グラトニー 前編
グラトニーは虚ろな瞳で次の"エサ"を探していた。そして、すぐに見つけた。
「こ、こっちに来るぞ!!」
グラトニーの動きに気付いた1人が叫んだ。武器庫に戻ることができない住人達は闘技場の壁に沿って、走り出した。動きは鈍重で、逃げ切れると判断したのだろう。
「イオ、逃げるぞ!!」
ライネがイオの手を引き、走り出す。
しかし、住人達が出した逃げ切れるという判断を裏切るようにグラトニーの動きは俊敏だった。相変わらずのハイハイではあったが、凄まじい速度で住人達の列に突進する。闘技場の壁にグラトニーの頭がめり込む。グラトニーの突進が直撃した住人もいれば、辛うじて直撃は免れたものの、衝撃で地面に転がる住人もいた。グラトニーがゆっくりと闘技場の壁から頭を抜くと、転がる住人達がつまんでは口に運んだ。気絶している者は不幸中の幸いだろうが、意識のある者は絶叫しながら口へと消えていった。その中にライネの姿があった。突進の直撃は受けなかったようだが、突進の際に飛び散った壁の破片が脚に当たり、骨が折れたらしい。
「い、イオ!!逃げろ!!」
こんな時まで友の心配をするとは最初に喰われた変わった住人よりも、よっぽど優れた人間性がある。
グラトニーが地面を這うライネに狙いを定め、痛む脚をつまみ上げて、口へと運んだ。ライネ自身、脚から全身に走る痛みで絶叫し、グラトニーの指先でもがいていた。直後、グラトニーの口へと落ちていくが、ライネがもがいていたせいでわずかにライネの体が口の外へとずれた。グラトニーはそのまま機械的に口を閉じたが、わずかにずれたせいでライネの頭だけが口からこぼれ落ちた。
こぼれ落ちたライネの頭はイオの足元に転がってきた。
「お前にはわからないだろうが、もうイオというこの男は死んでいる。だから、お前の死も何も思わない。悪いな」
イオは転がってきた頭に投げ掛けたが、当然返事は無い。
グラトニーがこぼした頭を見つけて、イオに歩み寄ってきた。イオはグラトニーがこぼした頭を拾い上げ、グラトニーを見つめた。
「探し物はコレか?"出来損ない"」
イオの言葉にグラトニーの歩みが止まった。
「どうした、"出来損ない"?喰わないのか?人間を。"親の仇"だろ?忘れたのか?我……いや、俺は覚えているぞ?」
このショーが始まって以来初めての出来事に観客も主催者も、同じ闘技場にエサとして放り出されたスラムの住人達もざわめいていた。
グラトニーはこぼした頭ごと目の前の青年を喰おうとしていた。だが、"何か"が引っ掛かってあと数歩が出ない。
「…………忘れたのか?お前の……"主"を!!」
イオの体はお世辞にも健康的ではない。栄養不足で痩せ細り、何日もちゃんと風呂にも入っていないような体だ。正直こんな体に魔王が転生する適正があるとはにわかに信じられない程の貧弱な体だ。しかし、そんな貧弱な体から、その場にいる全員が畏縮する程の威圧感を放っていた。