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灰色大戦 読み切り!  作者: 灰色のネズミ
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街の跡、基地の跡

 綺麗に整備されたアスファルトの道の上を、キャンピングカートがスムーズに走る。その後ろには食べ物や服などを乗せたトレーラーが付いてくる。

 走っている道路の周りは荒れ果てた荒野で、カートが程なく進むと聳え立つ大きな壁が、中の街を守るように並ぶ場所にたどり着いた。

 カートの窓から灰色の髪をした“女の子”が風でなびく長い髪を抑えつつ顔を出して、自分達の向かっている場所を確認する。

 女の子?は灰色の髪に、顔は額から顎にかけてパックリと開いた傷痕が両目を切り裂くようにあり、異様。彼女は窓から身を乗り出して見た景色を、カートの中にいる相棒に報告した。



(さくら)ー! すごいぞ! 局長の言った通り、ストロベリー街から東にずっと行くと本当にでっかい街が見える! でもなんか……壁ばっかりで本当に街なのかどうかわからないな」



 男口調でそう伝えた灰色の女の子は、中にいる仲間の桜と言う二歳年上の少年に澄ました顔を向ける。言葉からは興奮して嬉しそうな感じが見受けられるが、表情は固く笑顔が全く見られない。

 感情とは裏腹に笑顔のないその顔に、桜はぴくりと眉を潜めてからすぐに無表情となり、冷静な態度を装いつつキャンピングカートのソファに腰掛けて足を組む。桜と呼ばれた彼は全身黒色の格好をしていて、黒いスーツを着こなしている。深い青色の髪を整えてから黒いハットを被り淡々と冷静に答える。



「大丈夫です。上空写真などはありませんが、確かにあそこには街があります。けれど面倒ですが我々の肉眼でも中の様子を確認しましょう。運転手さん、すぐそこの道の脇に止めて下さい」



 桜は運転手に指示して、目的地より離れた場所の道の脇にキャンピングカートを止めてもらった。



「タールさん、足元にお気をつけて下さい」



 タール、と呼ばれた灰色の女の子は車を降りるときに桜に手を引かれておろしてもらった。ベージュの革靴が砂地に靴跡を残す。



「大丈夫だよ、今日はドレス気分じゃなかったし、歩きやすい格好だから」


「ドレス気分になる事は滅多にないと思うのですが? こんなとこでも服好きを発揮しなくても……。それに私が心配しているのは【神の力】により弱体化してまともに体を動かすことのできない貴方の体調です」



 タールは灰色の女の子だった。

 魔王とヒーローの子供で、魔界と人間界の狭間で惑う1人の子供である。魔界にいれば【魔神の力】という世界中に影響を及ぼしている力に影響されて弱体化し、また人間界に来れば【神の力】で弱体化させられる。

 まさにどっちつかず、黒にも白にも染まらない、灰色の女の子がタールなのだ。

 そして“染まらない”とはタールにピッタリな言葉であった。魔王とヒーローの子供と言う他に、彼女はーーいいや、“彼”はこの世に息子として生まれてきた事実がある。



「調査するくらいなら全然平気だ。オレだってそのくらいは弁えてる」



 腕をグルグル回してから胸の前で腕を組み、男らしくフンスと鼻息荒くふんぞり返るタール。その目や口元は動いていない無表情だったが、仕草から気合を入れているのがわかる。

 彼は男なのだ。しかし同時に女でもある。

 頭から爪先まで見ればタールは小柄な体格をしていて、それでいて小柄な割には大きなお尻をした、女の子にしか見えない。

 服装もノンショルダーと呼ばれる肩の出たフリル付きの白色のトップス、赤いハートのワッペンのついた黒地のミニスカートで、髪型は真っ直ぐに下ろしたロングヘアー。桜から見れば本当に可憐な少女にしか見えない。

 トップスから伸びる細くてしなやかな右腕には銀色のブレスレット、スカートから伸びる左足の太ももには黒色の小さなベルトが付けられている。身体中おしゃれをしていてタールの服好きが伝わってくる。

 そして顔付きも目尻が釣り上がっているもののそれでも大きな目と瞳をしていて、クリクリとした黄金に輝く瞳で桜の方を見つめている。シャープな顔立ち、淡いピンク色の唇、丸みを帯びたほっぺ、ぱっと見本当に女の子だ。だが男なのだ、そう生まれて過ごしてきた。



「……そのスカートで本当に動けるのですか?」


「足は動かしやすいぞ?」



 なんでもないようにタールは言って、その場で片足を上げプラプラと足を振って見せる。ベージュの革靴から土がパラパラと落ちていく。



「そうではなく魔界には下着を着る文化がないので貴方も……まあいいです。別に戦闘しに来たわけではありませんしね」



 肩をすくめて桜は近くにあったちょうどいいくらいの高さの丘を登る。タールもそれについて行く。

 そして丘の上から街の中を覗こうとしたが、ギリギリ桜の身長では見えない。

 そこでタールを肩車しようかと言う案が桜の頭をよぎったが、すぐに首を振ってそれを頭の中から削除する。先ほど下着を着る文化がないと言ったばかりの桜に、タールを肩に乗せるなんて事出来るわけがないのだ。



「どーした桜?」


「いえ背が足りなくて中が見えないなと。まあ不安は残りますが」



 このまま壁に囲まれた街の中に入りましょうか、と桜が続けるよりも先にタールが動いた。



「なるほど、壁の向こうの景色が見たいんだな」



 タールはその場で膝を曲げて踏ん張ると、そのまま真上に垂直にジャンプした。その高さは桜の身長をはるかに超えていき、それどころか高くそびえ立つ鉄壁以上飛び上がっている。



(人間の敵である魔王の血を引くタールさんは【神の力】弱体化している…………本当に弱体化してるんでしょうか……?)



