手を広げて。

そのままでしばし動きを止める。そして、


「おいでくださいませ、創世の女神クレアミール様!!」


高らかに呼ばわった。


その声に応じて、光の筋がフェリシアにまっすぐ届き。

まばゆく輝いて、収まる。


フェリシアの形を借りた別のナニカをそこに残して。


虹色の光のベールを足元にまで垂らし、姿がはっきりと見えない。

ただ、すべてを見ていることは、この場の誰もが分かった。

分からされた。


『我はクレアミール、創世の女神。要請に応じ、顕現した』


女神という存在感が放つ圧に、誰もが膝をつき、頭を垂れる。

理屈ではない。高次元の存在への畏怖がそうさせるのだから。


虹の『存在』は辺りを見回し。

正面に居る教皇とその侍女を焦点にする。


『……今代の教皇、信仰の女神の依り代がこれ、ですか。身分以前にヒトとして未熟な者を選ぶとは、制度か人が腐りましたね』


音を身体全体で聞く、そんな『声』。


『これは元からやり直しせねば。ヴィヴィアラッテ、これに顕現せよ』


声に応じて、またしても一筋の光が降り注ぐ。

教皇を抱えた侍女の上に。

全身を震わせ、硬直して立ちすくんだ侍女を教皇は驚きの顔で見上げる。

「メ、メリッサ……?」

そして光が収まると、そこには侍女の姿に重なるようにもう一人、金色の巻き毛が盛大に渦を巻く女性の姿が映し出された。


『ふぅ~~っ、大司教の任命がないと疲れるんですけどね、この顕現は』

『それは貴女がしっかり管理をしていないせいでしょう。自業自得です』

『ははっ、そう言われてしまうともう言い返せないですねぇ』


「ねえ、メリッサ!あなたメリッサでしょ、何を言ってるの!?」

『今代の教皇と指名された者ね。心配いらないから、少し待っててくれないかな?時間かかるとこの依り代に負担がかかっちゃうから』

「ん、うん、待ってる…」


『で、クレアミール様。この不始末についての処罰を受けに参りました。いかような処分も受け止めます。ご存分に』

『そう。原因は承知しているようだから問いません。まずはその幼児(おさなご)の身の振り方を第一に、5年ごとの教皇指名について正しなさい。後はロードリック王国への干渉を止めること。これ以上の諍いは無用です。そのことを成し遂げるまで、貴女の神界入りを認めません。この国にとどまり、行く末を見届けるように』

『仰せのままに』


頭を下げたままのヴィヴィアラッテに軽くうなずき、次にコルフォートたちへ向き直る。

『我が愛し子たちよ。今回の試練、よくぞ乗り切りました。これからも皆の力を合わせて進んでいくように。私は常に見守っています。精進なさい』

「お言葉を賜り、恐懼に耐えません。これまで以上に己の身を慎み、国を守っていくことをお誓いいたします」

代表してコルフォートが謝辞を述べ、一同で頭を下げる。


それにも頷き返し、『存在』は再び光の筋となって天へ帰る。後に残るのはフェリシア。

ふっとその体から力が抜け、倒れ掛かるのをコルフォートが両腕に受ける。


フェリシアがうっすらと目を開けた。

「大丈夫か、フェリシア?」

「……ええ……少し、疲れただけですわ……」

「もういいから休むんだ。君は十分に役目を果たしたのだから」

「はい、コルフォート様……」

ふっと微笑んで、フェリシアは意識を失った。そのまま腕に抱え上げ、コルフォートは玉座を向く。

「我々の役目は終了したように思う。この場から退出させてもらうがよろしいか」


「う、うむ。いや待て!このままでは申し訳が立たぬ。どうか、どうか!せめて婚約者殿が回復するまででよいから王宮に留まってもらえないだろうか!?」

縋り付かんばかりに頼み込まれ、それもそうかと了承して移動を開始する。


謁見の間を出る際にわがまま教皇の様子を窺うと、信仰の女神の依り代となった侍女を頼りなげに見上げたままでいるのが目に残った。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



後日。アレス皇国から正式に謝罪とそれに伴う品々が届けられた。あれから教会の大掃除を敢行、貴族たちからわいろを得て私腹を肥やしていた大司教は、女神直々に断罪されて北の森近くの教会へ移送されたという。そこは大森林の境界でほぼほぼ処刑を命じられたと同義の扱いだとか。


わがまま教皇はその権限を剥奪し、人としての成熟が認められた時に改めて任官するらしい。それまでは侍女メリッサを依り代として降臨している女神が後見者として面倒を見るとのこと。あの場でクレアミール様から下された神託を忠実に実現しているのだ。


そして国巡りをしていた一行は。


王宮のあずまやで、コルフォートとフェリシアがお茶をしている。

にこやかに交わす笑みと言葉に、顔が真っ赤。

空気がピンクに見えるのは周りの花のせいではないだろう。


図書室ではミーシャが満面の笑みを浮かべて蔵書を読みふけり。

その横でジェミニが魔法書を熟読している。

二人の腕が絡んでいては読みにくいと思うのだが。


騎士の訓練場ではゲインズが若手をしごいている。

あ、今一人ぶっ飛んだ、ような。

その先に居たシャロンがうまく誘導して着地させると。

『俺の唯一に手を出すなあぁっっ!』大音声と共に覇気が暴発。

一段とにぎやかになった。


城下の商会ではトーマスとカリーナが次の公演先を検討している。

アレス皇国でお披露目した例の舞台がバカ受けして引き合いが殺到。

行商団と演劇団をひとつにして各国を巡ろうかと思案しているのだ。

それはいいけれど、二人とも、距離が近くないか?

交わす視線の熱が高いような?

道理で誰もこの部屋に入らないわけだ。

部屋の隅の侍女は遠い目だし。


ともあれ、ロードリック王国は今日も平和だ。




「シメられる国々」本編は終わりです。

あと1編、番外編を加えて完結にします。

ご容赦ください。

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