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元人間の怪人・フェルゴールの行く末  作者: 湯田一凪
3章 怪人フェルゴールと二人の怪人
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凡人の覚悟

 

 数分前--


 レベルS、最大レベルに指定された鎧の怪人を目に全員の戦意が喪失した。

 ただ一人の男を除いて。


 堀田 晃平。

 第五小隊の隊長を務める男だが。

 彼は、普通の大学生だった。

 成績も真ん中から数えた方が早く見つけられ、運動も目立ったところがない。

 彼には申し訳ないが、"平均"や"平凡"という表現がピッタリの男だった。


 そんな男がなぜ、世界を守るために怪人と戦い始めたのか。戦い続けることができるのか。


 キッカケは、彼の人生で初めて下した決断。


 理由は、単純。

「人を守ること」その役目を自覚した。


 そしてなにより、彼は天才であった。

 戦うことに関しての天才であった。


 このまま生きていれば、絶対に発掘されず、絶対に開花しなかったであろう才能。


 だが、今彼はまた危機に瀕している。

 初めて、負けたのだ。


 怪人に。


 ……

 いや、まだ負けていない。

 彼が立ち上がり続けるまで、彼が死ぬまで。


 彼は、負けていない。



 ……本当にそうか?


 その彼の意志を、彼の決断を砕こうとするまでに強大な敵が、目の前にいるのだ。



 ♢♢♢



「はァ……はァ……」


 倒れた堀田に鎧の怪人は背を向けた。


「ま、待て……」


『おや、まだ生きていたか。』


 立ち上がる堀田は、もう見るに苦しい姿であった。


 スーツはボロボロでオイルのような液体が流れ、ヘルメットはもう使い物にならない。


 片腕はもう使いものにならない。

 その使いものにならない手で、レーザーガンを握る。

 もう片方の手で、レーザーサーベルを構えて突撃する。


 レーザーガンで牽制し、鎧の怪人の視覚外まで踏み込む。

 その一瞬のスキをついて……


 懐に入ったと思われた一撃は、突如として現れた黒い氷の剣によって阻まれた。


「っ……!」


『言っただろう。』


 レーザーサーベルを弾かれる。

 スキをついたはずなのに、いとも簡単に。

 怪人は弾いた。


『剣と銃を使う相手は慣れてる。』


 そう言うと、鎧の怪人の握る黒い氷の剣から無情な一撃が、振り下ろされた。


「っ……」


 無防備な体に、追い打ちがかけられた。


「た、隊長ぉおおおおおおおおお!!!」


 周囲の悲痛な叫びが響く。

 ドサッとその場に堀田が倒れた。


(目が……霞む……)


(なんで、僕戦ってるんだろ……)


(僕が戦う意味なんかあるの……?)


(なんで、戦わなきゃいけないんだろ……?)


 目は潤むのに、見える世界は乾いている。

 その証拠に、目が霞んでいた。


(もう、諦めて……いいよね。)


 堀田は、静かに目を閉じた。


(僕……今まで()()()、あったっけ?)


 今までの人生が、走馬灯のように頭の中を巡る。


(幸せだったっけ……?)


 生まれてから育ち、現在に至るまで。


 普通の人生でいいやと思っていた。

 いつしかそれが、普通の人生がいいに変わった。


 それ自体が悪いことじゃない。

 わかっている。わかっている、けど……


(まだ……満足してないじゃないか!)


 他の人と違うことをやっている。

 その事実が、自分を特別にした。

 そう思わせてしまった。


 平凡で何も無い人生だった。

 一度でも望んだ特別。

 脚が速い。

 頭がいい。

 スポーツで優勝。

 テストで一位。

 偏差値の高い学校への進学。


 望みたくても、自分には無理だと思った。

 自分は特別じゃないから。

 現実がそう僕に教えた。


 だけど……だけど、自分が抑えていた、特別でありたいという思いが、願いが、夢が……叶ってしまった。


 なにより……


『どうか力を貸してくれ。君の……君の力が必要なんだ。』


 あの時、僕を特別にしてくれた支部長(あのひと)にまだ何も返せていない!


