No.1 ヴァルハーレ
「ふむ、来たか……ちょうどいい。本もキリのいいところだ。」
吸血鬼のような男が本に栞を入れ、ポンと音を立てて本を閉じた。
『ヴァルハーレ』
名を呼ばれた彼はクイッとモノクルの位置を調整した。
ラヴェイラとゲンブの特訓が始まってから数日後……俺はヴァルハーレに呼ばれ、バトルルームに来ていた。
「久しぶり、と言ってもそんなに経っていないな。フフ、随分とゲンブに気に入られているみたいだな。」
『そうなんですかね……』
「ああ、久方ぶりに見たぞ。あいつが生き生きとしているのは。」
『そうですか。では、ヴァルハーレにも気に入られるよう頑張ります。』
「そうなるよう、頑張ってくれ。私がこうやって指導する以上私としては、お前にはただの戦闘馬鹿になって欲しくないからな。」
『俺としても、この黒い氷の力を上手く使えるように……』
パキキ……
フェルゴールの左手から黒い氷が現れた。
『なりたい、ですから』
「ほう、暴走した経験が生きているな。悪くない……使いたてにしてみれば、上出来。」
『ありがとうございます。』
「どうやら、あの時と違って調子にも乗っていないようだ……慢心はないようだな。元地球人。」
『やめてください!俺はもう、地球人なんかじゃない!俺はゼスタート様にお仕えするデベルク。あんな奴等と一緒にしないでください…!』
「フフフ……!フフフフフフフ!!いいだろう。はじめに……」
ブゥンとどこからともなく紫色の亜空間がヴァルハーレの元に現れた。
すると、ヴァルハーレは手に持っていた本をその中に入れ、代わりに杖を取り出した。
(杖……一体どこから……!)
カッコいいがそれ以上に恐怖を抱かせるようなデザインの杖がなんの前触れもなく現れた。
ギュオオオオオッ!
「どれだけのものか、見させていただこうか……。」
『っ!』
ヴァルハーレから気迫とはまた違う紫色の何かが吹き出す。
(この人も気迫を……いや、違う!この人のは……)
『オーラ……』
「気づいたようだな。これは我々の能力の基本、"オーラ"。直感とはいえ、第一段階クリア。まず、この正体に気づかなければ意味がない。暴走状態で気づいていたとは思えない。気づいて初めて、その存在を意識し始めるものだからな。」
『く……!」
「ファイ・ヤァ」
ぐおっと勢いのある強い紫炎が襲いかかってきた。
『くっ……!』
「どうした。私の最低ランクの魔法程度に苦戦してもらっては困る。」
『凍れ!』
「ほう」
黒い氷が紫炎を徐々に凍らせていく
『言われっぱなしでたまるか……!』
「不合格。」
『っ!』
パリン……!
『な……!』
「ゆっくりではなく、一瞬で凍らせろ!」
『はいっ!』
「ファイ・ヤァ」
再びぐおっと勢いのある強い炎が襲いかかってきた。
『くっ!』
フェルゴールは凍らせようと試みたが、その炎は凍らない。
『ぐああああ!』
「見てくれに騙されるな!見た目が必ずしも威力に反映されているとは限らん!」
『……っつ!くそ……!』
「ファイ・ヤァ」
『またっ……!』
「ウィン・ドゥ」
ヴァルハーレの杖から紫色の切り裂く風が吹き荒ぶ。
(はや……)
『ぐああああ!』
「遅い、遅すぎる。何が失格かわかるか。」
『反応、速度……』
「フン、及第点だ。相手の能力は、自分の持つその能力で感知しろ。早く、誰よりも早くだ。」
『はい……』
「能力の練度を高める必要がある。その方法はあとで教えてやる。自由時間にでもやれ。俺との訓練には必要ない、無駄な時間だ。時間を無駄にするな。活用できる時間は活用しろ。俺が訓練してやっているんだ、ありがたく思え。」
(そうだ……!一刻も早く、強くならなければ!この人達に追いつかなければ!)
「最低でも、この程度は耐えてもらわねば……メギ・フレイ・ガ……!」
『あ……!』
凍らない……!
『ああああああああああああがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!』
「やれやれ……」
パチンとヴァルハーレが指を鳴らすと、ドロドロとした炎は消えた。
『ぐ……!』
「あのときの、お前が暴走していた状態になってもらう必要があるな。あのときほどの力、オーラを使いこなすのが最低限だな。」
『っ!』
「もう一度暴走してもらう。今からお前を強制的に暴走させるが、それでも正気を保て。正気を失って、次こそ消滅しないよう気をつけろ。」
暴走……あの時の苦しみを、あの時の快楽を……自分が自分じゃなくなる感覚を、もう一度味わうことになるのか……
だが、それでも……
それでも……!
『大丈夫です……やりますよ……』
「……!」
昔とは違う、あの時とは違う!
『ゼスタート様の為に……!』
その答えに、ヴァルハーレが満足そうに笑った。
「そうだ、それでいい……!」
『時間は有限じゃない……ですよね?お願いします……!』
「いくぞ、フェルゴール」
『はい、師匠!……あ……』
沈黙---
「……。」
『……。』
「フェルゴール。」
『は、はい……』
「……その呼び方はやめろ。」
『……ご、ごめんなさい……』
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
この作品を楽しんで頂けたのであれば、作者としてとても嬉しく思います。
次回も、ぜひ。
Twitter→@ichinagi_yuda




