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大吾くん練習初参加

僕たちはスタジオにいた。

「・・・」

 今日は、大吾くんが初めて僕たちの練習に参加する日だった。僕は緊張していた。心臓が激しい動悸を打っていた。足がすくんでいた。近くの丸ちゃんも緊張しているのが分かった。首筋に妙な汗をかいている。

 というか僕たち二人は怯えていた。

 そこに大吾くんが大きなハードケースを抱えてやってきた。やはりデカい。そして、怖い。ハードケースを持つその姿は、なんだか殺し屋に見える。

「こんちわっす」

 大吾くんが頭を下げる。だが妙に礼儀は正しい。

「こ、こんにちわ」

 僕はおずおずと挨拶を返す。

「なんでビビってんのよ」

 涼美が僕を睨む。

「うううっ」

 こいつに僕たちのような常に弱い立場で生きてきた人間のメンタルなど分かるわけもない。僕はただうなった。

「あんたがバンマスなんだから、大吾くんと話をしなさいよ」

 すると、涼美が僕を睨むように言った。

「ええっ」 

 このバンドの実質的なリーダーは誰が見ても涼美だった。

「しっかりしなさいよ、バンマスなんでしょ」

「うううっ」

 その辺は涼美に全部任せる気でいたのに・・。それに今日はジェフもいない。

「がんばってね。バンマス」

 涼美が僕の肩を叩く。

「うううっ」 

 やはり、バンマスなんて名前だけでただのパシリ&便利屋だ。今にして思えば、涼美にしてやられた。しかし、悔やんでももう遅い。

「それ、ベース?」

 僕は大吾くんの持っている大きなハードケースをおおずおずと指差す。

「そうっす。ダチから借りて来たっす」

 なんか涼美の背に隠れるようにして大吾くんと話をする。やはり、大吾くんは怖い。

「出していいっすか」

「ど、どうぞ」

 僕は低姿勢で手の平を上に向ける。

「なんでそんなに低姿勢なのよ」

 涼美がそんな僕にツッコむ。

 大吾くんはハードケースの留め金を開けた。

「・・・」 

 僕たちは大吾くんの開けるケースを固唾を飲んで見つめた。大吾くんの持ってきたハードケースはかなり大きい。なんかすごいベースが出てきそうだった。

 大吾くんがケースの蓋を開け、そこからおもむろにベースを取り出す。そしてそれを持ち上げた。

「ち、小さいんだね・・汗」

 大きめのハードケースから出て来たのは、黒い極小デザインのベースだった。ネックのヘッドもなく、ボディも無駄が完璧にそぎ落とされた縦長の将棋の駒みたいな形をした極小設計のベースだった。

「これの専用のケースが無かったんす」

「そうなんだ・・汗」

 ベースの大きさと比べると、ケースだけが異様に大きかった。

 その取り出したその小型ベースを大吾くんが肩にかける。

「・・・汗」

 小さなベースは大吾くんの体が大きいだけに、なんだかよけいに小さく見える。大吾くんの体の大きさともミスマッチだった。

「音出してもいいっすか」

「は、はいどうぞ」

「なんで敬語なのよ」

 涼美がまたツッコむ。

「あ、アンプはこれです」

 だが、やっぱり敬語になってしまう。

 大吾くんが、アンプにシールドを繋いだ。そして、ピックを持つ。そして、ピックを振り下ろした。

「おおおっ」

 しかし、ベースが小さくても、やっぱり大吾くんの引くベースの音圧はすごい。地響きのような低音が腹の底に重く響く。技術的にはまだまだだったが、その力強いピッキングの迫力はすごかった。

 大吾くんが、そのままデケデケとベースラインを流れるように弾いていく。

「うおおおっ、やっぱりすごい」

 低音の重厚な音圧に内臓を揺さぶられながら、僕は思わずうなった。

 僕たちはさっそく、それぞれ楽器を持ち、音を合わせる。ベースラインに厚みがあり、ギターを弾いていても心地良さがある。

 丸ちゃんのドラムテクニックも、ここ最近、短期間の間にかなり上達していた。リズムと音の強弱に安定感が出て、さらにテクニックも身につけ始め、力強さが出始めている。

「このリズムラインはいいぞ」

 バンドの基礎がしっかりしてくると、俄然バンドとしての質が上がって来る。

 さらにそこにツインギターになってさらに音に厚みが加わって、バンド全体に迫力が出た。涼美も納得の表情をしている。

「おおおっ」

 これはいいぞ。僕はギターを弾きながら、テンションがどんどん上がってくる。

「これは本当にすごい」

 バンドとして、形が出来、しかも、レベルが上がっている。当初のバンドの状況からしたらものすごい進化だった。

「すごい、すごいぞ」

 僕は始めてこのバンドに可能性のようなものを感じた。

「いけるかもしれない・・、このバンドはいけるかもしれない」

 僕は興奮した。

「これで、大吾くんと丸ちゃんの技術と経験値が上がってきたら、すごいバンドになるぞ」

 僕はどんどん興奮して来る。

「クソッ」

「わっ」

 その時、大吾くんが、突然大音声で叫んだ。

「ど、どうしたの・・?」

 バンド演奏が止まり、沈黙の流れるスタジオの中で僕がおずおずと大吾くんに訊ねる。

「音、間違えたっす」

 大吾くんはめっちゃ、悔しがっている。

「えっ?」

「音を間違えったっす」

「い、いや大丈夫だよ。練習なんだし・・汗。そんなに叫ばなくても・・」

「昨日めっちゃ練習したのに。クソッ」

 ド~ンッ

 大吾くんが壁を殴った。スタジオの小屋が揺れる。すごいバカ力だ。

「だ、大丈夫だよ」

 僕が大吾くんをなだめる。

「クソッ」

 だが、大吾くんはめっちゃ悔しがる。また小屋が揺れた。スタジオは防音使用になってるから相当壁とか厚くできてるはずだが、小屋はぐわんぐわん揺れる。やはり、大吾くんの力は半端ない。

「くやしいっす」

「意外と完璧主義者なんだ・・汗」

 僕はビビりながら呟く。

「・・・汗」

 やっぱり、大吾くんは怖かった・・。


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