出撃、巨大ロボ“毒蜘蛛”
「…………タールさん」
桜はタールが登って行ったエレベーターの、壊れた扉から中を覗いて、見上げる。
目線を下げれば刀を持って現れた相手をエレベーターの箱ごとビルの壁をぶち抜いて向こう側に吹っ飛ばした、タールの開けた大穴がある。向こう側で刀を持った相手が遠くの建物の壁を壊し、吹っ飛ばされて倒れている。エレベーターの箱の壊れた破片もバラバラと散らばっている。
「……恐らく戦闘は続いている。ならば私がするべき行動は」
桜はエレベーター室からエントランスに出て、索敵しつつエスカレーターに向かう。そして動いていないエスカレーターを登って二階へ行こうとした。
が、しかし、かすかに上の方からガラスの割れた音がした。嫌な予感がして桜は途中まで上がっていた階段を降りて、外に出る。
そして見上げれば、タールがビルの最上階から降ってきているところだった。タールの後ろからロボット少女が腕の機関銃をタールに向けている。
タールがあのロボ少女との戦闘の末に最上階から落ちてきているのだと桜は判断した。桜は下から援護できると思った。そして胸ポケットから銃を取り出したところで、思い直して手を止めた。
「いいや、タールさんなら大丈夫だ」
例え機関銃が向けられていても、高層ビルの最上階から落ちてきていても、弱体化していようとも、タールさんなら大丈夫だと考える他なかった。
そして桜は拳銃から手を離して、真後ろに体をぐるりと反転させた。
そこへUー00の攻撃を空中で弾いて、防いだタールが桜のすぐ横に落ちてきた。手をついて着地し、落下した衝撃でズザザと地面を滑る。そしてタールは、タールから背を向けている桜の目前まで意図せず滑り込んだ。
互いに向かい合い、2人とも顔を見合わせられる状況。しかしタールは上空のUー00を見据え、桜はそれとは逆方向の西門の方へ向いていた。決して顔を合わせることはなく。
「タールさん、私はこの場所の調査を続行します、なので」
「オレはアイツらと戦って、お前のほうに行かせないようにすりゃいーんだな!」
「お願いします!」
「おう!」
Uー00は空からタールを追いかけ、ビルの前でタールが別の人間と話しているのが見えた。上からだと黒いハットをかぶっていると言うことしか特徴が分からなかった。
そしてその黒ハットはタールとふたこと言葉をかわした後、西門の方へ足を踏み出したと思えば忽然と姿を消した。
何かの【能力】と言うのはわかるが、熱感知や匂い感知などで探しても見つからない。まるでこの世界から存在ごと消えてしまったかのような隠密性だ。
「……アイツをほっとくか、灰色髪をほっとくか」
考えている暇はなかった。タールがその場のアスファルトを拳で打ち砕いて、その破片を投げてきた。猛スピードで飛んでくるそれをかわし、Uー00は足のジェット噴射を使い空中に浮くように留まった。
「ニィ〜〜〜ハァーーー………」
タールは恐ろしく異常なまでに据わった目つきで熱のこもった息を吐き出し、Uー00を両手の人差し指で指差す。
「こいよ、メタルマン。その頑丈そうなボディを陥没させてやる」
「……挑発、やはり重要なのはあの黒ハットか」
「どうだかな!」
足を巧みに動かして、砕いたアスファルトの破片を蹴り上げて足の甲に乗せ、一度破片を宙に浮かせてから、Uー00にむかって破片をピストルみたいな速度と威力をもたせて蹴り撃った。
バドン!と擊ち上られた破片は真っ直ぐにUー00へ飛んでいく。それに対してUー00は空中で横にスライド移動してかわした。
「まだまだ! まだまだまだまだ!」
ガン!とタールは地面を踏み轟音を鳴らし、その衝撃から他の破片たちが宙に浮かび上がる。
そしてタールは地面に手をつくと逆立ちして、破片を素早い蹴りでUー00に向かって蹴飛ばした。
パパパパパパッ!勢いよく飛ばされた破片達、当たれば傷つく。それをUー00は大きく空に上昇する事でかわした。
