No.8 ドゥベルザ
ちょっと長めなので、お時間ある時にぜひ。
「No.8が行方不明……ですか?」
ヘルハイが告げたのは、予想外の問題であった。
「そう……それを連絡しようとしたら……まさか緊急信号を押してたなんて……」
「そう、でしたか……」
「全く信じられるかい?ここ近辺にある地球人の戦闘員がいる基地の調査に二人で来たはずなのに……入り口から正面突破した挙句、いなくなるって!」
なるほど、これがNo.8がヘルハイと共にいなかった理由だったのだ。
「ただ、パラトゥースファミリーがいるかもしれないっていう確証が持てたのは大きいかな。迷惑かけちゃったね。」
「よかった……」
「え?」
ヘルハイから事情を聞き、フェルゴールの口から漏れたのは、安堵だった。
思わずヘルハイが戸惑ってしまった。
「てっきり……何かあったのかと。」
「ふふっ、はははははは……!」
戸惑ったのもつかの間、ヘルハイは答えを聞いて思わず笑った。
「え、あのその……!」
「やっぱり地球人みたいだ。けど、地球人なんかより、ずっとずっとキミの方が好ましい。」
「え……」
「ボクが地球人なんかに負ける訳ない。キミよりもずっと強いんですから。」
「……そうですね。」
「気持ちは有難く頂くよ。さて……」
「?」
「ドゥベルザはどうしたものか……」
改めてこの問題をどうしたものだろうか。
頭を悩ませる二人である。
「ここで待っていても……意味はあるんでしょうか?」
「いや、ないね。待ってても、絶対来ないだろう。」
「なら、戻りましょう--」
そう、フェルゴールが言った時だった。
ドッ……!
ずっと向こうから、何かが爆発したような気迫とオーラの気配がした。
「あっちから……ずっと遠くから……気迫とオーラが……!」
「ドゥベルザ。」
(派手に暴れているな……)
ドゥベルザ。彼こそ、ヒトケタのNo.8である。
「今のが……!」
「行こうか。」
♢♢♢
「っ……!」
「海……!」
ドゥベルザの気配を追ったはいいものの、大陸の端に来てしまったようだ。
先には果てしない海が広がっている。
「仕方ない……」
「おや、策があるのかい?」
「まあ……そんな大層なものではないですが……」
ちゃぷ……
フェルゴールが海に手を入れた。
すると、一瞬で黒い氷の道が張った。
「へぇ……」
「こんな、ところでしょうか……」
「やるね。」
「あ、ありがとうございます。この道を辿っていけば、おそらくNo.8の元に辿り着くかと。足元にお気をつけて。」
「ハハッ、大丈夫だよ。」
つるっ
「おっ、と」
(だ、大丈夫……かな……)
♢♢♢
「着いたね。」
「ここはアフリカ大陸……!」
(間違いない、こんなところから気迫とオーラが発せられていたのか……!?)
「ふむ、どこにいるのやら……」
ごろっ
「うおっ……!」
「これは、」
人間の死体だった
一体だけじゃない。
たくさんの
数え切れない
数の
死体が
散乱して、いた
「うっ!!おえ……!」
「フェルゴール?」
吐瀉物なんてものは出ないが、初めて見る人間の死体はフェルゴールにとっては刺激が強すぎた。
それとも、彼の数少ない人間だった部分が反応してしまうだろうか。
「かはっ、はぁ、はぁ、ごめんなさい……!死体を見るの初めて……でしたから……!」
「キミは……」
「に……人間だった時も、怪人になった時も……!死んだ誰かを見たことなんかない!死んだのは、自分……だった……」
「フェルゴール……」
「はぁ……はぁ……!」
(そうか、キミは……地球人の頃の記憶を……)
やがて、フェルゴールはゆっくりと立ち上がり目的に向かおうとする。
「い、行きましょう……」
「大丈夫かい?」
「平気です、それより……No.8を--」
「フェルゴール。」
「なんですか……!」
フェルゴールが焦燥に囚われていると感じたヘルハイが声をかけた。
「しっかりしたまえ。キミはこれからこういうことをやっていくんだ。いやだで済ませようとするなら、キミがここにいる資格はないよ。」
「わかってる……わかってる……!」
「……」
「今度は俺の番なんだ……!」
「っ……」
「俺は人間に拒絶された、人間に否定された……だから、」
ドンと気迫とオーラが噴き出す。
「今度は俺が、こいつらを否定する番だ……」
「……フェルゴール」
(キミは、自分と同じ種族だった地球人を目の当たりにした上で、そんな目ができるんだね。可哀想に……地球人なんかよりもよっぽど、デベルクの方が性に合ってるじゃないか……)
「やっときたかぁ……!」
「っ!」
「!」
メキメキ、ドゴオン……!!