「ま……」


 膝を立てる。


(これしかない……)


「まだ……負けない……!」


 立ち上がる。


(僕には、これしかない……!)


「僕はまだ負けてない……!」


 立ち上がった守護者(ガーディアン)は、レーザーガンを構えた。



『……かっこいいとは、思うよ。』



 ふと、怪人の口からは想像もできない言葉が飛んできた。


『その行動に敬意は評するが……』


「うぅう……!」


『その行為は"失う行為"だ。』


 黒い氷の剣が堀田に迫る。


「も……もう……やめ、ろ!」


 ようやっと、プレッシャーの中から動き出すものが現れた。


 その男は堀田の前に立ち、レーザーアックスで先に攻撃し、鎧の怪人に攻撃を防がせていた。


「三船さん……」


 三船が鎧の怪人に蹴り飛ばされた。

 だが、這いつくばりながらも、襲いかかるプレッシャーに逆らい、立ち上がる。


 しかし、彼は立ち上がった。


 副隊長の意地故か?

 ……いやそんなちっぽけなものじゃない。


「ぐ、ううううぅうううう!」


 彼の努力を知っている。

 彼がここで死んで、悲しむ者がここにいる。


「死なせん……!絶対……!」


 三船がレーザーアックスを構える。


 だが


『悪いな。』


 既に鎧の怪人は


『もうそういう"友情ゴッコ"には、寒気以上に苛立ちと気色悪さしか感じない。』


 もう三船の前にいた。


 鎧の怪人が持つ剣が片手一本ではなく、両手二本に増えた。


 一本でレーザーアックスを弾き、


 もう一本でトドメを刺そうとした。




 だがその時、横からバイクが飛んできた。


 それになんの反応も示さず、鎧の怪人はいとも容易くバイクを斬り裂いた。


 鎧の怪人の背後で、バイクが爆発した。


「よう。」


 沢渡が口元を緩めて、声をかけた。

 もう既に、レーザートンファーを構えている。


「あ、あぶねえ……」


 咄嗟にしゃがんで回避していた三船。視線の先に倒れた堀田が目に入った。


(やべえ!隊長!)


