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灰色大戦 読み切り!  作者: 灰色のネズミ
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お色直し

 銀色の鉄のボディで包まれた蜘蛛のような形をした巨大ロボ【ベンダンク】、6本の足を持ちその足を伸ばせばコックピットがある頭部が200メートルに達するまでの高さがある。

 街のどこからでもその姿を確認でき、西門の管理者専用の部屋に戻ってきていた桜もそれを見た。



「……あんなものが地下にあったのか。形は蜘蛛のようだが足は6本しかないが……あんなもの作るには長い年月が必要なはずだ」



 つまりそれほどの秘密が隠されていると言うことだ。人間が街から離れていった理由もそこにあると桜は考えた。

 桜が西門に戻って来たのには理由がある。

 街の秘密を暴くため、この門の管理者専用部屋で“街の地図”を手に入れようと考えたからだ。

 扉の鍵を開けて中に入り、無駄に広い部屋の中を物色する。

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 そして【ベンダンク】が現れたのはタールも見ている。



「な、なんだありゃ! 地下から出て来たぞ!」



 初めて見るものに驚き、そしてその大きさに驚いた。

 200mもあるビルに匹敵する大きさだ。

 この街のどこにいても見える。



「あ、あんなの隠してたのか……つーかなんの形だありゃ、変な形だな」



 見れば見るほど圧倒されそうなくらいの大きさを実感する。

 呆気にとられていると、ガシャコン!と巨大ロボの脚が動き出した。大きく一歩を踏み込むとタールに向かって進んで来る。

 6本ある足のうちの右前足を動かして歩き出した。

 ドスーン!と激しく土煙を巻き上げて大きな一歩を踏み込んだ巨大メカ、その見た目の威力は凄まじいものがある。

 しかし動きは鈍い。



「足の先にある爪は固くて当たると痛そうだな……それに体重もかなりありそうだ」



 かなり鈍重な動きだが、タールは攻めあぐねていた。相手の持つ戦力がタールにとって苦手なものばかりだからだ。

 そして相手もあの巨大メカの動きについていけてないようで、一歩踏み出せば、足元にいるアクセをジャラジャラつけた黒服の魔法使いやUー00より小柄でタールより身長が高い超能力者や神官が、慌てふためいてメカの足から逃げていた。



「ふむ」



 その時、自分の胸元が涼しいことに気がついた。

 ロボが動くたび向かい風が起こり、パタパタとタールの服の胸元がはためいて、そのせいで先程破られたところがビリビリとさらに破れていっている。後もう少しで服の前が真ん中から真っ二つに破れて胸元どころか腹部も露わになるだろう。

 すぐにタールは膝を曲げて伸ばし、思いっきり飛び上がった。その高さはゆうに巨体メカの頭部にまで到達した。そして腕を振り上げて下の黒いアスファルトの道を思いっきり叩き壊した。

 ドズーーン!バキバキ!と破壊音が街中に響き渡り、壊れたアスファルトが土煙を起こして、着地したタールの姿を隠した。



▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 ベンダンクの振り下ろした足から逃げていたイチジク、オレンジ、メロンはタールのジャンプしてからアスファルトを叩き壊した一連の行動を遠くから見ていた。



「…………おい、イチジク。本気でヤツを倒す気か?」



 そのジャンプとアスファルトを難なく破壊するとてつもない力を遠くから目撃してメロンは、隣にいるイチジクに聞いた。額には汗をかいている。

 イチジクも冷や汗をかいていた。



「そうしないと俺たちに未来はない。戦って倒す……いいや殺すしかない」


「でもアイツあんな事してなんのつもりなんでしょう。土煙のせいで動きが分かりませんが」



 Uー00は会話を後ろ背に聞いていた。目の中に搭載されている熱感知レーダーでタールの動きはわかっていた。



「西門までの道、その横の服屋に入っていった」


「服屋? 板村さんがやってた店かな」


「いやなんで服屋なんかに……? とにかくメロン、西門に向かってくれ。そこに黒いハットを被ったヤツの仲間がいるはずだ」


「……灰色髪と戦わなくていいから当たりくじなのかな」



 イチジクはサッとベンダンクのコックピット部分をみた。半透明になっていて、外からは中がうっすらと見える。下から見上げているので確認できるものは少ないが、椅子が置いてあるのはわかった。

