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駅前の人垣

「ん?」

 いつものように一人駅裏のスタジオでギターを弾きまくっての、その帰り道。気分よく歩いていた、丁度駅前を通りかかった時だった。

「なんだ?」

 なんか駅前の広場のところで大きな人垣が出来ている。

「なんだなんだ?」

 野次馬根性の僕はそこまで行って、その人垣の中心を覗こうとする。だが、人が多過ぎて無理だった。何も見えない。しかし、これだけ人が集まるというのは尋常なことではない。気になった僕は人垣をかき分け、中に入って行った。

「一体何ごとだ?」

 僕は人をかき分けかき分け、やっと中心に出ると、顔を上げその中心を見た。

「何ごとだ?あっ」

 人垣の中心にはなぜかジェフがいた。

「ジェフ」

 僕は驚く。

「おう、ヒロシ」

 ジェフも僕に気づき右手を上げる。

「何やってんだよ」

 僕は人垣から出て行こうとした。

「わっ」

 が、その瞬間、僕は慌てて立ち止まった。というか凍りついた。よく見ると、ジェフの前には赤やら白やらの生地に、金ぴかの刺繍の入ったど派手な特攻服を着た見るからにいかついヤンキーが十人くらい立っていた。明らかにやばそうな連中だった。そして、何があったのか、何やらジェフはそいつらと対峙している格好になっている。

「何で?」

 さらに、ジェフの後ろには、泣いている小学校高学年くらいの男の子が三人いた。

「なんだこのシュチュエーションは?」

 訳が分からなかった。なぜジェフが、ヤンキーと向かい合っているのか、この子どもたちが誰なのか。なぜ、この子どもたちが泣いているのか、すべてが分からなかった。

 しかし、やばい状況であることは一瞬で分かった。僕の本能はすぐにその危機を察知し、逃げろと指令していた。僕は、その本能の訴えるがままにもう一度人垣に戻ろうとした。ヤンキーは僕の最大の天敵だった。怖かった。滅茶苦茶怖かった。

「ヒロシ何やってる」

 しかし、ジェフはそんな僕の思いなどまったく気づかずに、僕の背中に声をかける。

「・・・」

 出て行かないわけにはいかない状況だった。僕はしぶしぶ人垣から出て、ジェフの横に並んだ。

「うおぉお」

 目の前には、いかついヤンキーたちが、ものすごい形相で僕たちを睨みつけている。その迫力たるや、もうちびってしまいそうなレベルだった。まるで怒れるライオンの群れの前に立っているような威圧と恐怖を感じた。

「あああぁ」

 あまりの恐怖に、僕の口から奇妙なうめき声が漏れる。あのまま人垣など気にせず家に帰っていればよかった。僕は激しく後悔した。

「誰だテメェ」

 さっそくヤンキーの一人が突然現れた僕に目をつける。

「何なんだよテメェ」

 そして、僕の前に近寄ると、ヤンキーは滅茶苦茶顔を近づけ、いわゆるメンチというやつを切って来る。

「な、なんなんでしょう・・」

 遠くからでも怖いのに、近くだとさらに滅茶苦茶怖い。そもそも他人の顔をこんな間近で見ることもないし、またその顔が、眉毛は極限まで細く剃り込まれ、頭は金髪にしたアイロンを逆さまにしたようなあのなぜその形なのかは謎なヤンキー特有のパーマ頭が乗っかっているあの顔だ。怖い。怖過ぎる。

「うううっ」

 マジで怖過ぎて気絶しそうだった。

「すんません、なんか分からないけどすんません」

 ヤンキーはその歪めた顔をさらにはグリグリと僕に近づけてくる。

「ジェフ」

 とっとと謝って逃げよう。僕はジェフを見た。

「何なんだ。テメェはよぉ」

 隣りではジェフにも同じように、別のヤンキーがグリグリと滅茶苦茶顔を近づけ、ものすごい形相でメンチを切っている。

「ジェフ、早くあやまって帰ろう」

 僕はジェフに言う。

「お前たちは、弱い者をいじめている。それはよくない」

 しかし、ジェフは全然引かない。堂々と、まったく動じることもなく目の前のヤンキーに向かい胸まで張っている。

「なんなんだよテメェはよぉ」

 ヤンキーは、声を大きくし、よりいきり立つ。

「ジェフぅ~」

 何やってんだよぉ、ジェフ。ヤンキーに逆らうなんて、正気か。

「お前たちは弱い者たちをいじめている。それはよくない」

 しかし、凛とした姿勢でジェフは、後ろの子どもたちを守るようにその場を動こうとしない。

「テメェ~」

 ヤンキーは青筋を浮かべるほどにキレる。

「ジェフぅ~」

 僕はもう泣きそうだった。

「こんなんやっちまいましょうよ」

 後ろにいた若いヤンキーが声をかける。

「おう、やっちまおうぜ」

 ヤンキーたちは不穏なことを言い始める。

「ジェフぅ~」

 しかし、ジェフは全然動こうとしない。

「どんな頑固なんだよ」

 僕はジェフを見る。

「とっととやっちまおうぜ」

「マジ、やっちまおうぜ」

 ヤンキーたちの意見は、僕たちをやっちまう方向に一致をみようとしていた。

「この子たちは知り合いなの?」

 僕は、後ろの子を見ながらジェフに囁くように訊く。

「全然知らない子だ」

「マジか・・」

 何やってんだよ。ジェフぅ~。僕はジェフを呪う。

「マジでヤバイぞぉ~」

 マジでヤバイ状況だった。僕たちは特攻服を着たヤンキーの集団にやっちまわれそうになっている。

 しかも、みんなが見ていた。大勢の人が僕たちを見ていた。対人恐怖症で上がり症で気の小さな僕が、衆人環視のその中心で、この世界で最も苦手な天敵のヤンキーと対峙している。滅茶苦茶やられそうな弱い立場で・・。

「どんな地獄なんだ」

 ヤンキーの恐怖と衆人環視の恐怖のダブルパンチで僕はもう、訳が分からなかった。もう、目の前がぐわんぐわん揺れて、全身の血が引き、気を失いそうだった。

「何でこんなことになってんだよ」

 ついさっきまで、僕はいつものように気持ちよくギターを爆音で弾いて、後は家に帰るだけだったのに、何でこんなことになってるんだ。

「なんでだぁ~」

 不幸というのは思わぬところから突然やって来る。僕はこの時、そのことを学んだ。身をもって・・。

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