 すぐさまこの場から脱して、なんとか堀田の元に駆けた。


『ずいぶんと都合のいい展開だ……なんだ、神とかいうのは、どうも選んだ人間だけをこうやって助けるらしい。』


「違う。誰かが頑張ってるから、神は見る。誰かの勇気を知ったから、神は奇跡を起こすんだ。」


『詭弁だな。』


「そう思うぜ。だが、そうでも思わなきゃ、やってられん。」


 その間に、駆けつけた第四小隊が倒れた第五小隊の元に駆け寄った。

 永友が、倒れた堀田の元に駆け寄った。


「堀田ちゃん!堀田ちゃん!」


 沢渡が仕掛けた。

 それを鎧の怪人が受け、さらに沢渡が攻める。


「そんな時間稼ぎの会話はどうでもいい。俺はお前と話がしたいんだよ!」


『残念だったな。俺はない。』


「なぜお前がまたここに!」


『話を聞け。』


 そんな戦闘状況を永友が確認すると、自隊の副隊長とエースに声をかけた。


「動けない子は待機よ。スミス!榛名ちゃん!動ける!?」


「ええ、姉さん!」

「はい、姉さん!」


「お願い!その子たちを守ってちょうだい!じゃあ……」


 そう言うと二人は頷く。

 それを見て頷き返した永友はレーザーハンマーを起動し、深呼吸した。


「キサマぁ……堀田ちゃんをよくもっ!」


 レーザーハンマーを振り下ろし、鎧の怪人に黒い氷の剣で防がせる。


『やれやれ……先に手を出したのは俺じゃないっていうのに。』


 攻撃を軽くいなし、彼らのスキを伺っていると続々と乱入者たちが増えてきた。


『続々と……』


 第三小隊と沢渡以外の第一小隊の面々だ。


「あの怪人……!沢渡のダンナ……永友さん……堀田は!?」


「お前ら……!くっ……」


 その一瞬のスキを狙われ、沢渡が斬られた。


「あっは……」


 態勢が崩れたように、立て続けに永友も一撃を受けた。


「ダンナ!永友さん!」


 そんな中、ちいさな風が吹いた。


 その一撃を鎧の怪人は軽々と防いだ。


「やっと会えた……!」


 レーザーランスで鎧の怪人とつばぜり合いを繰り広げる。


『またお前か。追う相手を間違えているぞ。追うのは俺じゃなくて、女にしておけ。』

「よく言うぜ……柄じゃないっての。」


 つばぜり合いは鎧の怪人が制した。

 そのせいで、芹澤は吹っ飛んだ。


「くっ……」

「数も増えてきたな、まるで蟻だ……なら、」


 ジャッと、鎧の怪人の周囲に一斉に数えきれない数の黒い氷の剣が舞う。


 部隊の一部がおびえた。

 こんな芸当ができるのは、怪人でもいない。

 圧倒的な実力の証拠だった。


『仲良く死んだ方が、この先地獄見ずに済みそうだ。』

「どういうことだ……」




『オオオオオオオオオオオオオオオオ!!』





 咆哮が、響き渡った。

 鎧の怪人とはまた別のプレッシャーがぐわっと広がる。

 同時に、危機察知能力が「ヤバい」と告げる。


「これ……!」


 芹澤だけが、この異質なプレッシャーに身に覚えがあった。

 しかし、この鎧の怪人が()()()発したプレッシャーとブウィスタが再度襲来したときに発していたプレッシャーとは別のものであり、またどこか似ているように感じた。


『……都合がいいんだか、悪いんだか。』


「なに?」


『時間切れだ。』


 鎧の怪人が告げた。


「なんだと……?」



『今にわかる。』


 沢渡の問いにそう返すと、鎧の怪人は「ゲート」を唱えた。


「待て!」


「どうして、この場で俺達を殺さない!?」


 芹澤が鎧の怪人に尋ねた。

 しかし、鎧の怪人から答え返ってこなかった。

 思わず、彼はある程度の距離を保ちながらではあるが、鎧の怪人の元へ歩み寄った。


「なあ……お前は……」


『今、この場で殺してもいいんだ。』


 さっきまでの鎧の怪人のプレッシャーとどこかからのぐわっと広がるプレッシャーがかわいく見えるほどのプレッシャー……それはまるで怒気を体現した威圧だった。


 ガラスが割れる音が止まず、建物にヒビが入る。


 空気が威圧されたように、周囲が凍り付く。

 建物がパキパキとじわじわと、黒い氷により浸食される。

 ガーディアンズのスーツが凍っていく。


「そ……んな……」


 自然と、おびえる者がでてきた。

 今までの敵がお遊びだった現実を、突き付けられた。


『冗談さ。この星を凍り付かせるつもりもなければ、この星をお前たちの血で極力汚したくない。』


『忘れるな。俺は何時(いつ)でもお前たちを殺せる。だが物事には優先順位があるのでね、遊ぶのはまた次だ。』


 鎧の怪人はゲートの奥へと消えると、ゲートは消える渦のように瞬時に消えた。


「冗談、きついわ……まだあの怪人にリーダーがいるのよね。」


 一難が去ったおかげか、緊張が緩んだせいで思わず早乙女の口から弱音がこぼれた。


「今は気にしちゃダメ。とにかくすぐに京極ちゃんのところへ。さすがにまずいわ。」


 早乙女を気遣い、声をかける永友。


「そうだな……第五小隊、ここまでよく持ちこたえてくれた。堀田の状態が心配だ、彼を連れてすぐに退け。」


 沢渡が第五小隊に指示する。

 そして次の行動を考えながらも、彼ら怪人の行動や言葉を気にしていた。


「……その先は、言わせてくれなかったな……」


 芹澤が小さくつぶやいた。

 彼の視線の先には、とっくにゲートなんてなかった。


最後までお読み頂き、ありがとうございます。

この作品を楽しんで頂けたのであれば、作者としてとても嬉しく思います。

次回も、ぜひ。


Twitter→@ichinagi_yuda

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