 そこには誰もおらず、それでもベンダンクの足は動いていて、今も右前足を動かしたあと今度は左前足を動かそうと足を持ち上げている。



「ゆーちゃん、乗らなくていいのか」


「ヤツに充分近づくまでは遠隔操作で動かす。操縦は今回が初めてだから不安がある。足を振る必殺の一撃を確実に当てるため、アイツの隙を作る。そのため私は降りたまままずは戦う」



 ダン!



「そ。ならお前のガトリングガンの銃撃に俺らを巻き込むなよ」



 そう言い切るのが早いか、それともイチジクが走り出すのが早いか。覚悟を決めた顔で走り出したイチジクは真っ直ぐにタールに向かっていく。後ろからメロンとオレンジも付いてくる。

 イチジクのネックレスがジャラジャラと鳴り、イヤリングが耳の下で揺れ動く。そしてイチジクは手を振りかざすと、手から黒いオーラを纏った弓矢を放った。



「黒射!」



 まずはタールの姿を隠している砂埃を払う。黒い弓矢が勢いよく放たれて、砂埃の真ん中を切り裂いて、砂埃を晴らす。

 見れば先程Uー00の言っていた服屋からタールが出てきているところだった。


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 ガシャン!

 割れたガラスの破片を赤く艶やかなヒールで踏み砕いて、タールは店から出た。

 破けた服から着替えようと考え、ふと思い出し、この街に来た時に見たあの服を着るために入っていた。

 ウィンドウに飾られていた、闇に葬られた幻のあの服を手に入れるためにガラス窓を壊して。

 肩と腕に覆う布はなく、胸上から腹の下まで“黒色のベルト”を巻いているだけの【ベルトドレス】をタールは着ていた。ベルトの数でサイズが調節できるので小柄なタールでもぴったりのサイズ感。

 体の前に何個もの留め具があり、何本ものベルトが層になってタールの体を包んでいる。ぴっちりと体に密着しているのでタールの体のラインがはっきり分かる。

 そして腰から下はドレスなのでスカート部分に該当する箇所なのだが、それはスカートとは言い難く、覆い隠す役目は微塵も果たしていなかった。

 12本のベルトが腰回りを横に連なり垂れ下がっているだけである。ベルトとベルトの間からはタールの素足が見え隠れする。チラチラと覗く下腹部にもベルトが巻かれていた。

 風に帯状のベルトが舞い上がり、腰に巻いたベルトに固定されている金具達がカチャカチャとなる。

 元々左足につけていたベルトはチョーカーとして首に巻いてあり、右手には銀色のブレスレット、靴は赤いヒールになっていた。



「お色直しだぜ」



 姿を隠していたほんの僅かな時間で速着替えしたタールは、財布を店の中に放り込んで、雄大な迫力を持つベンダンクを意気込んだ真剣な顔で見上げた。

 そのままタールは、加えてさらに腰まで伸びている自分の髪を後ろで束ねて、躊躇なく手刀で切った。

 肩までの長さになったストレートボブ、切られずに残ったダランと長く伸びるもみあげ、黒いベルトに巻かれた体、帯状に連なるスカート部分が風にたなびき……切り捨てた灰色の髪が舞い落ちてキラキラとタールを彩る。

