ワイワイバーガー
「あっ、もうお昼ですね」
狭い店内だったが、あまりに濃い内容に、夢中で見ていたら、気づけば、もうお昼をかなり過ぎていた。あっという間に、駅前で待ち合わせてから四時間が経っていた。
「時間たつの早いな」
「そうですね」
僕たちは驚く。
「楽しい時間は早く過ぎ去るんですよ」
「うん」
本当にあっという間だった。
「ヒロシさん、ハンバーガー好きですか」
その時、突然愛ちゃんが言った。
「えっ、う、うん」
僕は麵党で、特別好きではなかったが、愛ちゃんに訊かれついうなずいてしまう。
「私割引き券あるんです」
「えっ」
「ワイワイバーガーの」
愛ちゃんはかわいいピンクの財布から、ワイワイバーガーの割引券を二枚取り出し、僕に見せた。
僕たちは駅前まで戻り、駅前にあるハンバーガーショップ、ワイワイバーガーに入った。
「ここおいしいですよね」
「うん」
僕も小学生の時に、友だちと市民プールに行った帰りに寄ったことがあった。ワイワイバーガーは、チェーン店のハンバーガーとは違って、一から手作りで、味が格段においしかったのを記憶している。
「何にしようかな」
注文の順番待ちの間、愛ちゃんがかわいく悩んでいる。この普段なら完全に無駄でイラつく時間すらがなんだか楽しい。
「ヒロシさんは何にします?」
「僕は照り焼きセットでいいや」
僕はハンバーガーショップに来た時は、いつも照り焼きセットだ。
「じゃあ、私もそれにしよ」
愛ちゃんが笑顔で僕を見る。愛ちゃんはやっぱりかわいい。もう、すべてが幸せだった。幸せ過ぎてくらくらした。
「おいしいですね」
「うん」
僕たちは窓際のテーブルに向かい合って座り、ハンバーガーを食べていた。二階の窓からは駅前の行き交う人たちが見える。
「・・・」
僕はてりやきバーガーを食べながら、あらためてテーブルの向かいに座る愛ちゃんを見る。当たり前だがそこには愛ちゃんがいる。普通に、食べているが、あらためて意識すると、女の子と二人きりで食事をするなんて生まれて初めての体験だった。なんだかそう考えると、再び緊張してきた。
緊張すると、目の前にいる愛ちゃんの存在がさらにリアルに迫って来る。するとより意識してしまいさらに緊張してくる。それを繰り返していると、緊張し過ぎて、幸せなのか苦しいのかよく分からなくなってくる。
「あれすごく面白いんですよ」
だが、勝手に緊張する僕になどまったく気づくことなく、愛ちゃんは、ハンバーガーをパクつきながら、なおも一人アニメの話に花を咲かせている。愛ちゃんはかなりマイペースな子なのか、あまり僕を意識していない感じがあって、僕はそれに救われる。
「これです」
すると、僕は全然話を聞いていなかったのだが、何かの話の流れで愛ちゃんがバックから漫画本を何冊も取り出した。
「それ持って来ていたの」
僕は驚く。
「はい、ヒロシさんに見せたくて」
そういえば 愛ちゃんは体に似合わないやたらと大きなバックを背負っていた。
「・・・汗」
そこには漫画本が入っていたのか・・。僕は驚く。愛ちゃんは僕が思っていたより相当変わった子だった。でも、僕も変わり者だったし、なんかそういう子の方が安心する。だから、よけいに愛ちゃんのことが僕は好きになった。
「私変わってますか?」
「えっ」
突然、愛ちゃんが真剣な眼差しで僕を見る。突然の質問に、僕は戸惑う。
「私変わってるって、よく言われるんです・・」
急に声のトーンが落ちる。
「お前変だって。だから、学校でいじめられて・・」
「そうだったんだ・・」
分かる。分かるぞ。僕も似たような経験がいっぱいある。
「変わってないよ。愛ちゃんは」
「ほんとですか」
「うん」
僕がそう言うと、愛ちゃんはとてもうれしそうな顔をした。そして、再び、怒涛の如くマニアックなアニメと漫画の話を始めた。
「・・・汗」
やっぱり愛ちゃんは変わっていた・・。