先程までボロボロだった建物は、何者かが上に乗った瞬間崩れ落ちた。
「感じたぜ……今の気迫とオーラ!てめえは、おれを楽しませてくれんだろぉぉなああああああ!」
がおおおおおおおお!!
ライオンと人を足した様な獣人がたてがみをなびかせて叫んだ!
「なんだ……!」
「ドゥベルザ!」
「なんだヘルハイ!話は後だ!俺の獲物に手ぇだすんじゃあねえぞ!」
「フェルゴールは味方だ!なぜ今のオーラでデベルクだと気づかない!」
「グランドインパクト!」
「話を聞け!」
「巳甲拳」
「ぬ!」
「大蛇!」
(亀の甲羅のように硬く、蛇のようにしなやかに……!)
フェルゴールの腕がまるで関節の外れたようになり、ムチのようにしなると、ドゥベルザの顎を捉えた。
(あれはゲンブの殺戮拳!なぜあいつが!)
ヘルハイが驚く中、二人の拳が交差した。
「飛べ」
「てめえがな!」
フェルゴールの一撃がクリーンヒットしたにもかかわらず、ひるまずに腹にグランドインパクトを当てた。
その体格も相まって威力は
絶大
衝撃と共にフェルゴールが吹っ飛んだ。
「がっ……」
対するドゥベルザは意識を保っており、首をコキコキと鳴らした。
「いい加減にしないか!」
ヘルハイがドゥベルザの前に立ち、怒鳴るのだった。
「ヘルハイ!言ったはずだぞ……手を出すな!」
「聞こえませんでしたか……?話を聞けと言ったんですよ!ど阿呆っ!!」
ドゥベルザを蹴り出し、右手を振り下ろす。
「ぎっ!」
「落緑雷!」
「ガ……!」
「少しはその阿呆の頭を冷やせ……!」
落緑雷を食らったドゥベルザが、笑い始めた。
「ぎ、ぐ……あ〜……ガッハッハ!効いたぜ……!」
「やっとか……!このど阿呆!!」
「おお、ヘルハイ!おまえなんで迷子になってたんだよ。」
「迷子はキミだ!基地の入り口から正面突破しようとして全力疾走した挙句、大陸を出て別大陸に行ってるなんて!」
「なにぃ!?ホントか!?基地はこっちにあったぞ!」
ガシッとヘルハイが掴みかかった。
「ドゥベルザ!キミは!ボクがあっちで面倒なことになっているにもかかわらず!ここでキミは意気揚々と掃除していたのですか!?慎重にと言ったでしょう!」
「ガハハ!気にするな!」
「キミ……!自分が何をしたかわかっていない上に、ボクがどれだけ大変だったかもわかってないみたいだね……!」
カツカツカツ……
黒と青の紋様が広がった、鎧が歩いてきた。
フェルゴールの変想が解けたようだ。
オーラを放出せず、身体に纏っている。
「キミは……」
(フェルゴール……?)
