変人な人たち
「や~ま~だ~、ゆううううぃぃぃっこ~♪ ぃや~ま~だ~、ゆううぃっこ~♪」
そして、次に出てきた人は、古風なアコーディオンを胸に抱き抱え、その昭和なメロディーに乗せ、ただひたすら自分をいじめた奴の名前を繰り返すだけの歌を延々歌うというこれまた変人だった。
「・・・汗」
また、あまりの強烈な個性に会場はドン引きしながら戸惑う。どう反応していいのかが分からない。しかし、彼は一人、そんな空気などものともせずに一人自作の歌を熱唱し続ける。
最初に出てきた人もそうだが、歌の内容、出来はともかくとして、その思いと気持ちの込め方は半端なく、そこには凄みすら感じた。だが、会場は僕も含めやはり、誰一人としてその世界観についていけない。
「なぜあれがでる・・汗」
僕には不思議でしょうがなかった。普通にステージに立つだけで緊張している僕からすると、信じられない光景だった。
「メンタルはすごいんだがなぁ・・」
僕は呟く。あの強靭なメンタルはうらやましかった。
「おっ」
次に出てきたのはバンドだった。今度は今どきの若者といった感じで、まともそうな感じがする。これでやっと、落ち着いて聞ける。そう思った。
自作の歌は独特なメロディーで、しかもボーカルは音痴だった。しかし、前奏者が前奏者だけに、普通に歌になっているだけでまともに聞こえる。全然耐えられた。
それに何やらステージ前の方には彼らのファンもいるらしく、なんか局所的に盛り上がっている。
「こういうのが、今はウケるんだな」
僕はそんなことを考えながら、彼らを見ていた。僕には全然よさが分からなかった。歌はアニメ音楽のようなかなり独創的で、歌詞もなんだかへんてこだったが、なんかウケている。
そして、曲は二曲目に入った。その時だった。
ボーカルの子が、何の気なしに剃刀の刃を手に持つと、いきなりそのまま自らの額を剃刀で切った。
「わあああっ」
僕は叫ぶ。額からものすごい量の血が滝のように流れ出し、あっという間に顔面が真っ赤になった。
「わあああっ」
僕も他の観客もめちゃくちゃ驚く。
だが、それはいつものパフォーマンスなのか、その局所的ファンたちはなんてことなく普通に盛り上がっている。
「マジかぁ・・」
しかし、僕を含めたそれ以外の客はやはり、ドン引いていた。
「いいんですか?」
すぐ後ろに立っていた、ライブハウスのオーナーに問いかける。
「お金払ってくれたらなんでもオッケーねぇ」
「・・・」
聞いた僕がバカだった・・。
「今日は変人祭りだな・・色んな意味で・・」
僕はちらりともう一度オーナーを見た。
そして、次のバンドが出てきた。
「叫ぶこわれ者の会?」
バンド名からして何やらやばそうだった。
そして、マイクの前に立ったのは妙に色白の禿げたおっさんだった。しかも、なぜかそのおっさんは古びたパジャマ姿である。
「絶叫朗読」
開口一番、そう言うか男は、バックバンドの演奏に合わせ、いきなり叫び出した。
「いじめで不登校、二十歳でお酒と精神薬の中毒。二十六で精神病院に措置入院。自殺未遂三回」
バンドのバックミュージックに合わせ、ひたすら自分の病歴を読み上げていくという、詩の朗読のような音楽だった。
彼らにも局所的なファンがいるのか、客席の前方の一部で盛り上がっている。
「それでも俺は生きている。恥をさらして生きている」
おっさんは唾を飛ばして叫ぶ。
「な、なんか知らんがすごい・・汗」
変わった人たちだったが、その叫びには迫力と魂を感じた。
「私は死にたい病・・」
次は若い女の子が出てきた。
「家ではお父さんがお酒を飲んで暴れ、学校では同級生にいじめられ・・、どこにも私の居場所がない・・」
「分かる。分かるぞ」
いつしか、僕も熱く共感していた。こんな切り口もあるのか・・。僕も最初は戸惑ったが、彼らに同じ匂いを感じ、気づけば激しく共感していた。
「引きこもりで、上がり症で、希死念慮」
僕も叫びたかった。
「よかった」
