No.31 フェルゴール
今回長めです。
今までの話より量があるので、読む際は時間のある時にお読み頂ければと思います。
エンディン宇宙船 中枢エリア
司令室--
「暴走した、か……」
「どうやら、彼とゼスタート様のグリッヂが馴染み過ぎたみたいデスネ。」
「じゃが、それだけでああなるものかの?」
「グラッヂはワタシ達の体内、いわばエネルギーとなって身体に流動しているわけデスガ、そのエネルギーが彼の精神……"思い"に強く反応してしまったみたいデスネェ……このままだと制御も出来ず常にグラッヂを放出し続け、過剰なグラッヂの使い方によってグラッヂの循環が追いつかず、グラッヂが無くなり、消えるでしょうネ。」
「じゃが、抑えることができれば話は別じゃろ。」
ゲンブがそう言うが、対してレブキーが頭を抱える。
「まあ、そうデスガ……」
「流石にアレは無理だろう。暴走して国一つ二つ滅ぼして身が保てばいい方だ。最悪星が滅ぶぞ。全く……せっかく覚醒したというに……誰か行かせた方いいんじゃないか?地球が滅ぶのは不味いだろう。」
「……それで、何故あやつが地球におる。」
ゲンブが見るモニターには、ラヴェイラの姿があった。
「ッ!ラヴェイラ……!」
「なぜアイツが地球にいるデスカ!?まさかアイツッ……ワタシの傑作にィィィ!!」
(……待てよ、あいつの目的は何だ?あの地球嫌いのラヴェイラが……なぜに地球へと降り立ったのだ……)
ヴァルハーレが思考するも、答えが全く分からない。
「まあ……いい。とにかく、あいつがどこまでやれるか……見物だな。」
♢♢♢
この女……俺の創った氷を……
俺の力で創ったものを……
俺の力を……簡単に壊しやがった……!
フゥざけるな……!
『ふぅうざぁけるなぁぁぁぁ!』
怒りに任せて、黒氷の刃を繰り出す。
だが、彼女は手の一振りで弾き返した。
それを急いで黒氷の盾で防ぐ。
『ちぃぃいいい!!!』
今度は数で勝負する。
数多の黒氷の刃を繰り出し、四方八方から攻める。
だが彼女はすぐさま逆立ちし、両足を180度に広げ、まるで扇風機のようにそのまま高速回転した。
すんでのところで全ての黒氷の刃を蹴り砕いていく。
やがて全てを砕き割り、何事もなかったかのように地面に降り立った。
「まだ……やる?」
『う、うおおおおおおおおあああああああああああああっっっっ!!!』
遠距離で攻めても無駄だと思った俺は黒氷で剣を創り、近接戦に持ち込もうと走って間を詰めようと試みた。
走り出したその時、もう彼女は目の前にいて--
「遅い」
強烈な左ストレートを兜正面にぶち込んだ。
いくつもの氷壁を貫通して、しまいには自分の創り出した黒い氷の世界から出てしまった。
『ハア、ハア……』
「目は覚めましたか?そろそろ、本気で壊さなきゃいけなくなりますが……まだ続けますか?」
ヨロヨロと立ち上がって、近くの手すりに手をかけた。
『俺は……ただ……』
そして、あからさまに剣を握ったことがないと思える構えを取った。
『ただ……受け入れて欲しかっただけなのに……!』
「ッ……!」
ピクリ……
不覚にも彼女、ラヴェイラは一瞬気を緩めた。
戦闘中にも関わらず、その言葉の意味を考えてしまった。
それは人間だった時、戦闘経験皆無だった楠 彩莉……いや、フェルゴールが本来なら絶対に見逃していたであろう一瞬の「スキ」。
だが、人間をやめた彼の視力、死に近い間際の極限まで張り詰めた感覚がその一瞬の「スキ」を感じとった。
気付いた時には身体は動き、彼女の目の前に来た。
『あああああああ!!!!!』
「無駄な叫びは……」
ドンッと大きな衝撃が身体に響いた。
ミシミシと自分にしか聞こえない体内からの音を聞いた。
『が……!』
「スキを生むだけ。」
俺の身体は再び彼方へ飛んでいった。
(おかしい……なんだ、この違和感。もしかして……彼は、もう……)
♢♢♢
「……なるほど、もう暴走しとらんわい。」
ゲンブの呟きに、ヴァルハーレが反応した。
「なんだと……!?何を根拠に……」
「わかるわい。見れば、わかる。」
「だから、お前は何を証拠に……あいつのオーラはまだ放出し続けている!」
「あやつはオーラを制御できとらんだけじゃ。頭脳的なお主じゃ、実際に戦わなければわからんじゃろう。すぐにわかるのはワシやあの馬鹿とあの阿呆くらいじゃて……。」
「なるほど、よっぽどの戦闘バカしかこういうのは分からんと?」
「……まあ、そういうことじゃ……。」
(ナ……!?ヴァルハーレとゲンブが諍いを起こさない……デスカ!?ヴァルハーレが分かりやすい挑発したにもかかわらず……!)