「やっぱ空中戦では不利があるか。オレも飛べればなー」
攻撃を止めてタールは地面に手をついて、しゃがんだ状態から上空のUー00を見据える。
「…………」
Uー00は空中からタールを見下ろして、不意に腕を伸ばす。ガシャガシャガシャガシャ!と腕の装備が変形していき、空気砲装備になった。
「【エアグレイボム】!!」
「またあれか!」
タールを吹っ飛ばした攻撃だ。
タールは腕を交差させて防ごうとするが、しゃがんだ状態では体制が保ちにくく、さらには先程よりも強い威力で放たれた空気弾にタールの足は宙に浮いて、西門の方角に飛んでいく。
「くっそぉ! あの空気のやつ苦手だ!」
後ろに倒れて、背中を擦って飛んでいくタール。部屋の中で発動したものよりも強い威力なので、どんどんタールは遠くに飛んで行った。その距離はビルの前で飛んでいるUー00の姿が輪郭だけ見えるくらい遠い。
早く立て直そうと地に手をついて、体を起こそうとした瞬間。
「!」
タールの目の前から一本黒色の弓矢のようなものが、地面スレスレを飛んできていた。黒いモヤモヤしたオーラを纏い勢いよくタールの方に飛んできている。
それを見てタールは体の奥底がざわついて、それが何なのか一瞬でわかった。
「魔法!」
魔界全土に精通している【魔法】で作られた弓矢だ。
魔界の誰もが持っている魔力を使った戦い方なのだが、人間の中にもこうして魔法を使える者がいるとタールは人間界に来る時に事前に聞いていた。
タールは飛んでくるそれを咄嗟に拳を振って弾き、防いだ。
そしてUー00が飛んでいるビルの方を見れば、先程エレベーターで上がって行った先にいたアクセサリーをジャラジャラつけて黒い服を着た男が、手に黒いオーラを纏ってこちらに手を伸ばしていたのが微かに見えた。
「魔法使いの仲間なのか、アイツ。銃弾は別にどおって事ないけど、魔法は少し厄介だ。つーか人間の使う魔法って属性が何なのかいまいちわかんないしってまた来た!」
連続で黒い弓矢が放たれた。飛んでくるのは今度は二発。
かわす余裕があるので難なくそれを避ける。
しかし避けて行く内にどんどんUー00のいるビルから離れて行っている。いいや、離されている。
「……退がれば退がるほど、どんどん西の門に近づいてってるな……あ! それなら……って、うお!」
何かを思いついたタールだったが、ビルの前にいる魔法使いの男は今度は五発同時に撃ってきた。
3発は弾いて2発は当たらずにすっ飛んで行ったが、そこで異変が起きた。なんと弾いた一本の後ろにまた別の弓矢が飛んできていたのだ。
だが捉えられない速度でも無いのでまた拳で弾こうとした。しかし問題はそこではなかった。
黒いオーラを纏う弓矢の隣に、オレンジ色の光線が並んで飛んで来ていたのだ。それを見たタールは今まで以上の“恐怖”を覚えた。
「こ、これは! ちょ、超力ってやつか? 不味い、これは不味い!」
タールはオレンジの光線を必ずかわす必要があった。だがしかし黒い弓矢も真っ直ぐにタールの方へ飛んできている。
弓矢が重なって飛んでくるなんて思いもしなかったタールは虚を突かれて、今から大きく動いてかわすという余裕もなかった。
タールは瞬時に判断して、隣り合って飛んでくる弓矢と光線の内、弓矢に当たりいった。だが直撃はさせない。体に当たるギリギリの所で、体を後ろにそらしてかわす。しかし弓矢はタールのフリルの付いた白色のトップスを引き裂いた。ビリビリと胸元が破けてしまう。
けれどタールはこれでよかった。オレンジ色の光線に当たらなければなんだって良かったのだ。
弓矢と光線はそのままタールの後ろの方に飛んでいって、少し行った所で四散して消えた。
「あっぶな……超力は神の力と同じで危ないからな……当たったらひとたまりもない……」
