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晩飯

「あらっ、お帰り」

 いつものスタジオ練習が終わり、メンバーといつものように僕の家に帰り、食堂の開き戸を開けると、母が呑気に僕を見た。

「・・・」

 見ると、普通にマチが家族と飯を食っている。

「なんか、完全にうちの家族になっとるな・・汗」

 それはあまりに自然な光景だった。

 今日は、急に凉美が来れなくなって、大吾くんと丸ちゃんと三人での練習となり、涼美がいる時には弾けないソロを思いっきり弾きまくり、大変に満足な練習だった。大吾くんはまだ怖かったが・・。

「あらっ、新しいお友だち?」

 母が僕の後ろに立つ大吾くんを見上げた。

「うん、まあ・・」

 友だちと呼ぶにはまだまだ怖い存在だった。

「まあ、大きいのねぇ。いくつ?」

 だが、まったく恐れる様子もなく母が目を見張る。

「百九十三す」

 大吾くんが頭を軽く下げて答える。

「まあ、すごい」

 母は大仰に驚く。

「それにカッコいいわねぇ」

 母は、ほれぼれするように大吾くんを見つめる。

「悪かったなカッコ悪い息子で」

「何いじけてんのよ。お兄ちゃん」

 千亜が、僕にツッコむ。

「ご飯は?」

 母が僕を見る。

「まだ」

「三人とも?」

「うん」

「じゃあ、食べていきなさいよ。すぐ用意するわ」

 母は大吾くんと丸ちゃんを見た。

「はい」

 二人は頭を下げながら、同時に答えた。僕たちはダイニングのテーブル席に着いた。

「フフフ~ン♪」

 台所に立った母は、なんかうれしそうに僕たちの飯の用意を始める。どうもうちの母は、子どもに飯を食わせることに喜びを感じる質であるらしい。僕がまだ小さい頃から、仲のよかった近所の子を家に招き、よく飯を食わせていたし、みんながめんどくさがる地域の行事なんかで、子どもたちのために料理を作る時も、どこか楽しそうだった。

「はい、たくさん食べてね。おかわりあるから」

 出てきたのは、母お得意の特性ハンバーグだった。

「はい」

 大吾くんが元気よく答える。丸ちゃんもその丸い巨体を縮め、なぜか申し訳なさそうに答える。

「どう、おいしい?」

 母は大吾くんを見る。

「うまいっす」

「おかわりしてね」

「はい、じゃあ、お願いします」

 早速、大吾くんはおかわりをする。

「丸ちゃんは?」

 母が丸ちゃんを見ると、丸ちゃんもおずおずと空になった茶碗を差しだす。

「いい食べっぷりね。作った甲斐があったわ」

 母はうれしそうに言う。実際その体の大きさからすれば当然なのだが、大吾くんはよく食べる。

「これだけ食べてくれると、ほんと作り甲斐があるわね」

「なんでチラチラ僕を見るんだよ」

 母はなぜか大吾くんと比べるようにしてチラチラ僕を見る。何かさっきから僕に対する棘を感じる。

「ほんとおいっしいっす。うち、毎日カップラーメンなんで」

「えっ」

 みんな驚いて大吾くんを見る。

「毎日?」

 僕が隣りから大吾くんに訊く。

「はい」

「・・・」

 全員黙り込む。そんな家があるのか・・。みんなそんな顔をしている。

「うち母子家庭で、母ちゃんが家にほとんどいないんで」

「そうなの」

 気の毒そうに母が眉根を寄せる。

「小さい時から、晩飯はいつも、弟と妹と三人でカップラーメン食ってました」

「・・・」

 全員言葉もない。

「じゃあ、これからは毎日うちに来て、ここでご飯食べなさい」

「ええっ」

 僕が驚いて母を見る。

「それいい考え。私も手伝う」

 千亜がうれしそうに言った。

「おいっ」

 千亜まで・・。

「ねっ、そうしなさいよ」

 母がさら言う。

「ちょ、ちょっと待てよ」

 僕は慌てる。

「はい」

 しかし、大吾くんが僕の隣りでうれしそうに返事をする。

「弟さんや妹さんにもお弁当作ってあげるわ」

「ありがとうございます」

「・・・」

 僕の思いなど関係なく、交渉は成立してしまった。大吾くんは毎日うちで飯を食うことになった・・。

「・・・」

 怖くないのか。大吾くんは暴走族のヘッドだぞ。しかも暴走族を束ねている暴走族のヘッドだぞ。

「ていうか、食費大丈夫なのかよ」

 僕が母にたしなめるように言う。涼美や丸ちゃんもよくご飯を食べていくし、ジェフだってそうだ。うちは普通のサラリーマン家庭だ。決してお金持ちではない。

「大丈夫よ。母さんの実家は農家だって言ってるでしょ」

 そうだった。母の実家はお米のおいしい新潟の農家だった。米から野菜、海産物、果物まで要らないというくらいしょっちゅう送って来る。

「助かるくらいよ」

「そうか・・」

 この不況下にあって、うちは呑気だなぁ・・。僕は思った。

「でも、母さん大変じゃないのか」

「あら、心配してくれるの。でも大丈夫よ。母さんの趣味は子どもにご飯食べさせることだから」

 母は、どこか自慢げに言う。

「・・・」

 やっぱりそうなのか・・。マチがうちに来た時もどこかうれしそうだった。そういえば確かに母はそれぐらいしか趣味らしい趣味を持っていない。

「・・・」

 しかしそれにしてもうちは呑気だ。呑気過ぎる・・。

「他に趣味持てよ・・」

 僕は一人呟く。

「でも、気にならないのかよ」

「何が?」

 母が僕を見る。

「何がって、赤の他人が普通に一緒に飯食ってんだぞ」

 僕はマチも見ながら言った。

「気にならないわよ。マチちゃんはもううちの子よ」

「違うだろ」

 母の中ではマチはうちの子になっていた。

「違うだろ。絶対うちの感覚はおかしい。父さんは何も言わないのかよ。っていうか最近父さんを見ていないけど・・」

「父さんなら中国に長期の海外出張よ」

「えっ、そうなの!」

「あんた知らなかったの」

「知らなかった・・」

 今、初めて知った・・。そういえば最近全然姿を見ない。僕は昼夜逆転しているし、父さんは、毎日残業で夜も遅い。だから、いてもいなくても、お互いあまり顔を合わせない。

「父さんも何も言ってなかったわよ」

「・・・」

「お兄ちゃん、妬いてるんでしょ」

 千亜が僕の顔を覗き込むように言った。

「なんでだよ」

「ああ、そういうこと」

 母が、僕を見る。

「ち、違う」

「かまってもらいたいのよ」

 千亜が言った。

「そうならそうと、素直に言いなさよ」

「愛を独り占めにしたいのね」

 マチが言った。

「うううっ」

 また女子連合軍が結成される。

「うううっ」

 僕はうなるしかなかった。でも、絶対にうちの感覚はおかしい。あまりに呑気過ぎる。

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