「ゲンブ……アナタ……」
「黙っとれレブキー。……お前もじゃヴァルハーレ。少し静かにしてくれ。」
「お前……」
「……この瞬間が好きなんじゃ。感情なんてものがほとんどないワシらじゃが、自分が戦っている時や同胞が戦っているのを見るとな……自分の身体が、滾るのを感じる。特に、元々人間だったあやつからはより強く…ワシの奥にある何かを揺さぶられる。」
「デベルクでありながら感情があると?お前にしろ、あいつにしろ……気のせいじゃないか?」
「…さあな。気のせいでもええわい。ただ、言葉や気持ちに嘘をつけても…本能は嘘をつかん。」
「フン、度し難い考えだ。」
「そんなことはどうでもイイんデス!ラヴェイラ…あの女、帰ったら覚えていなさい!よくも…ワタシの傑作にィィィ!!」
怒り狂い、叫ぶレブキーの様子に、ゲンブはため息を吐いた。
♢♢♢
『ま…』
(まだ、まだ…)
ふらふら…
『まだ…』
(俺の力は、)
『こんなもんじゃ…』
ゼェゼェと、息を切らしてヨロイは立ち上がった。
「いい加減にしてください。」
『そうも……いかない。俺の力は、こんなもんじゃないんでね……』
「なんのために、こんな無駄なことを。」
『他でもない、自分のためだ。俺は、絶対あなたに認めてもらって、宇宙海賊に入る。』
「人間に受け入れてもらえないから、私達に受け入れてもらおうと?都合のいい考えですね。」
つまらなそうに告げる彼女だったが、フェルゴールは言われているのを覚悟していた。
だが、それでも決めたのだ。
彼の意思は、騎士道のように揺るがない。
『確かに都合のいい考えだ。あなたの言うことはもっとも。けど俺が入るって決めた。何がなんでも入る……でも、人間なんかにやられる弱い怪人、必要なわけが……ない。人間に受け入れてもらえなかった俺が、あなた方に受け入れてもらうために人間に敵対し、自分の実力を誇示しなければ認めてくれないはずでしょう……?あなたも、あの人達も……そして、あのお方に自分がいかに大きな存在かを知って頂くために……!なにより、俺自身のために……!』
「それで、 どうしますか。」
『まだ、まだ……』
(もっと、もっと、もっと……)
『もっとだ!!』
黒く、冷たいオーラが吹き出す。
『喰らえ……ェェ!』
彼が持てる力全てを使って創造した、黒い氷の犀だった。
まるで意思を持っているかのように咆哮し、ラヴェイラへと襲いかかる。
『うおおおおおおおおおお!!!!』
ラヴェイラは一瞥し、黒氷の犀に向かって手をかざした。
「……ひゅっ……」
スパパパパン……!
