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転生魔王の英雄譚  作者: 優流
一章
3/7

勇ましき者 前編

目を開けると薄汚い男達が心配そうにこちらを覗き込んでいる。


「イオ!!良かった~、生きてて!!」


泥にまみれた爽やかな笑顔の男が現れた。イオの友人だろうか。


「こ、ここは?」


「わからない。気が付いたら全員ここにいた」


石造りの床や壁。いや、コンクリート造りの床や壁の牢屋だ。簡易な作り方の牢屋だが、鉄格子にはかなりの高圧電流が流れているのだろう。鉄格子の側に黒焦げになったスラムの住人が転がっている。おそらく鉄格子に掴まった瞬間、高圧電流で焼け死んだのだろう。

周囲を見渡せば若くて10代半ば、最高齢でも30代半ばくらいの男達約20人が牢屋に閉じ込められている状況だ。向かいの牢屋にはまだ10歳にも満たない少女や恋人や夫から無理矢理引き裂かれたであろう女達が、お互いを慰め合っている。


「皆!!心配するな!!」


1人の男が立ち上がり、大声を挙げた。この男は自分から黒づくめ達に捕まりに行った"変わった住人"だ。


「『苦難の時に勇ましき者立ち上がる』。神話にはそうある!!そして、その苦難の時が今だ!!今立ち上がった俺が勇ましき者だ!!勇ましき者は理不尽から不遇な者達を救った!!今度は俺が皆を救ってみせる!!」


"変わった住人"は高らかに拳を掲げたが、誰もそれに同調する者はいない。


「なんだ、あれ?」


「ほら、いつも広場で神話がどうとか、勇者がどうとか言ってるやつだよ。イオも『勇者になれたらな』って言ってたじゃないか」


「あ、ああ……そうだったな」


イオ。黒づくめ達の"狩り"から隠れてやり過ごそうとしたが、見つかり、捕獲用のスタンガンの最大電流で死に、その間際に魔王に体を捧げた臆病者。そして、この爽やか笑顔の男はライネ。イオの唯一無二の友人だ。

今更ながら、魔王は自分がイオという19歳の青年の体を使い、現世に復活したことを実感した。こんな殺風景な牢屋の中での復活とは甚だ不本意ではあるものの、適合する体を長年探し続けていた。そして、ようやく見つけたこの体、この好機を逃す訳にはいかなかった。イオが黒づくめに受けた致命傷に関してはゆっくりとではあるが、魔王の力で治癒させていた。完治するにはまだ時間がかかるだろう。


「イオ?」


ライネが心配そうにこちらを、イオを見つめている。復活したとは言え、体や顔などの外見はイオのままなのだ。初対面の人間に馴れ馴れしくされるのは少しイライラする。


「…………ここから脱出したいけど、鉄格子はあんなのだし、コンクリート造りの牢屋じゃ手も足も出ないな」


ライネの爽やかな笑顔に曇りが見えた。笑顔で誤魔化しているんだろうが、恐いのだろう。自分達がこれからどうなるのかわからないのだから。


「"非民"の皆さ~ん!!お食事の時間よ~!!」


牢屋の外から嫌みったらしい癖の強い声が聞こえた。そして、1人の男が現れた。上等なスーツを着ており、不気味な痩せこけた顔を下手な厚化粧で覆っている男だ。


「アタシはここの支配人。よろしくね~。

男性諸君~!!あなた方は今夜のショーで活躍してもらうから、ちゃんと食べてね~。女性の皆さんもひょっとしたらお金持ちの家の玩具になれるかも。ああん、羨ましいわ~」


「おい、お前!!」


"変わった住人"が噛み付いた。


「今に見ていろ!!勇ましき者となった俺がお前を倒し、俺達の自由を取り戻してやる!!」


「…………ハイハイ、ちゃっちゃと食べてね~」


支配人は牢屋の前から立ち去った。その後、ドラム缶に手足が生えたような機械が現れ、自分の体の中から銀色の紙に個包装された食べ物を牢屋に入れた。

いち早く手を伸ばしたのは勇者気取りの変わった住人だ。


「腹が空いてはなんとやらだ!!」


銀色の紙を破り、中に入っている茶色いスティック状の食べ物に勢い良くかぶり付いた。ゴリゴリとした食感が静かな牢屋に響いた。最初は軽快な咀嚼音。しかし、次第に軽快さが無くなり、次の一口を付けるのも辛そうだった。


「ど、どうした?具合でも悪いのか?」


変わった住人の様子を心配して、誰かが声をかけた。


「い、いや、違うんだ……味が……味がしない。腹は膨れるし、不思議と元気が沸いてくるようなんだが……味が……」


さっきまでの威勢はどこへやら。


「……ま、まあ……毒じゃないみたいだし、とりあえず皆、食べよ」


スティック状の食べ物の数だけは人数より余分に置いていってある。果たして2つ以上食べる者がいるかどうかと思うが、ライネはイオの分と自分の分と2つずつ持ってきていた。


「ほんと、石でも食べてるみたいだな」


「ああ、だが、おそらくいろんな栄養素が詰まった栄養食品なんだろ?悪くない味だがな」


イオは奥歯でスティックの端を噛み砕き、石でも食べてるかのような音を立てて、食べ進めた。その様子を少し不思議そうに見るライネもそれに続く。

やはり2つ目を食べようとする者は現れなかった。特に女側では少女達が噛み砕けなくて駄々をこねている。

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