青春の輝き
毎日毎日、みんなで徹夜で練習した。涼美と丸ちゃんは学校が終わってから合流し、夕方から深夜まで毎日スタジオに籠り練習する。体力的にはしんどかったが、不思議と充実感があった。なんやかんやあっても、毎日仲間と集まってワイワイとやるのは楽しかった。日々なんだかテンションが上がる。
「これだよ。これだよ」
僕はベースを握りしめ、一人言葉に力を込める。一人、部屋で鬱々としていた時に比べたら今は天国だった。
「これなんだよ」
僕の思い描いていた青春がそこにはあった。
「これな・・」
「ちょっと」
「えっ」
一人青春の輝きに感動していると、涼美が僕を現実に引き戻した。
「なんで、同じとこでいつも間違えんのよ」
涼美が僕を鬼のように睨みつけている。涼美は今日もやたらとセクシーな格好をしている。超ミニなワンピースに、大きく開いた首周りの肩にはインナーの肩ひもが見える。
「やる気あんの」
「やる気しかないよ」
「じゃあ、アホなの」
「ううっ・・」
その口の利き方・・。怒りで血管が切れそうになる。涼美は性格は悪いが口はもっと悪い。
「あんたこのままだったらクビにするからね」
涼美が思いっきり上からな態度で言った。
「何言ってんだ。このバンドはジェフが僕のために作ったバンドだぞ。お前こそクビだ」
僕は思いっきり力を込めて・・、言えなかった・・。涼美がいなかったら、このバンドはただのむさくるしい男の集まりでしかない。その事実には、天地神明絶対敵わなかった。
「あんたの代わりなんかいくらでもいるんだからね」
涼美がさらに言う。
「うううっ」
ものすごい言われようだったが、しかし、実際、僕の変わりはいくらでもいるだろう・・。いくらでも・・。自分でもそう思う。
「ちゃんと気合い入れて弾きなさいよ」
「・・・」
現実はいつも厳しい・・、そう、とても厳しい。
「いい?」
「はい」
もう、涼美に従うしかなかった。バンドを作ったのはジェフで、その始まりは僕とジェフで、バンマスは僕で、しかし、誰も涼美に逆らえる者はいなかった。
「・・・」
我慢だ、我慢だ。コイツは絶対そのうち地獄に落ちる。僕は自分に言い聞かせた。
そして、練習は再開される。
青春を謳歌するのはいいが、やはり差し迫る現実は厳しかった。十日余りで知らない曲を何曲も覚えるのは、やはりかなり大変だった。
「いい加減覚えなさいよ。なんでそんなにアホなの。あなたたち」
練習再開後、再び涼美が覚えの悪い僕たちにブチ切れる。
「・・・」
僕たちはただ黙り、うなだれる。
「なんなのあなたたち」
「・・・」
「あなたたち、ちょっとそこに並びなさい」
「・・・」
丸ちゃんもドラムの後ろから立ち上がり、僕を先頭に僕たち男三人は並んだ。
「なんで縦なのよ。横」
僕たちは慌てて並び直した。
「なんでそんなにアホなの」
涼美は男たちを前に説教を始める。
「なんで覚えられないのよ。こんなかんたんな曲」
「・・・」
僕たちはうなだれるしかなかった。
「ほんとバカなんだから、バカ、バカ」
もう言われたい放題だった。しかし、偉そうに説教をされながらも、ついつい涼美のセクシーな胸のふくらみや足、肩ひもなどを見てしまう自分が悲しかった。
「ほんとどうしようもないわね。このバカ、バカ、バカ、バカ」
「うううっ」
「バカっ」
「ううっ、お前なぁ、お前は知ってる曲だからいいけどな、一から覚える俺たちの身にもなってみろ」
あまりの言われようにさすがに僕もキレた。
「知らないわよ、そんなの」
「お、お前なぁ・・」
涼美の辞書に思いやりとか協調という言葉はないらしい。
「俺は褒められて伸びるタイプなんだ。褒めろ。もっと褒めてくれ」
「なに甘っちょろいこと言ってんのよ。千尋の谷に突き落とされても這い上がって来なさい」
「ううっ、そこまで言うか・・」
もはや絶句してしまう。
「血反吐吐くまで練習しなさい。いいわね」
「血反吐て、昭和のスポコンか」
「努力と根性で覚えるのよ」
「だから昭和のスポコンか」
「言い訳はいらないわ。欲しいのは結果よ」
「だから昭和のスポコンか」
もはや、戦時中の陸軍でさえある。
「返事は?」
「はい・・」
だが、結局、僕たち男三人は、涼美の迫力に飲まれ、逆らうことも出来ず、声を揃えて返事をする。
「俺たちは戦時中の二等兵か・・」
青春は輝きばかりではない・・。血と汗とそして忍耐なのだと、この時、僕は知った・・。