 そしてタールは向かってくる3人をぱっちりとした大きな目に煌く黄金色の瞳が見据える。



「なめやがって! 一斉攻撃だ!」


「大大光線!」


「スパイラルエメラルドライボルト!」



 イチジクが放ったのは黒いオーラを纏う魔法の弓矢。

 オレンジが放ったのは超力を扱ったオレンジ色の光線。

 メロンが放ったのは螺旋状の緑色をした神の雷。

 三色の攻撃は直線にタールの方に飛んでいく。



「よっ、ほっ、はっ」



 それを軽やかなステップと滑らかな動きでかわしたタールは、かわした反動のまま体を回転させて近づいて来ていたイチジクの顔目掛けて蹴った。

 咄嗟にイチジクは身をそらしてかわした。赤いヒールのかかとがイチジクの顔の前を過ぎる。

 そこへオレンジが合わせて光線をタールの顔に向けて放つ。タールはそれをかわし、その隙にメロンがタールの横を通り抜けた。



「? なんだ? なんで攻撃せずに通り抜けて……」



 メロンの不可思議な行動を考えるよりも先に、タールに考える隙を与えないために、イチジクはさらなる追撃を加えていった。距離をとりつつ黒の弓矢を撃ち、タールはそれを大きく体をそらして後ろに避ける。

 追撃にオレンジも加わり、タールはさけることに集中せざるを得なくなり、メロンを止める事はできなかった。

 メロンは西門に向かって走って行った。



「そうか、桜か! しまった!」


「お前は私たちと戦う」



 ぎゅごおおおお!と腕の空気砲から空気を放出した勢いで飛んできたUー00は体を回転させて、横回転の回し蹴りをタールの横顔に当てようとした。

 しかしその足蹴りはタールが彼女の足を掴み上げた事で防がれて、イチジクとオレンジの方にぶん投げられた。

 Uー00は投げられたが、イチジクが体の前で腕を交差し、それを足場にしてUー00は再度タールに飛びかかる。さらに右腕に空気を入れて膨張させた。

 それに対してタールは防ごうとせず、そのまま胸にUー00の攻撃を受け入れた。

 ドン!と右拳がタールの胸に突き刺さる。だがしかし、ベルトの金具にヒビを入れて、繊維をピリピリと破いただけで終わり、タールは平然とした顔でそのまま胸に飛び込んで来たUー00を両腕で抱きかかえる。



「ん? なんだ? 鉄の部分はゴツゴツしてるのに案外軽いな? よく食べてるのか? 大きくなれないぞ」


「くだらない」



 キョトンとした顔のタールと、無表情でありながらもどことなく責めるような顔つきのUー00。灰色の少女達が至近距離で顔を見合わせる。

 タールはUー00の体を、今度は優しくオレンジの方に放り投げた。

 オレンジは飛んでくるUー00にびっくりして後退りをしたが、あえなくUー00とぶつかった。彼女の足に装着されているゴツゴツした装備がオレンジに当たって、押し飛ばされたオレンジは後ろ背にして転がりながらすっとんだ。



「オレンジ! ゆーちゃん!」


「すきあり!」



 オレンジが転がるのに意識が向いていたイチジクの方に素早く接近したタールは、そのままイチジクをどつく。張り手でイチジクを吹っ飛ばし、返し手でずっと隠し持っていたガトリングガンの弾丸をUー00に向かって指で弾いて飛ばした。

 Uー00は体を横にそらす事で回避。



「だいたいわかってきたぞ、お前らの戦闘スタイル! さて問題は神官っぽい服装のアイツか」



 ダンッと足を踏み鳴らして、タールは飛ぶように走り出し西門に向かったメロンを追っかける。腰から伸びる黒いベルトがはためき、短くなった灰色の髪が揺れる様はどことなく美しく、だが力強さを兼ね備えていた。

 オレンジは慌ててオレンジ色のビームを発射して牽制。思わず怯んだタールに、Uー00が横から頭に蹴りを入れる。

 ビームをかわして、蹴りもかわしたタールは一瞬走るのをやめた。そこへイチジクの黒いオーラを纏った弓矢が飛んできて、タールは横に大きくかわす。

 イチジクは跳ね飛ばされて、後ろにあった建物の壁に激突し、倒れている状態から弓矢を放っていた。辛そうに顔をしかめて膝をついて立ち上がろうとする。



「メロンの方にはいかせねぇ。お前ら二人この街で仕留める!」


「でないとならない理由がある」



 イチジクの言葉をUー00が引き継いで言った。

 ドスン!