肌着もなにも身につけていない破れた服の切れ端を掴んで露出した胸元を隠しつつ、ホッと息を吐く。
これはこの街に入る前に桜から念を押されていた事なのだが、タールは人間界に来てから、人間界に充満する【神の力】に影響されて弱体化している。
それは神の力がタールの体に害を及ぼすからである。
そして今飛んで来た光線には【超力】が使われていて、これもタールにとって弱点であった。
「超力使うって事は超能力者か。向こうには魔法使いに超能力者がいるのか……人間界には他にも【神の力】を武器にして戦う人間がいるって聞いたが、まさか……いないよな?」
実のところ、先ほどから飛んで来ている魔法の弓矢に使われている【魔力】もタールにとって苦手だったりする。魔力は魔界にいた時に慣れたけれどそれでも苦手ではある。
魔力、超力に加えて神の力を使う人間まで居たら、苦手なものストレートフラッシュだ。
と予測するよりも思い返せば、エレベーターを上がった最上階で接触したアクセサリーをジャラジャラつけた男と小柄な男の他に、神官みたいなローブを着た人間がいたような気もする。
タールはこめかみに人差し指を当てて、ガックリと落ち込んだ。
遠くの遠くの遠くにいる相手の方を確認すれば、メカ少女、黒い服のアクセジャラジャラ男、小柄な男、そして多分後から神官の男も来るはず。
何か話しているようだが聞こえないくらい離れている。
「今からやつらの方に近づいてって攻撃してもいいが、また超力のビームが飛んでくると厄介だな……」
相手が自分の方に攻めてこない事をいいことにタールは呑気に対策を考えていた。破けた胸元を抑えるのも諦めて手を離し、腕を組んで悩んでいる。手を離したせいでパタパタと破けたところがはためいて、さらに破けてしまいさらにタールの肌が露出していく。
タールが着替えたいなぁと思っていたその時、ふと自分の見ていた景色に変化が起きていた事に気がついた。
「は……」
ハッキリと言えば、街で一番高いビルが現在進行系で動いていた。
「……動いてる、よな。あれ」
真正面にあったはずの高いビル。さっきまでUー00と最上階で戦っていたビル。
それが今、右側にズレているような気がする。気がすると言うか、その通りなんだろうとタールは地面の下から聞こえるゴゴゴゴと言う変な地響きを加味して断定した。
「び、ビルって動くんだな。知らなかった。でも生き物ってよりは機械的な動きだなー」
ビルはどんどん右側、方角で言えば南側に向かって平行に動いている。縦長で大きい建造物が平行移動して行っているのにはタールも違和感があったが、だがそれよりもタールが気にしているのは。
「なんで動かしてんだアレ。なんかあんのか」
さらに大きくなっていく地面の下からの振動に、タールは嫌な予感がしていた。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
ーータールに魔法の黒い弓矢が飛んで来たよりも少し前。
Uー00がどうにかして時間を稼ごうかと思っていた時に、ビルから出てきたイチジクが彼女の後ろから現れて黒い弓矢を放った。魔法の弓矢はタールに向かってスーッと飛んでいった。
弓矢を拳で弾いて防いだタールを見つつ、Uー00は顔を振り向かせずにイチジクの存在を確認した。
「魔法使い。上にいたんじゃなかったの」
その横には怯えた様子のオレンジもいた。攻撃をくらったのは一撃だけだが、それだけでタールの力の恐ろしさを覚えてしまっていた。
「メロンの籠手でエレベーターのワイヤーを伝って降りてきたんだ。オレンジも一緒にな。メロンは今、エレベーターを降りた先にポッカリと空いた穴の、その向こう側に吹っ飛んでたブドウの様子を見にいってる。ヤツにやられたんだろうがな」
「そう……」
「聞きたい事がある。とりあえずヤツを離すか」
イチジクはさらに二発放ち、タールを牽制しつつ距離を離して行く。
