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かぎあな  作者: 路世 志真
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新しい役割




どんなに泣きわめいても、その扉が開く事は無かった。


どれぐらいの時間が経ったのかわからない。僕は泣きつかれて、いつの間にか眠っていた。


これは、きっと夢なんだ。


そう思って起きても、気がつくとやっぱり暗闇の中だった。


「初めてかもしれんな。宝をいれたのは」

「宝?」


暗闇の中、金庫が突然、話しかけて来た。


「じゃあ、ここから出してよ!!」


喋る金庫なら、出してもらえるかもしれない。金庫の声に、少し希望が湧いた。


でも…………


「私はただの金庫だ。鍵のある場所を知っていても、自分で鍵を開ける事はできない」


その言葉に、絶望的になった。


それでも、金庫の話は何だか元気が出た。


「私は元々宝物を入れるために作られてはいない」

「金庫なのに?」

「金庫があり、その中に宝があると思わせる事が大切なのだよ」


見せかけばっかじゃないか。この金庫はただの嘘つきだ。ご先祖様はみんな嘘つきだ。


じいちゃんだって………………


じいちゃんだって本当は、中身は空っぽだって知ってたんじゃないの?


何だか、僕だけバカみたいだ。


わからんじんのお父さんも、話を聞いてくれないお母さんも、嘘つきのじいちゃんも、みんな、みんな大嫌いだ!!


いいんだ。もう、みんな嫌いでいいんだ。


だって、もう二度と会えないんだから……。


「昊、諦めるな。お前は宝だ」

「じいちゃん?」


それは、金庫の声じゃなかった。懐かしいじいちゃんの声だった。


「じいちゃん、どこ?」

「大丈夫だ。昊、今助けてやる」

「じいちゃん!!」


すると、ガタッ!ガタンッ!ガラガラ…………と音がした。


音が止むと、辺りはまた静かになった。


僕は膝をぎゅっと抱えて、下を向いて言った。


「何が宝だよ。じいちゃんの宝は、おばあちゃんの絵でしょ?この蔵、この金庫じゃないか」


僕はまた、悲しくなってきた。


「昊、天国には物は持って行けないんだよ」


天国に…………物は持って行けない?それは、そうかもしれないだろうけど………………


「もう、これで忘れ物は無い」


忘れ物って何?じいちゃんにそう訊こうとすると………………


ガチャ!!と、音がして、扉の隙間から薄い光が射して来た。


「…………じいちゃん?」


光が眩しくて、誰かは良く見えなかったけど、声ですぐにわかった。


「昊!大丈夫か!?」

「お父さん………………!」

「良かった!ちゃんと生きてる!昊は無事だ!」


僕は何が何だかわからず、懐中電灯の光が眩しくて、目を閉じた。


すると、お父さんは僕を抱き抱えて、金庫から出してくれた。


金庫を出ると、辺りは真っ暗だった。じいちゃん家の明かりだけが、庭を照らしていた。それでも金庫の中よりよっぽど明るい。


僕はそのまま、すぐに病院に連れて行かれた。


本当は低酸素状態で、危なかったんだって。


病院を退院した数日後、お父さんに連れられてじいちゃんの家に行った。


もう、金庫を見たくない気持ちと、金庫がどうなったのか知りたい気持ちと、半分半分ずつだった。


でも、僕は蔵を見て驚いた。


蔵が………………


金庫のすぐ手前まで崩れていた。


まるで、金庫の中身を見ろと言わんばかりに、うまくそこだけ崩れていて、外からぽっかり金庫が丸見えになっていた。


崩れた蔵を見て、お父さんが言った。


「昊が金庫の中に入っていて良かったのかもしれない。蔵の手前側が崩れて、金庫が見えた時はもうダメかと思った」


お父さんはレアカードを僕に手渡してくれた。


「だけど、昊のこのカードが金庫に挟まっているのが見えたんだ」


このカードが、僕が中にいる事を教えてくれた。


命の恩人、命の恩レアカードだ。


「それで、もしかしたらと思って瓦礫をどかして、鍵を探していたら…………」


お父さんとお母さんは、あの瓦礫の中を必死に鍵を探してくれた。その姿を想像したら、何だか少し胸が苦しくなった。


「突然、柱時計が鳴ったんだよ。壊れていて、鳴らないはずなのに、時間ピッタリでも何でも無いのに…………」


それで、お父さんは不思議に思って柱時計を見に行ったら、針が一本しかない事に気がついて、この柱時計の針が鍵だという事がわかったんだって。


僕はもう一度金庫を開けてみた。


やっぱり中身は空っぽで、がっかりした。


だけど、僕はあの時の言葉を思い出した。


天国に、物は持って行けない。


僕は金庫から助け出されたときの、お父さんとお母さんの顔が忘れられなかった。


僕はその顔を見て思ったんだ。


僕は両親の宝物なのかもしれない。


じいちゃんの忘れ物は、僕じゃなかったんだ……。



じいちゃんが残したかったのは、


やっぱり人の想いなのかもしれない。


もしかしたら、金庫の中にはご先祖様の子孫を想う気持ちと、子孫のご先祖を想う気持ちでいっぱいだったのかもしれない。


だからこの金庫は、宝物が入らなかったんだ。きっとそう。


「僕、やっぱりこの金庫を残したい」


きっとまた、お父さんに怒られる。その覚悟で言った。


「でも…………中身は空だったんだろ?」


お父さんにそう言われて、僕は黙って頷いた。


これで、金庫の役割は終わり。これがきっと、金庫の寿命なんだ。


そう…………諦めた。


すると、意外にもお父さんは僕にこう言った。


「金庫は蔵から取り出そう。そして、どこか置いてもらえる所を…………探してみるか?」

「本当に!?」


僕はそれが嬉しくて嬉しくて、思わずこう言った。


「お父さん、僕、手伝う!」


お父さんは驚いていた。驚いて言った。


「昊にはまだ無理だ」

「無理じゃないよ!僕だって何だって手伝うよ!人だって物だって、役割を果たす事が重要なんでしょ?僕はじいちゃんの想いを残す。それは僕が役割を果たすんだ。」


すると、お父さんは、僕の方を見て嬉しそうに頷いた。


それから僕とお父さんは、古い金庫を置いてもらえる所を探した。博物館や、美術館、学校、あちらこちにお願いしてみた。


それでもすぐにはみつからなくて、行き場が見つかるまで、雨が降らない事を祈りながら、何日も何日も探した。


結局、1週間は行き場が決まらなかったけど、雨は一度も降らなかった。


1週間後、やっと近所の信用金庫に置いてもらえる事になった。


あの喋る金庫に、新しい役割ができた。


それは、蔵の中にあった時とは少し違うけど…………


今でもその金庫は、役割を果たしている。


「調子はどう?明るい場所で良かったね」


僕はあれから何度かあの金庫に話しかけてみたけど…………今はもう、何も喋らなかった。


喋らないけど…………


「立派な金庫だったね」


そう言って信用金庫から出て来た人を見かけた時には、何だか僕は誇らしい気持ちになった。


それは、金庫の中にあった、じいちゃんやひいじいちゃん、そのまたじいちゃんの想い。


僕はその想いを誇りに思う。


僕は自分の役割が何なのか、まだよくわからないけど…………


その誇りを胸に、これからは何でも頑張ろうと思った。


それから…………


実は、毎日こっそりお願いしてるんだ。


お気に入りのフィギュアが、いつか喋り出しますようにって。


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