おっぱいとマチの素性
「クソォ~、おっぱいぃ~」
僕は叫んでいた。キスの次は、おっぱいだった。思春期の生に狂う男の頭の中にある憧れの第一番は、何を差し置いても絶対におっぱいだろう。
「うううっ」
おっぱいはなんて、魅力的なんだ。その膨らみ、そのボリューム、その質感、質量、存在感。そのすべてにおいて、全宇宙において、最高の創造物だった。愛ちゃんのそれは決して大きくはなかったが、しかし、それでも、その迫力は核兵器レベルだった。
「おっぱいはなぜおっぱいなんだ」
「何言ってだ?お前」
凉美がいぶかし気に僕を見る。学校帰りの放課後、凉美はいつものように僕の部屋に来てギターを弾いていた。
「うっ」
僕はそこで我に返る。
「な、何でもない」
おっぱいに興奮し過ぎて、我を忘れていしまっていた。
「しかし・・、それにしても・・」
今日も凉美の服装はセクシーだった。その牛乳プリンのように白くやわらかそうな胸の谷間が恐ろしいほどに、胸元からこぼれ出ている。
「うううっ」
それは、まるで白い悪魔のように、僕をふわふわぽよぽよと誘惑する。
「お前はセクシーじゃないと死ぬのか」
「死ぬわけないでしょ」
「知ってるよ」
「何でキレてんのよ」
「だって、だって」
僕はどうしてもその魅惑的なその牛乳プリンのような滑らかでやわらかそうな胸の谷間を見つめてしまう。愛ちゃんという最愛の恋人がいながら・・。でも、その魔力には勝てない。
「うお~、俺は最低だぁ~」
僕は頭を抱える。
「大丈夫ですか?ヒロシさん・・汗」
同じく部屋にいた丸ちゃんまでが、思わず心配の声を僕にかける。
「ノイローゼだな。思春期に多いんだ」
凉美が呟くように言った。
「両親とか心配しないのか?こんなに家に帰らなくて」
別の日、部屋でマチと二人きりだった僕は、ふと普段気になっていることを訊ねた。マチは、いつものように部屋の片隅で壁に背をもたれかけさせて、何か分厚い小難しそうな本を読んでいる。
「全然」
何の迷いのない即答だった。
「大丈夫よ。むしろ喜んでるんじゃないかしら」
「・・・」
マチは、もう何か月も当たり前のように僕の家に居候している。
「マチっていったい何者なんだ?」
僕は、その日の夕食時、みんなに問いかけた。丁度マチはいない。
「何よ今さら」
凉美がつっけんどんに言う。
「・・・」
確かに今さらだったが・・。
「でも、気にならないか」
「別に」
「・・・」
にべもない。
「絶対なんか訳ありなんだよ。虐待されてるとかさ。家出少女とかさ」
僕は母を見た。
「そうねぇ・・」
「そうだよ。家に全然帰らないんだよ」
「だったらずっとうち居たらいいじゃない」
「そういう問題じゃない」
やはり、うちのは親はどこかおかしい。むしろこういう話は、そもそも責任ある大人である母親の方からすべきことではないのか。
「じゃあ、あんたがなんとかすれば?」
母が切り返してくる。
「そうよ。お兄ちゃんがマチに訊けばいいじゃない」
そこに千亜も乗ってくる。やはりすぐに女は連合艦隊を結成してくる。
「そうよ、気になるならあんたが訊きなさいよ」
そこにさらに凉美まで乗って来る。
「お前マチと仲がいいじゃないか。お前からそれとなく訊いてくれよ」
「いやよ」
即答だった。
「うううっ」
自分ではものすごく世間一般的な正しいことを言っているつもりだが、この場ではなんか僕がおかしなことを言っているみたいな空気になっている。
「・・・」
僕はチラリと、味方になってくれないかと、大吾くんと丸ちゃんを見る。しかし、大吾くんは母の作ったコロッケに夢中で、そもそも話の中にいない。そして、丸ちゃんは、うつむいたまま、僕と目を合わせようとすらしない。
「・・・」
僕は完全に女連合軍の前に孤立していた・・。
「何か事情があるのか?」
また別の日、部屋でマチと二人きりになった時、僕はそれとなくマチに訊いた。
「何が?」
マチが読んでいた本から顔を上げる。
「いや、だから・・」
普通分かるだろ。
「いや、だから、家のこととか?」
「家?」
「だから、その、だから、家に帰りづらいとか?」
「ああ」
そこで初めてマチはピンときたらしかった。頭がいい割に、マチはこういうことにはものすごく鈍かった。
「別に」
「えっ」
なんか、想像していたのと反応が違う。
「でも・・」
「じゃあ、一緒に来る?」
「えっ、来るって、どこに行くんだ?」
「だから、あたしのうち」
「えっ」