ギュオッ
『ふっ……!』
「ぐおっ!」
ドゥベルザはバシッとフェルゴールの拳を間一髪のところで受け止め、何が起きたかわからないと焦った表情を見せた。
「おい!どうしたってんだ!」
「キミが仕掛けたくせに何言ってる!フェルゴール!落ち着け!」
『理不尽な怒りなのはわかってる。人間と戦う。それを覚悟してレブキーとここにきた。けど、甘かった。大甘だった。すっかり忘れてたよ……ヘルハイに言われて再認識した。俺が……俺が、怪人だって……!』
「おまえ……」
「フェルゴール……」
『すみません、これで終わりです。これで終わりだから……だから、許してください……!』
フェルゴールが拳を引き、ヘルハイとドゥベルザに背を向けた。
ズカズカと歩き、ドゥベルザがフェルゴールを掴みかかった。
「お、おいおい!どういうことなんだよ!おまえ、それまるで……おまえが地球人だったみてぇな……」
『そうだ、俺は地球人だった……』
「え……」
「ドゥベルザ……離してやれ。」
「ヘルハイ……」
「ボクもさっき聞いたばかりだけど、彼は元々地球人だったんだ……地球人からデベルクをレブキーが創ったんだそうだ。」
ドゥベルザがフェルゴールを離し……後ずさりして、頭を下げた。
「すまねえ!おれ……おまえのこと何も知らなかったのに、地球人いっぱい殺しちまった!」
『いいんです。』
その声を聞いて、ドゥベルザが頭をあげた。
『もう、いいんです。』
「……おまえ……」
『俺はデベルクで、あなたはヒトケタ。ゼスタート様の為にも、地球人を……殺さないと。』
「おまえ、本当にそれでいいのかよ!地球人だったんだろ!守んなくていいのか!おれよくわかんないけど……いいのかよ!」
「ドゥベルザ!」
「でもよ!」
『ありがとう。だけど、俺は守りたかった人に、同じ地球人に消されかけたんです。』
「なんだと……」
「……!」
気づいた。
今になって
気づいてしまった。
彼女がいつも隠すように身につけていたあのブレスレット。
あれは変身道具だった。
きっといつも身につけていたはずだ。
あの時も、付けていた。
彼女は……No.30が現れた時、なぜ変身しなかったんだろう。
そうか。
ああ、そうか……
『ああ、そうだ。イオちゃんはあの時も……俺が人間だった時も!俺を守ってくれなかったんだ……!イオちゃんは……俺を見殺しにしたんだ!!』
『俺は人間だったとき、デベルクに殺されたのか!?人間に殺されたのか!?だけど……けど、これだけはわかる!俺はデベルクのとき、人間に消されかけたんだ!!』
その叫びを聞いたドゥベルザの目に怒りが、灯った。
♢♢♢
フェルゴールの話を聞いた一行は、変想をしてドゥベルザの話を聞きながら、着いて行った。
ヘルハイとはぐれた後、こちら側にいたガーディアンズと交戦になったそうだ。
だからあれほど多くの死体が転がり、ドゥベルザが怪人態の姿でフェルゴールとヘルハイの元に現れた。
というのが、ことの顛末だそうだ。
ちなみにドゥベルザの変想は、オレンジ色の尖った髪に褐色の肌、黄緑色の目の色でも十分派手なのだが……それ以上にガタイの良さとアロハシャツが特徴的だった。
「おおそうだ、」
ドゥベルザはグッと拳をフェルゴールに突き出した。
「おれはドゥベルザ。さっきは悪かった。すまねえ、ヘルハイといた見たことねえ奴が気迫とオーラを使ってたから気になっちまった。だけど、」
「?」
「おれとおまえはこの拳を交えた、おれの同士だ!改めてよろしくな、えーっと……」
「フェルゴール。それが俺がゼスタート様に頂いた名前です。」
「よろしくな!フェルゴール!」
「はい……」
(思考がゲンブに……)
似ているなー……とフェルゴールが思っていると、
「考え方がゲンブに似ているなーって顔してるね。」
ヘルハイが面白そうに言った。
「よく分かりましたね。」
「ふふっ、なんとなくね。」
「おっ、ついたぞ!ここが基地だ!」
『ガーディアンズのアフリカ支部……?』
「ドゥベルザ、どういうことだ……」
無理もない。
目の前に広がるのは瓦礫の残骸だった。
「なにって、ここが基地だったんだから仕方ないだろ!」
「ドゥベルザ……!キミ一人でここを壊滅させたのか!?」
『なっ……!』
フェルゴールが驚き、ヘルハイが呆れる中、ドゥベルザが笑っていた。
「ガッハッハ!準備運動終わった時にはもう終わってたぜ。あとはおまえに任せる!」
「この……ど阿呆っ!」
ヘルハイの叫びが空にこだました。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
この作品を楽しんで頂けたのであれば、作者としてとても嬉しく思います。
次回も、ぜひ。
Twitter→@ichinagi_yuda




