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ショートコメディ『〇〇くん』

ショートコメディ『村八くん』

作者: かげる

 村八分という言葉が、古くからあるらしい。端的に誤解を恐れずに言うと、仲間外れという意味になるのだが、まあ、そんなことはどうでもいい。


 私は、この教室で村八分を受けている生徒がいることを知っている。彼の名は、村八くん。同学年の、同じクラスメイトだ。彼は、自分だけが仲間外れにされていることに気づいていないようだった。


 放課後。彼の鞄が見つからないで、担任の先生が私達に『いい加減にしろ!』と怒鳴った。結局、鞄は教室のロッカーの中にあった。


「こんなことやめてよ!」


 村八くんの大声の反応にみんなが笑った。その中では、本心から楽しそうに笑った人が数人いた。私は笑わなかった。死ねと思っただけだった。


「どうして、こんなことするの!?」


 落書きされた鞄を見て、彼は大きな声で言った。クラスはまたドッと笑いに包まれた。私は笑わなかった。死ねと思った。彼は、どう思っているのだろう。許さない、と思っているだろうか。殺してやりたいと思っているだろうか。もしそうなら、その気持ちは間違ってない。だって、そう思った気持ちに嘘はつかなくていいだろう。ただ、行動は慎むべし。


 誠意は示していい。嘘はつかなくていい。でないと、本当のことが、ずっとわからないままだ。


 その気持ちを相手に伝えたほうがいい。私は、思う。同調しなくていいから、間違っていることは、間違っていると主張して、正しいと思ったことは、最後まで貫け。


 被害者面が気にくわねえ。


 加害者面も気にくわねえ。


 人気が少なくなったところで、私は、村八くんと話しをした。別に、友達という関係ではないけれど。たまには、話しをしないとね。


 今日も根暗に。


「村八くん! 今日も、いい小春日和だね!」

「……」


 きまった。


「元気!?」

「えっと、まあ、元気だけど」

「それなら良かった。元気出して!」

「だから元気だって言ってるけど」


 そんな会話になっているような、なっていないような会話をしたあと、本題に移る。


「村八くん! 村八くん!」

「なに!?」

「村八くん! 村八くん! 村八く!」

「だからなんなの!?」

「あなたって人は、どうして、なにも言わないの? イジメられてるって気づいてる?」

「イジメられてないし……」

「今日、知らないうちに鞄を隠されて、腹が立たなかった? 殺してやりたいって思わなかった?」


 もし私が、村八くんの立場だったら、我慢できないと思う。死ね。絶対に、殺すって憎悪の感情に支配されるだろう。次の日、学校にナイフを持ってきて『私、あなたがイジメをやめないと、あなたを殺してしまうかもしれない!!』って、パニックになりながら声を震わせて刃先を突きつけて脅すようなことはするはずだ。でないと、私が死んでしまうから。


 イジメで自分が死んでしまうくらいなら、それくらいのことはして、自分を正当化しないとやってられないだろう。一番いいのは誰かに助けを求めることだが、今のこのクラスの村八分な現状からして、それは期待できない(か弱い私に助けを求めてこられても、拒絶するだけだ)。


 給食の時間とか、彼だけ、わざと少なくしたり、ご飯にバッタやコオロギが乗っけられてたりとかなり悲惨だからなあ。


 本当に、鈍感でヤバいクラスってのは存在する。そんなイジメが見過ごされるくらいに、村八分は、集団の中で機能する。誰かを下に見ることで愉快になったり、安心する気持ちがでてくるのが、人間の心理だろうから。士農工商穢多非人。


「うーん」


 と彼は、少し考えるような仕草をしたあと、どうにも事態を深刻視していないような様子でこう言った。


「なんで、こんなことするんだ! て腹が立つより、なんとか今をやり過ごすことができららいいなって思いながら生きてるかも」

「死にたい気持ちがあるなら、死にたいって言った方がいいよ」

「はは」


 彼は乾いた笑みだった。どんなに苦しくても、彼はそんな顔をするのだろう。自分の気持ちを、相手に伝えるって、そんなに難しいのだろうか。


 自分のことなのに、自殺する人は、逃げることすらできないと思い込むくらいに精神的に追い込まれて、誰にも素直な気持ちを打ち明けられないまま、死んでいくのだろう。


 私は、怒りたい。なんかムカつく。










「お前ら素直になれよ!」










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