打ち上げ
「打ち上げ?」
ライブ終了後、突然の話に、僕はきょとんとする。花火を打ち上げるには、季節的にまだ早い。それになぜ花火なんだ・・?
「えっ、飲みに行かないの?」
僕は涼美を見る。
「だから飲みに行くんでしょ」
涼美がさらりと答える。
「???」
僕は噛み合わない会話の中身が一人分かっていなかった。
ライブハウスから移動して、辿り着いたのは、あの高架下のホルモン焼き屋だった。
「打ち上げっていうのか・・」
僕は打ち上げが、イベント終了後の飲み会であることすら知らなかった。
「・・・」
僕は人知れず凹んだ・・。そんなことすら、引きこもりの僕は知らなかった・・。
「なんで落ち込んでんの?」
そんな僕を不思議そうに涼美が見る。
「いや・・、自分の社会から置いてかれてる感を今、猛烈に実感していたんだ・・」
「はい?」
涼美は意味が分からず、さらに僕を見る。
「しかし、やっぱり、ここなのね・・」
僕はホルモン焼き屋の屋台を見ながら呟いた。高架下のホルモン焼き屋は僕たちの中でもはや定番になっていた。
「しょうがないでしょ。お金がないんだから」
涼美が言う。
「まあ、そうだな」
ここなら、千円もあればたらふく飲めて、食べれる。
「ん?」
その時、僕は後ろがなんだか騒がしいのでふと、後ろを振り返った。
「あ、女の子がいる・・」
そこには何人か見知らぬ女の子たちがついて来ていた。
「ん?なぜ?」
僕は首を傾げる。
「オレさまが誘ったんだ」
ジェフが自分にドヤ顔で親指を突き立てる。
「えっ」
僕はジェフを見る。
「い、いつの間に・・」
こういうところはジェフはすごい。僕はもう一度、あらためて女の子たちを見た。
「あ、か、かわいい」
その女の子たちの中に赤い縁のめがねをかけた、きれいな長い黒髪をツインテールにした子がいた。地味な感じの子だったが、顔はとてもかわいらしかった。
「かわいい・・」
僕は口半開きで見惚れた。僕はなぜかかめがねをかけた子が好きだった。
「何してんのよ」
「えっ」
涼美がイラつきながら僕を見ている。
「早く座りなさいよ」
「でも、席が足りないんじゃないか?」
どう見ても、屋台前の長椅子だけでは足りない。
「大丈夫よ」
涼美が言った。
「えっ」
すると、大将が、店の前の歩道に丸テーブルや椅子を並べ始めた。
「えっ?」
そして、仮説のテーブル席が二つ出来上がった。
「いいの?」
「大丈夫よ」
涼美は澄まして答える。しかし、歩道を思いっきり占拠している。
「絶対、道交法違反だよな・・、これ・・」
そして、みんな適当に席に着く。僕はその仮設のテーブル席に座った。
「ん?」
ふと座った隣りの席を見ると、女の子が座っている。
「!」
あの赤いめがねをかけた子だった。僕は一気に緊張した。
「マジか・・」
僕は固まった。
「やった」
でも、心の中ではそう思う自分もいた。
「でも、こんなかわいい子が僕なんか・・」
しかし、すぐにいつもの弱気なマイナス思考が、僕の前に立ち現れる。
「やった、でも・・、」
うれしい、しかし・・、僕の中の逡巡は続いた。
「あの・・、どうぞ」
「えっ」
自分の中で延々弱気と歓喜を繰り返していると、僕の隣りのその子が、ビール瓶を持って僕に向けてくれていた。
「あ、ああ」
僕は慌てて、コップを持った。
「ありがとう」
その子が僕にビールをついでくれる。ささいなことだったが、最高にうれしかった。
「俺さまたちの未来に、かんぱ~い」
その時、ジェフが椅子の上に乗り、コップを高々と掲げ、叫んだ。それに呼応してその場にいた全員が、コップやジョッキを高々と上げ、同じように、「かんぱ~い」と叫んだ。よく見ると、またどこから連れて来たのか僕ら以外に十人以上の人間が参加している。みんな誰がどういう人間なのか全く分からない。多分ジェフが連れて来たのだろう。
乾杯して酒が入ると、緊張は多少ほぐれた。あらためて隣りの赤いめがねの女の子を見る。
「・・・」
やっぱりかわいい。しかも、すぐ隣りにいる。このシュチュエーションが信じられなかった。
「・・・」
しかし、僕はどうしていいのか分からない。ただ一人フリーズしたパソコンのように時間ごと固まっていた。
「ベースうまいですね」
「えっ」
僕がまごまごと一人固まっていると、その子の方から話しかけてくれた。
「曲もよかったです」
彼女は、おずおずと恥ずかしそうに言う。多分、勇気を振り絞って話しかけてくれているのだろう。
「えっ、う、うん」
しかし、せっかく彼女が一生懸命話かけてくれているのに僕は緊張で頭が固まり、言葉が出てこない。
「・・・」
沈黙が走る。やっぱり、俺ダメだ。せっかく彼女がやさしく気を使って話かけてくれているのに、気の利いた言葉一つ言えないなんて・・。彼女は愛想をつかして、今まで僕に関わった女性が全員そうだったように他に行ってしまうに違いない。僕は相変わらずダメな自分にがっかりした。
「愛、これおいしいよ」
その時、その子の隣りの子が、その子に話かけた。
「ほんと、あ、ほんとだおいしい」
彼女は焼きたてのホルモンをつまむ。やっぱり・・。そのまま、行ってしまうに違いない。そして、僕はいつものように孤立無援に一人うなだれ、無惨な時間の経過に身を晒すのだ・・。なんて悲しい人生だ。なんて惨めな存在なんだ。僕は・・。
「あれは誰の曲なんですか」
「えっ」
しかし、彼女はまた僕のもとに帰ってきた。彼女はどこへも行かなかった。僕の隣りにいてくれる。
「・・・」
僕は、彼女を呆然と見つめた。
「どうしたんですか?」
「い、いや、ああ、あれはあいつの曲なんだ」
僕は隣りのテーブルに座る涼美を指差した。
見ると、涼美の周りは、どこから湧いて出たのか、連れて来たのか、複数の男たちが取り囲み、涼美を中心に逆ハーレム状態になっている。
「あいつ、す、すげぇな・・、」
さすが涼美・・。涼美はその中心で、まさに女王様然としている。
「オリジナルだったんですね」
「う、うん」
だが、そこでまた言葉に詰まる。
「・・・」
沈黙・・。
「ごめんなさい、なんか話かけちゃって」
「いや、そんなこと・・」
また沈黙・・。さすがに彼女も困ったような表情をする。それがさらに僕を焦らせ、体を硬直させ、頭をフリーズさせる。
「ああ、やっぱりだめだ・・」
せっかく何度もチャンスをくれているのに・・、今度こそもうダメだ。僕は思った。