「イチジクさん!」
「ああ、頼む」
そしてオレンジとの連携で、さらに追撃を加えて行った。
オレンジの放ったオレンジ色のビームは真っ直ぐタールに飛んでいき、タールはそれを必死にかわしていた。イチジクの黒い弓矢に服を引き裂かれてもオレンジのビームを嫌がっている様子だった。
「ゆーちゃん、ヤツは強いのか? オレらは一撃でやられたからヤツの戦い方が接近戦だと言うことしか知らない」
「強い。間違いなく。だから“アレ”を使う」
「アレ? ……っ⁉︎ あ、アレってまさか! “毒蜘蛛”か! なんで!」
イチジクは焦った。
アレは不味い。この基地跡から、街から、国から人が居なくなった原因でもあるからだ。
それにそれはいずれ来るという魔王とヒーローの間に出来た息子を倒すために残しておいた秘密兵器だ。
「……でないと“勝てない”からよ」
彼女はとにかく冷静だった。頭の中のコンピュータが弾き出した計算だとタールは普通のやり方では倒せない。
「それに……アレを使うだけの理由はある。さっきから私のコンピュータがざわついている。何か嫌な予感がする」
「機械がざわつくとか、予感だとか、そんな事があるのかよ……」
納得のいかない様子のイチジクと、依然として何の感情も見せないUー00にいい知れない気まずさを感じたオレンジはすかさず話題を変える。
「そ、その! “アレ”を使うと言う事は街中にあの兵器を出現させるんですよね! アレは地下にありますし、いまからどうやって……」
オレンジが最後まで言う前に、彼らの立っている地面の下から地響きが聞こえてきた。
ゴゴゴゴ、という地鳴りにオレンジは驚いて真後ろを振り向き、ビルの方を確認する。見ればビルが徐々に徐々に動いていっているではないか。
それだけではない。ビルは南側に移動していき、それにつれビルの下の地面も動いていた。ビルを中心に周りの地面が大きく揺れて、真ん中から地面が開いていくではないか。
開いていく側からその地面の下が露わになり、大きな空洞の穴が開いていく。
「うわあ!」
飛んでいるUー00に影響はないが、イチジクやオレンジの立っている場所も南にズズズと動いていて、揺れのせいで危うく下の穴に落ちそうになったオレンジをイチジクは急いで止めた。
イチジクは慌てて動いていない場所に飛び移って、オレンジを助けた後Uー00に悪態をつく。
「お、おい! なんで俺らに何も言わず作動させてんだ!」
「急がないとアイツに隙を与えてしまう。隙を与えてアイツがこちらを攻撃しにくれば、それは我々の敗北を意味し、そしてこの国の終わりを意味してる」
「だからって、こんな大規模なものをなんの知らせもなく……!」
ゴゴゴゴ、と地響を鳴らして開いていく大穴。その下は何層にもなる地下施設になっていて、その奥の奥、最下層に巨大な何かが穴の影に潜んでいる。
空洞の底からガシャン!ガシャン!と機械音が聞こえてきた。
「い、イチジクさん! メロンさんやブドウさんは大丈夫なんでしょうか!」
「……心配するな。ブドウが吹っ飛ばされていた位置はこの開いていく地面の範囲よりも外だった」
「魔法使い。先ほどヤツの仲間らしき侵入者がいた。黒いハットをかぶった少年が西門の方へと姿を消した」
「今俺らは現状を整理してたんだがな。しかし仲間か……」
もしもソイツに情報を持って外へ出られればこの街にUー00やイチジク達の事が明るみに出てしまう。
基地跡もとい街の跡もとい国のなれのはてであるこの場所は、三年前から人間達が出て行った事をキッカケに隣街の管轄下に置かれていて、今では『誰もいない』事を不審に思った管轄側の街の責任者が監視に来ている。
もしもその隣街の責任者に我々がここにいる事が明るみに出て、何よりも【Uー00】という機械人形がいるということを知られればただでは済まない。