黒い氷の犀は見る影もなく、細氷となって雲散霧消してしまった。
だが--
『……ッ!!』
ぐおっ……!とした勢いのある気配が迫った。
(……しまった)
目の前に、黒い鎧が拳を引いて構えていた。
ラヴェイラはガードを試みようと、腕を手前に持ってきた。
だが--
彼の拳はラヴェイラの目の前で止まり、彼女にもたれかかるように前へ倒れた。
「……重い……」
はぁ、とひと息ついて彼をお姫様抱っこした。
「……」
(氷が溶け始めてる。自身の力を制御できずに意識を失ってしまったから、ですね。生まれたばかりの彼には……大きすぎる力。)
「さて……」
音沙汰もなく、一瞬でラヴェイラは姿を消した。
♢♢♢
エンディン宇宙船 中枢エリア
司令室--
「ゼスタート様、戻りました。」
ラヴェイラはどさっとフェルゴールをその場で降ろして、ゼスタートに会釈した。
『御苦労。』
「ラヴェイラ!キサマは私の最高傑作になんてことを!」
ヴァルハーレはスッと手を出し、ラヴェイラに向かおうとしたレブキーを制止した。
「地球嫌いのお前が、一体どういう心境の変化だ?」
「……あなたに答える必要が?」
「フッ、相変わらず冷たいな。まあ、いい。気にしないでおいてやる。」
「それはどうも。」
「ともかく、こやつは合格ということでいいのか……ヴァルハーレ。こやつは自分の意思とやらで地球人と敵対すること決めて実力を見せたのじゃからな。」
「まあ、いいだろう。私に異論はないが、ゼスタート様のお気持ち次第だな。私はゼスタート様に従う。」
「ふむ……」
ゆっくりと、ふらふらフェルゴールが立ち上がった。
「ほう、意識あったか。」
『気を、失って、いた……』
(普通のデベルクにしては、随分とタフだな。力を使い切った場合、最低でも半日は気絶するはずだが……)
『ゼスタート様、申し訳……ありませんでした』
『……』
『俺が……いえ、私の弱さが敗北を、私の心の弱さが暴走を引き起こしました。差しでがましいことはわかっております……!ですが、どうかあなたの海賊団に入れてもらえないでしょうか!私にとって都合のいいことだとはわかっております!まだまだあなた方には全てにおいて遠く及びませんが……どうかここに、あなたの元に居させてください!あなたのために、働かせてください!』
フェルゴールがそう言うと、ゼスタートは無機質な目ながら、まるで我が子を見るような眼差しを向け、フェルゴールに声をかけた。
『やはりお前は地球人臭いな、フェルゴール。』
『は、はい……』
そういうとゼスタートは跪いたフェルゴールの頭に手を置いた。
『これより、お前の名は『フェルゴール』だ。今日よりお前は『フェルゴール』と、そう名乗るがよい。そして、我に忠誠を誓うのだ。我に従い、我に尽くすがよい。』
「なっ!」
「ふ、再び……命名の儀を……!?」
ゼスタートの手から徐々に黒色のオーラがフェルゴールに浸透していく。
そのグラッヂは初めてフェルゴールに与えられたものよりも濃く、深く、強いものだった。
『う、あああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!』
やがてゼスタートは手を離し、再びフェルゴールを見据えた。
『これにて、命名の儀を終了とする。気分はどうだ。フェルゴール。』
どくん、どくん……
どくん、どくん……
(自分の鼓動が強く聞こえる…!)
『はぁ……はぁ……。ゴクリ。え、ええ…悪くありません……』
『ヴァルハーレ、ゲンブ、レブキー 、そしてラヴェイラ。』
「はっ!」
「はい」
「ハイ」
「はっ」
四人の幹部が、主の呼びかけに一斉に返事をする。
『どれだけ時間をかけても構わん。フェルゴールを、鍛えろ。お前達ヒトケタに通用する実力を身につけさせよ。」
「「「「はっ!」」」」
そして、ゼスタートが再びフェルゴールを見据えた。
『フェルゴール、』
『は、はいっ!』
『励めよ。』
『はっ!ありがとう……ございます!』
フェルゴールは扉の前に立ち振り返って一礼した。
『では、失礼します……』
フェルゴールはそう言って、部屋を出た。
『フェルゴール、やはりお前は地球人臭いな。』
ゼスタートがポツリと呟いた。
「では、早速鍛えてやるかの。腕がなるわい……!」
「待ってゲンブ。」
「?」
「今は、待ってあげて。」
「……やれやれ。お前を見ていると、デベルクにも感情があるのではと勘違いしてしまいそうだな……」
♢♢♢
はあ……よかっ、た……
受け入れて、くれた……
あの人は、あの方は俺を……受け入れてくれた
ほんとうに、よかった……
後で、あの人にも……ラヴェイラ様にお礼を言わなきゃ……
ははは、ほんとうに、ほんっとうに……
声を殺して泣いた。
嗚咽しながら、顔を抑えた。
相変わらず涙は出ない。
だがそれでも、それでも泣いている。
それがわかる。
わかるのだ。
誰もここに来ないのが、すごくありがたかった。
いかがでしたでしょうか。
この話でこの章は終わりとなります。
次回はこの章の幕間のお話となっております。
ぜひ読んでみてください。
今回の話ですが、キリよく区切れるところがなかったので、長くなってしまいました。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
次の章からも見守ってくださいませ。
よろしくお願い致します。
この作品を楽しんで頂けたのであれば、作者として本当に嬉しく思います。
こんな拙い文章ながら、いつも読んでくださる読者の皆様、本当にありがとうございます。
Twitter→@ichinagi_yuda