狂乱のライブ
次の曲も、無敵の僕は当然、ソロを取りに行った。だが、それを予見し、警戒していた凉美は、それを阻んでくる。僕たちはステージ上で、熾烈なソロ争奪バトルを繰り広げ始める。
「うおおおおっ」
それは、自我と自我の強烈なぶつかり合いだった。凉美は、天性の自我の強さだったが、酒を飲んで湧き出す、僕の秘めたる自我も負けてはいなかった。
一つのバンド内の、一つの曲の中で、お互いがソロを隙あらば繰り出しギター合戦のようになっていく。相手の隙を突き、次々と繰り出されるギターソロ。
曲そっちのけで本来の一クールのソロパートを大きく逸脱して、ギターソロを何クールも繰り返していく。
大吾くんも丸ちゃんも、困惑しながらもアドリブでそんな僕たちに合わせてくれる。さすがに普段練習している仲だけあって、そこの臨機応変な反応はすごかった。
「へいへい~、最高だぜぇ~」
ジェフは、人船に乗って観客の上を泳ぎながら観客と一緒に盛り上がっている。
「うああああ」
テンションの上がりきった僕たちは、恐ろしいほどの連続技でお互い交互にギターを弾きまくる。コンマ何秒というレベルでお互い隙をつき合いソロを入れていく。それが、交互に次々入れ替わる。それはまるでめくるめく回転する曼荼羅の世界のようであった。だが、普段から僕の部屋でセッションはしていたので、対立しながらもなぜか呼吸が合っている。対立しながらもどこかで融和し、それは、一つのちゃんとした流れになっている。
「うおおおおおっ」
気づくと、会場はものすごい盛り上がりだった。お互いの緊張が、音の一つ一つの精度を上げ、恐ろしくレベルの高いソロになっていた。
この時のこの僕と凉美のギター合戦は、後のこの学園祭に後世まで語り継がれる伝説にまでなった。
「ヘイへ~イ、紳士淑女のみなさぁ~ん、盛り上がっていきまっしょい」
曲の合間、変なイントネーションの変な日本語だったが、ジェフが煽ると会場はさらに盛り上がる。なんか、青陵の生徒たちは滅茶苦茶ノリがいい。
そして、次の曲次の曲、やる曲やる曲がすべてが大盛り上がりだった。バラードでさえもが盛り上がっている。やればやるほどに熱狂は過熱し、熱がさらなる熱を生んでいく。若者のエネルギーは凄まじかった。
心配などまったくの杞憂だった。マジメな人間ほど、普段エネルギーを抑え込んでいる分、一度ハッチャケルとそのエネルギーは凄まじいらしい。客席は滅茶苦茶盛り上がっている。
「うおおおっ」
「ギぃやあああ」
「うあああああっ」
客席からは、様々な叫び声が飛び交う。
「・・・汗」
盛り上がっているというか、ほとんど暴動レベルになっていた。普段大人しい奴ほどキレると怖いと言うが、まさにそれを目の当たりにしていた。
さらに噂が噂を呼んだのだろうか。生徒たちがどんどん小体育館に集まり増えてくる。小体育館とはいえそこそこ広い、その最初は空きスペースの方が大きかった空間が、どんどん人と熱気で埋まっていく。
「すごい」
ステージから見ていてもそれはすごい光景だった。人人人、人で目の前の空間すべてが埋まっている。その上に人船までができている。次々人が人の上を流れていく。
「うおおおおっ」
凄まじい叫びと熱狂で、人だけでなく小体育館全体が揺れていた。何か、何年かに一度に開催される大きな祭りのような訳の分からん興奮と盛り上がりになり始めている。
そして、あまりの騒ぎに、ついに何ごとかと先生たちまでがやって来た。あまりの狂乱振りにさすがにこれはやばいと思ったのだろう。
「こら~、ストップストップ」
大きく両手を振りながら、先生たちが叫び始めた。
「何やってんだ。中止だ、中止」
さすがに進学校の先生だけあって、マジメで頭が固い。即中止を言って来た。
しかし、そんなことでとまる僕たちではない。
「ヘイへへ~イ」
ジェフが煽る。
「うおおおおおっ」
生徒たちが吠える。僕たちは無視して、しかも、さらにボリュームを上げ、さらなる爆音でロックをやりまくった。もちろん、観客の生徒たちも先生の言うことなど誰も聞かない。
「これがロックだ」
まさにロックだった。僕たちはさらに燃えた。生徒たちの勢いと数に、先生たちも成す術もなく、黙るしかなかった。
「ロックだぜぇ」
僕はロックだった。この会場すべてがロックだった。
「アンコールアンコール」
最後の曲が終わると、冷めやらぬ熱気が大盛り上がりでアンコールを叫ぶ。
「よしっ、いくぜ」
ジェフが僕たちを見た。
「おうっ」
僕たちは、スケジュールをも無視して、演奏を始めた。
一応学園祭ということで、定番のブルーハーツのリンダリンダとトレイントレインを練習していた。
「リンダリンダ~♪リンダリンダ~♪」
ジェフの歌うリンダリンダ。声質がその曲によく合っていた。これがまた大盛り上がりだった。熱狂が熱狂を生み、マグマのような若い行き場のなかったエネルギーが爆発する。もう狂わんばかりに、渦巻く熱量が、限界点を超え、もはや、狂乱状態だった。
僕たちもそんな熱狂に、巻き込まれるようにして、白熱していく。アドレナリンは出まくり、全身は熱い血で燃え盛る。
「うおおおおっ」
僕は叫ぶ。僕は生きていた。生きていた。生きながら死んでいたあの僕が今、完全燃焼しながら生きていた。
「うおおおおっ、あああああ」
僕は叫ぶ。
「あああああ」
客も叫ぶ。
「いやああっほぉ~おおおっ」
ジェフも叫ぶ。
もはやみんなほぼトランス状態に入っていてもう訳が分からなかった。誰も彼もが、我を失いロックの音とリズムの中に、発狂していた。
ジャ~ン
リンダリンダとトレイントレインをノンストップで三回ずつ繰り返した後、最後のギターの一振りが振り下ろされ、ギターのその残響音だけが会場に響く。そして、まだ燃え盛るような熱量の中、ライブは終わった。
「ふぅ~、最高だったな」
ライブが終わり、舞台袖で気持ちのいい額の汗を僕は拭った。今回はものすごく盛り上がり、凉美にボコボコにされることもなく無事ステージを終えることが出来た。
「いや~、最高だった」
訳の分からない脳内麻薬が出まくり過ぎて、まだ頭がくらくらしていた。こんな最高は初めてだった。気持ちのいい汗と疲労感と興奮の余韻。本当に最高の気分だった。
「よかったよかった」
自分の人生にこんな最高の時が来るなどと、今まで想像すらできなかった。
「いや~、生きていればいいことがあるもんだ」
本当にこの時の僕は最高の気分だった。だが、そんな呑気な気分に浸っていた、その時だった。
ドガッ
「うおっ」
僕は後ろから突然思いっきりどつかれた。僕はのけぞるように前方にもんどりうってぶっ倒れる。
「今度やったら殺すって言ったよな」
顔を上げると、凉美が、倒れた僕の上に仁王立ちしていた。
「ああああっ」
僕は顔を引きつらせ叫ぶ。一気に酔いが冷め、いつもの気の小さい僕が復活すると、全身から血の気が引いた。
「死ね」
「あああ、やめれぇ~」
僕の叫ぶ声が、ステージ横から響いた。僕はやっぱり怒れる凉美にボコボコにされた。