今まで監視に来た奴らにUー00の事は知らされないようにしていたものの、侵入者2人に目撃されている。
「どちらにせよ、“毒蜘蛛”を使えば破壊された街を見られて明るみに出るぞ」
「ならば奴らを確実に倒してから、またこの街を監視しに来た者や怪しむ者達を殺していけば良い。というよりももうこの街に滞在し続ける意味ももうないかも……だからこのまま魔界に進軍して……」
「……意向はお前に委ねているがな、ゆーちゃん……いいや、Uー00。本当にいいのか? オヤジさんは魔王とヒーローの息子が来るまでこの地で待機し、その時が来れば行動を起こすようにと言ってただろ」
「もう……動くしかない。アイツは私のコンピュータでも計り知れない強さを持っている。もう……止まれないの」
「…………」
イチジクがUー00の方を向いて押し黙っていると、オレンジがイチジクの裾をクイクイと引っ張った。そしてオレンジは指を差して、そちらを見ればメロンがこちらにやってきていた。
左腕には装飾された神々しさのある籠手を装着していて、手の甲には水色の半透明で半球体のものが埋め込まれている。オーブと呼ばれる部位だ。
メロンはそのオーブを撫でながら、ビルが移動してポッカリと開いていった大穴の外周を回ってこちらに来た。
「イチジク、戦況は」
「今、あっちもこちらの様子を伺っていて膠着状態だ。ビルが動いているのが気になって仕方がないんだろう。それよりブドウの様子は」
「意識はあるが置いてきた。それと俺の籠手が、さっきエレベーターのワイヤーを掴んで降りた時に摩擦でオーバーヒート気味だ」
「戦えはするか」
「大体の攻撃は可能だが……あの灰色髪には勝てんぞ」
「なら西門の方に敵の仲間が行ったらしい、追いかけてくれるか。途中その灰色髪がいるが、俺らで援護する」
「分かった」
打ち合わせの済んだ頃。地響きがさらに激しくなっていく。
イチジクが大穴の上から下を覗けば、巨大な物体が迫り上がって来ているのがわかる。
メロンもそれを見て首を振った。
「……本当に動かしたのか」
「仕方ない。コレを動かさないと勝てない」
「ほえー、上から見るとホント“蜘蛛”みたいな形ですねー」
ウイーーーンと下の階層からリフトを使って迫り上がって来た物は、ガシャン!と音を立ててもともとビルのあった場所に、イチジク達の不安を押し除けて現出した。
それは巨大なロボット兵器だった。見上げるほどの大きさがあり、鉄のボディで作られていて、ボディが銀色に輝いている。所々水に濡れていて、それが日光に反射してキラリと光る。
牙のある口や複眼レンズになっている黄金色を施された目に、半透明で半球体のコックピットが付いている額部分。顔の横から関節部分で折り曲げられて畳まれている6本の足が付いていた。
そしてその頭部をひと回り大きくした腹部。頭部と腹部の2つで構成された巨大ロボは蜘蛛の形をしていた。
「オヤジが最後の命を振り絞って作ったこの街の、この国の最終兵器。【ベンダンク】……出撃」
折り曲げ畳まれていた6本の足が同時に動き出し、足の先に付いている鋭く頑丈な爪を地面につけて立ち上がると、コックピット部分がさらに高くなる。そして足を伸ばして頭部にあるコックピット部分は、隣にある高いビルと同じくらいまでの高さになった。
そこまで登り詰めた後、全体の重さに耐え切れず足はすぐに折れ曲がってガシャン!と胴体が地面スレスレまで落ちる。
6本の足が折れ曲がり、腹が地面スレスレの位置にあるその姿はまさに“蜘蛛”そのもの。
「ぐっ⁉︎ クソが!」
「ひえーー!」
頭部の底が地面スレスレまで落ちた時、その衝撃で辺り一面に爆風が吹き荒れてイチジク達は飛ばされないように足を踏ん張って堪える。
「…………」
空を飛んでいると風圧に巻き込まれて飛ばされそうになるのであらかじめ地面に降り立っていたUー00は、無表情ながらもどこか誇らしげに【ベンダンク】を見上げた。