 アッサリと見せたタールの人知を越えた身体能力に驚いて、不覚にも飛び上がったタールを下から見上げてしまい、桜は赤面して慌てて顔を下に向ける。幸い、すぐに顔を背けたのでスカートの中は見えていない。

 そんな葛藤なんて知らず、タールは桜のそばに着地すると中の様子を伝えてきた。



「すごいぞ桜! このでっかい壁とおんなじくらいの高さのガラスの塔が街の真ん中に立ってたぞ! ビルって言うんだっけ? それと街は丸を描くような感じで、家とかビルが並んで立ってたぞ。その中心に今言った一番高いビルがあった。それと本当に人はいなさそうだった……って、桜? どうしたんだよ」


「い、いえ、そうですか。なら“局長”の依頼通りこの人の居なくなった場所、基地跡であり街の跡でもあるこの場所を調査しますか。人のいなくなった原因を探るのです。我々の住むストロベリー街からも程近い土地です、危険があるようなら排除が必要。何があるのかサッパリなのです、油断なさらぬように」



 桜はタールの隣に立ち、黒いハットを深くかぶって、目の前の鉄壁を見上げる。



「おう」



 タールは右手拳を左掌に打ち付けて、目の前にそびえ立つ鉄壁を無表情ながら意気揚々と見上げる。

 魔王であり人間であり男であり女でもある灰色のタールと、黒ずくめの格好をした相棒の桜は目的地へと足を運んだ。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 ーー同時刻、同地


 巨大な鉄壁に囲まれた区域の名はキラー軍対策基地、その跡地である。

 魔界で一番人間界に近い地続きの位置にある【チュール国】。そこの王、魔王ゴールド……の第一魔王子キラー。その強さを持ってして人間界全土を震撼させ、長らく前線にて人間達をおびやかしてきた存在。そんな恐ろしく驚異的な存在であるキラーの精強な魔物の軍団に対抗するために作られたのが、ここ、対魔界軍事基地。

 ここは人間界の西端の地で、魔界とは目と鼻の先の距離に位置している。そのためこう言う軍事基地などが、停戦の後に使われなくなった今も、壊されず残されたまま存在している。

 そして軍事に使われなくなった基地跡を改修して、チュール国との停戦以後20年の時をかけて人の住む街となった鉄の壁に囲まれた土地。

 円形に広がる街並みの中心には、街の何よりも高い建物である円柱型のビルがそびえ立っていた。ビルの最上階には“王の間”と呼ばれる一室があり、西北南の半方向の壁に巨大な窓ガラスが貼られてある。

 その窓際から1人の少女が街の景色を見下ろしていた。



「ーー今日も、同じ景色」



 頭部を完全に覆うヘッドギアを付けた彼女は、関節が機械で出来ている指でガラス窓に映る街を撫でる。

 凹凸のない体にスラッとした手足をした彼女は、体のあちこちに金属光沢のある灰色のパーツが付けられていた。

 彼女の名前は『Uー00』、この街で生まれた人造人間である。人間と言っても完全なるロボット兵器で、全てが機械でできている。

 だが彼女は人間であった。この街で生まれた時からそう育ってきた。彼の生みの親が彼女を人として育てたのだ。



「…………オヤジ。本当にこれでよかったの?」



 灰色の少女はそう尋ねる。

 するとその時、部屋の扉が開かれて4人の男が入ってきた。

 背丈もバラバラ、服装もバラバラな4人は大きな両開きの扉から入ってきて、ゾロゾロと部屋の真ん中に集合する。



「よー、お嬢様。またそこで見てたんすか。心配しなくても、住民はみんなどこか別の街へ避難させましたぜ」



 上半身裸で軽快に話し、Uー00をお嬢様と呼んだのは腰に刀を持ったブドウ。筋肉隆々のゴツい体で2メートル前後の高い身長をしている。



「待てブドウ。ユーさんはそこを心配なされたのではなく、もしかすると新たな監視者が来るのを心配しているのではないのか」



次に、新たな“敵”を警戒するのは白い服を着た元神官の眉間にシワを寄せて冷たい目を持つメロン。



「そ、そうなんですか? しかし前のストロベリー街から来た、街を双眼鏡で覗いてた奴らは先週イチジクさんが追い払ったじゃないですか」



 自信なさげに話すのはUー00よりも小柄なオレンジ。



「それはそうだがオレンジ、あまりにもうざったらしかったから力ずくで追い払ってやったが、やはり不味かった。俺らの存在に気づいた向こうの街の奴らが新たな監視を送ってくるだろうよ」



 そして最後に破けて穴だらけの黒いセーターにダメージジーンズをおしゃれに着こなし、イヤリングにネックレスに指輪とアクセをジャジャラつけたリーダー格のイチジク。

 この4人の男はUー00の仲間だ。そしてこの街に残っているのもUー00を含めたこの5人だけだ。前までは、街は人でごった返していたものだが、今やゴーストタウンと化し昔の賑わいは影もない。

 そんな空っぽの街の光景から目を移し、部屋に入ってきた4人の方を振り向いて、Uー00は静かに言った。



「……オヤジは最終兵器を作るために人を居なくさせた。人間界に来るって言う魔王とヒーローの子供に対抗するための兵器は、この街の人間に害があるからって言ってた。でもオヤジはあの兵器なら勝てるって言ってた。いつか来るかもしれない決闘の時までに、この街は守らなくちゃいけない……大丈夫、何もかも大丈夫だよ」



 こうして5人はこの街に足を留める。

 進むべき道などありはしない、ただ堪えて堪えて堪えて堪えて堪え続ければ、きっと恩人の夢を叶えられる。そう信じて。

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