 2人の言葉に応えるように、タールの後ろから大きな足音が聞こえてきた。

 タールの気づかないうちに、巨大ロボのベンダンクが接近していたのだ。Uー00達との戦いに気を取られつつも後ろから来るベンダンクの事を考えていたタールだったが、タールが予想するよりも早く近づいてきていた。建物が壊れるのも気にせずに進んでいたのでタールの計算が狂ったのだ。



「ヘンテコ形のヤツ、もうこんなとこまでーー」


「すき……ありだ!」



 振り返ろうとしたタール目掛けて、オレンジはビームを放った。ものすっごく驚いたタールは瞬時に大きく真上に飛び上がってかわす。

 苦手な力の攻撃だったので思わず大袈裟にかわしてしまった。

 だがしかし真上に飛び上がると言う事は、ベンダンクの目の前に無防備な状態をさらすと言うことに他ならない。



「ベンダンク!!!!」



 Uー00が叫ぶと、ベンダンクは足を横なぎに振り払いタールを吹っ飛ばした。

 歩くのはノロイ動きだったにも関わらずその攻撃はとても俊敏に動いた。

 ガゴン!ミシミシミシ……

 ベンダンクの硬く重い足の一撃が、タールの右腕から腰にかけて突き刺さってタールの体は骨の軋む音をたてながら、くの字に折り曲がった。

 声を上げる事も出来ずに、タールはそのまま街の南に吹っ飛ばされた。街に建ち並ぶビルのせいでUー00達の方からは飛んで行ったタールの姿は途中までしか見れなかった。



「おおー! あのバケモノみたいな女の子を一撃でぶっ飛ばした!」



 しかしその威力は目に見えて明らか。強烈な一撃はタールをぶっ飛ばしたのだ。

 Uー00はコンピュータで今の攻撃を計算した。



「あのまま飛んでいくと南門辺りの壁に激突する。アイツの体の頑丈さを計算に入れれば、即死とはいかずともそれなりのダメージはあるはず」


「マジスカ! じゃあこれでメロンさんは問題なくもう1人の仲間の方に行けて、ソイツを処理した後みんなでアイツを倒せば終わりですね」



 タールとの戦いですっかりオレンジはコイツには敵わないと思っていた。けれど秘密兵器のベンダンクはあっさりとタールを無力化した。

 その凄さと頼り甲斐にオレンジは諸手を挙げて喜んだ。



「…………」



 対してイチジクは言い知れない不安感があったーー

 西門で地図を探していた桜だったが、どこにもない。



「やはりあの巨大ロボを隠すため、街の見取り図などは人目につかない場所に置いてあるのだろうか」



 あんなに大きなロボットが存在しているという事が明るみに出れば、この街の人間達に立場はない。詳細な情報は隠してあるのだ。



「……」



 棚や引き出しなどを探してはキチンと元どおりに戻しているので物が散乱している事はなく、最初に入った時と同じ部屋の光景が桜の前に広がっている。

 次に部屋の床を目を皿にして見回す。

 そして部屋の真ん中にある机を見た。目を凝らすと机の下に床下収納スペースがあるのがわかった。机を横にどかしてそこを開けてみれば、中から四角形に折り畳まれた紙が出てきた。

 広げれば幸運な事にそれは地図だった。目的のものを見つけた、その瞬間。



「黒いハット……お前があの灰色髪の仲間か」



 バタン、と扉が開いて白いローブを身に纏った男が入ってきた。

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