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カフェ・ホワッ?

「何見てんのよ」

 涼美が夕方今日もギターを肩に担いで僕の部屋にやって来た。

「うん・・、なんか 自分のギターが欲しくて」

 僕は一人部屋で、ギター雑誌を擦り切れ穴の開くほど何度も何度も見つめていた。

「あるじゃん」

 涼美が部屋の端のギタースタンドに立てかけてある僕の真っ赤なアリアプロⅡを指差す。

「うん・・、そういうんじゃなくて、自分のギターだよ」

「何よそれ」

「お前みたいにオーダーメイドじゃないけど、自分だけのギターが欲しいんだ。誰も持っていない自分だけのギター」

「お金は?」

「ない」

「じゃあ、アリアプロで満足なさい」 

 まるでそれがあなたにはお似合いよとでも言わんばかりに上から目線で凉美は言った。

「あなたにはアリアプロがお似合いよ」

 そして、口に出しても言った。

「うううっ」

 しかし、正論だった。でも、自分のギターが欲しかった。どうしても欲しかった。自分だけのギター。これだという、本当に納得できる自分だけのギター。他の人間が絶対に持っていない僕だけのギター。もっとちゃんとした本物のギター。本格的な、一生を共にできる僕だけのギター。

 でも、どの雑誌を見ても楽器店に行っても、既存のギターの中には、僕の納得できるものはどこにもなかった。

「自分のギター・・」

 しかし、オーダーメイドのギターを作るほどお金もない。僕はため息をつくしかなかった。 

「うおっほぉ~」

 そこに突然、ジェフがコミカルに飛び跳ねながら、部屋に入って来た。

「うわっ」

 僕と涼美は驚く。すでにいつものように僕の部屋に来ていた丸ちゃんや大吾くんも一緒に驚く。しかし、いつものように部屋の片隅で壁にもたれ、超絶な集中力で分厚い本を読んでいたマチだけは、ジェフに気づきもしていなかった。

「どんな登場の仕方だよ」

 ジェフはいつもその登場の仕方が奇抜だ。

「みんな驚け」

「ある意味もう驚いているよ」

「そうなのか?」

「そうだよ」

「・・・」

 ジェフはフリーズしたみたいにキョトンとする。

「で、何だよ」

「ライブだ」

「えっ」

 メンバー全員があらためてジェフを見る。

「どこ?」

 涼美が訊く。

「カフェ・ホワッ?」

「カフェ・ホワッ??何それ」

 僕が訊く。

「杉本駅の近くの六九ロック町商店街にあるカフェよ」

 涼美が言った。

「凉美知ってんの?」

「有名よ」

「そうなの?」

「あんたは引きこもりだから知らないのよ」

「うううっ、引きこもり関係ないだろ」

 こいつはいつも一言多い。何なんだこいつのこのサディズムは。

「そこで演奏ができるの?」

「行けば分かるわ」

「ううっ、いちいち」

 いちいち棘がある。

「でもカフェ・ホワッ?でライブできるなんてすごいわ」

「そうなの」

「うん」

「・・・」

 なんかすごいところらしい。

「というか、何でいつも突然なんだよ」

 僕はジェフを見る。

「?」

 しかし、ジェフはまたキョトンとしている。その意味すらジェフには分かっていないようだった。


「ここがカフェ・ホワッ??」

 以前に愛ちゃんと行ったアニメショップと同じ六九ロック町商店街にそのカフェはあった。

「ここにこんな店があったのか・・」

 僕は店構えを見つめる。愛ちゃんと初デートの時に、ここは通っているはずだったが、その時には、デートに夢中でまったく気づいていなかった。

 カフェ・ホワッ?は、木製の外観で、カフェというにはちょっとこじんまりとしていた。しかし、店の前の広い商店街の歩道にまで椅子やテーブルが並べられてその専有面積は広かった。

「いいのか・・?」

 いくら商店街の歩道が広いとはいえこれはちょっと広げ過ぎなのでないのか・・。

 中はカフェというよりは、バーのような雰囲気だった。無垢の木を使った温かい感じのきれいな内装に、明るい照明。壁を見ると、数々の有名ミュージシャンのモデルエレキギターが、壁に貼りつけるように飾られていて、ロックな雰囲気を醸している。

「地元にこんなところがあったんだな・・」

 僕は全然知らなかった。人間関係が希薄で、まったくそう言った情報が入って来ず、町の有名なスポットですら僕は知らなかった。

「・・・」

 そして、店の奥を見ると、確かに中には、ステージがあった。ハワイアンパラダイスよりは大きくて明るく、照明なんかも立派なステージだった。だが、正直それ程のすごさは感じない。ここのどこかそんなにすごいのか。僕にはまったく分からなかった。


「何やってんだよ」

 一応楽器を運び入れ、かんたんなリハーサルを終えたライブ前、これからライブだというのに、涼美は、呑気に一人バーのカウンターに座って酒を飲んでいた。

「お酒飲んでんの」

「酒飲んでんのって。そんな呑気な」 

 僕は呆れる。

「俺たちは出演者なんだよ」

「私たちは一番最後よ」

「えっ、そうなの」

「音楽は一番最後なの」

「音楽は?」

 意味が分からなかった。他は音楽ではないとでも言わんばかりだった。

「・・・」

 しかし、そういうことなら・・。

「ビールください」

 とりあえずそういうことなら、僕も一緒に酒を飲むことにした。どうせ、出演前にはいつも飲むのだ。そう自分に甘く言い聞かせ僕はビールを注文した。

 涼美の隣りで僕も一緒にビールを飲み始める。無垢材のカウンターに無垢材の壁は木の香りがしてなかなかいい雰囲気だった。装飾も味があっていい。こんなちょっとこじゃれたところで自分が酒を飲むなんて、引きこもっている時は想像すらもできなかった。

「・・・」

 そして、すぐ隣りには涼美がいる。

「・・・」

 しかし、よく考えれば性格は最悪だがこんな美人と一緒にバーカウンターに座って一緒に酒を飲むなんて、今までの僕の人生なら絶対にありえないことだった。

「何でこんなことになってんだ・・?」

 引きこもりからこの急転直下の今のこの状況に、僕はなんだか自分の人生が自分で分からなくなる。

「あんたよく分かってないみたいだけど、ここでライブできるってすごいことなのよ」

 その時、涼美が隣りから言った。

「そうなの?」

 僕は涼美を見る。

「でも、普通のカフェというか、ライブバーみたいな感じじゃない?」

 僕は全然分かっていなかった。

「ここは大物ミュージシャンも一度は出たいっていう場所なのよ」

「えっ、そうなの?なんで?」

「さあ、そこまでは知らないけど・・、でも、ほら」

 涼美が店の一角を指差す。

「あっ」

 涼美が指さす方を見ると、そこには超有名ミュージシャンの名前の書かれたサイン色紙がずらりと並んでいた。

「・・・」

 ロック界のレジェンドと言われるような人の名前もあった。

「そんなにすごいのっ」

 僕は、本気で驚く。

「武道館でやるような人がなぜ・・」

 この店には何があるのだろか・・。こんな田舎の小さなライブバーになぜ・・。

「何か特別にこの空間は音がいいのだろうか」 

 僕は店内を見回し、あれやこれや考える。が、分かるはずもなかった。

「ここで演奏出来るってことのすごさ、分かった?」

「う、うん・・」

 なんとなくこの店のすごさは分かった。

「・・・」

 というか、ジェフはどうやってこんなすごいところのライブ出演の機会をもらってきたのだろうか。いつもながら、そこがまったくの謎だった。

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