とてもよかった。終わった頃には、僕は熱く激しく興奮し、彼らの完全なファンになっていた。
「叫ぶ壊れ者の会・・」
僕は、彼らを無茶苦茶カッコいいと感じた。彼らの叫ぶ壊れ者の会に入りたいと思った。
「何興奮してんだよ」
隣りから涼美がそんな僕を見る。
「う、うん・・」
絶対、こいつには僕たちの気持ちなど分かるわけはない。僕は思った。
しかし、思いがけず、なかなかいいバンドに出会えた。どこにどんな音楽が転がっているか分からないものだ。僕は少しいい気分になった。
「しかし・・」
しかし、あまりの強烈な個性派の連続に、僕の度肝は落ち着く間もなく刺激されどうしだった。なんだか、今までの僕の中の常識的世界観が崩壊し、変人たちの臭気に覆われてしまいそうだった。
「おっ」
次はなんだか、マジメそうな男の人が出てきた。黒縁の眼鏡をかけ、頭髪を大量のポマードでこれでもかと後ろに撫でつけた鋭い目をした男の人だった。この人は大丈夫だろう。僕は思った。というか祈った。さすがにそろそろまともな人を見ないとやばい。
だが、その男は突如として、眼鏡を外すと、真っ黒いマントのような服を羽織った。
「わっ」
そこには、両胸に大きく愛国、皇国と金色の糸で刺繍されてあった。
そしてその男は、巨大なトラメガを手にした。
「我々はこの国を憂う者であ~る。今日はぁ、我々の思いを聞いてもらいたい」
男はトラメガをがなり立てる。それと同時に、同じような暴走族の特攻服のような服を着た男たちが楽器を持って出てきて、それぞれのポジションについた。その動きは軍人のようにきびきびとしている。その男たちの服にも同じように、愛国やら皇国やら、その他意味の分からない四文字熟語が並んでいる。
「堅忍不抜?忠勇義烈?憂国烈士?」
なんとなく、国を必死で愛してることだけは伝わった。
「この国は今危機に瀕している。平和は今や風前の灯、トラの前の小鹿、
ジャイアンの前の野比のび太・・、中国、韓国、北朝鮮、うんたらかんたら・・」
男の前説は長い。前説だけで時間が終わってしまいそうだった。
「このままではこの国は滅びてしまう。立ち上がれ、若人よ」
男は右こぶしを突き上げ、叫んだ。
「・・・汗」
だが、その場にいる誰一人として反応できなかった。会場はこれ以上ないほど固まる。
「今この国は・・」
しかし、男は慣れているのか何事もなかったかのように、また話を続けた。
「やっぱりメンタルがすごい・・汗」
僕は呟く。
「天皇陛下バンザ~イ」
そして、話の終わりに男はそう叫ぶと、やっと曲が始まった。
「愛国、愛国、ニッポンバンザ~イ♪今こそ戦え~、お国のために~♪」
軍歌のような歌だった。
「・・・」
もちろんその場にいた全員ドン引きである。
「いつの時代だよ・・汗」
最後に君が代を熱唱して、やはり、前説が長過ぎてかなりの時間をオーバーして、その愛国バンドの演奏は終わった。
「・・・」
マジメそうな男は、さらなる強烈な変人だった。
「やっぱり、変人ばかりじゃないか・・汗」
怒涛の変人祭りに、僕は頭を抱える。僕の脳みそはくらくらしていた。
しかし、これで少し緊張がほぐれた。このメンバーたちの後なら多少変なバンドでも、変だと思われることはないだろう。僕は少しほっとした。なんだか久々に、気が大きくなる。
「ふふふっ」
緊張からの解放の反動で、顔が自然とにやける。
なんだか自分がまともな人間にすら思えて来た。僕は不登校で高校中退者で引きこもりで、世間一般から見ればかなりの変人なのだが、僕よりももっと変な人間がいるということが、なんだか安心感を与えてくれる。なんだか、今日なら僕はやれそうな気がした。何をやるかは分からないが・・。
だが、そこでライブ会場の空気が一気に変わった。
「ん?」
僕は辺りを見回す。急に観客も増えだす。そして、熱気が湧き上がる。今までにない空気感だった。
「なんだ?」
そこに次のバンドが出てきた。
「あっ」




