表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かぎあな  作者: 路世 志真
3/4

金庫の中身




僕に話しかけたおじいさんは、誰かに呼ばれて、僕の側を離れた。そして、じいちゃんの写真の前に座って手を合わせていた。


そのおじいさんの横顔が何だか、じいちゃんと似ていて、僕は蔵の方を見るじいちゃんの横顔を思い出した。


僕はじいちゃんの宝物の話で、金庫の事を思い出した。


『人の想いは、物に宿るんだよ』


もしかしたら、あの金庫にはじいちゃんの想いが宿ってるのかもしれない。それなら、あの金庫は絶対に壊しちゃいけない!!


僕は急いでお父さんにお願いしに行った。


「お父さん、やっぱりあの蔵を残したい!」

「昊、今は忙しくてその話はしていられないんだ」

「じいちゃん、残したいって言ってた!」


それを聞いて、お父さんは少し怒った口調で言った。


「その話は親父も納得した事だ。今さら蒸し返すんじゃない」

「でも…………」

「蔵が古くて貴重なのはわかる。だけど…………」


そうじゃない。そうじゃないんだ。


お父さんはわからんじんだ。


「貴重だから残したいんじゃない!特別だから残したいんだよ!」


僕は怒った。怒ってお母さんの所に行った。


「昊、今忙しいの。あっちで遊んでらっしゃい」


話すら聞いてもらえない。


もういいよ!!


僕は怒って蔵の中へ行って、中から鍵をかけた。


僕はもうここから出ない。


僕は金庫の前に座って、金庫に話しかけた。


「ねぇ、中には何が入ってるの?」

「………………」

「じいちゃん、楽しみにしてたんだよ?」


何を言っても、金庫から答えは返って来なかった。


僕はすぐに暇になって、ポケットに入れていたカードを出した。それは、大事なレアカードだった。


お父さんと遊んで楽しかったカードだった。


じいちゃんに自慢したカードだった。


蔵の中は静かで、薄暗くて、小さな窓から夕日が差し込んでいた。


僕は、その静けさに、何だか急に寂しくなった。


まるで、この世界に僕1人しかいないみたいだった。


カードを見ていたら、なんだか涙が出て来た。


せっかくのレアカードが、涙で濡れたから、僕は慌てて袖でカードに落ちた涙を拭いたけど…………カードに少し折り目がついた。


そのカードは何度も遊んで、端の所がぼろぼろだった。


これじゃ、きっと…………喋ってはくれない。


僕の目からは次から次へと涙が溢れて、止まらなかった。


すると、突然声が聞こえた。


「男が泣くとは何事だ!」

「カードが喋ったぁ!!」

「かぁどとは何事だ?」


僕は気がついた。喋ったのは、僕のレアカードじゃない。金庫の方だった。


僕は必死に金庫に訴えた。


「お父さん、じいちゃんにとって特別なこの蔵を取り壊すって言うんだ」


すると、金庫は冷めた口調で言った。


「そりゃそうだ。お前とお前の父親とでは、その価値が違うからな」

「僕とは…………価値が違う?」


金庫は言った。


「物の価値は人それぞれだ。どうせお前は、私の中身が気になるから残したいんだろう?」

「そうじゃないよ!それもあるけど、じいちゃんが大事にしてたからだよ!」


じいちゃんはもう、この金庫が大事だってみんなには伝えられない。だから、代わりに僕が伝えるんだ。


「それに、お父さんが言ってたんだよ?人にも物にも役割があるって。中に宝物が入ってたら、金庫がまだ役割を果たし終わってないじゃないか!」


すると、金庫はこんな事を言い出した。


「それなら、鍵のありかを教えてやろうか?」

「えぇっ?本当に?」


金庫が鍵のありかを知ってるなんて…………それ、変だよ。


「お前の祖父が何を大事にしていたのか教えてやろう」


変だけど、そう言って、金庫は僕にこっそり鍵のありかを教えてくれた。


それは、廊下にある、大きな柱時計。


今はもう、動かないご自慢の時計さ。


その柱時計の針が、鍵になっている。そう金庫は話してくれた。確かにこの柱時計の針はとてつもなく大きいなとは思っていた。


僕は金庫に教えてもらった通り、大人の目を盗んで、こっそり柱時計の時計の針を外した。


そして、その針をシャツの中に隠して、急いで蔵の中に戻って来た。


蔵の中に入ると、入り口の鍵が壊れて鍵がしめられなかった。


だから、僕は考えて、例えバレてもすぐに入って来られないように、中からそこら辺にあったガラクタでしっかりと扉を押さえた。


僕は少し緊張して、鍵を持って金庫の前に立った。


こんなので、本当に開くのかな?


恐る恐る鍵穴に、鍵を差し込んでみると、本当にピッタリだった。


大きな鍵穴に、大きな鍵がしっかりと刺さった。


その鍵にぐっと力を入れて、ゆっくり回すと、ガッチン!と音がして、古い金庫が開いた。


開かずの金庫が、開いた。


それだけで、何だかドキドキしてきた。


僕は金庫の重い扉を開けると、その内側には、また扉があった。今度は、木の扉だった。


じいちゃんが生きてるうちに、金庫から聞き出すんだった。そうすれば今頃、じいちゃんは中身を見て大喜びしてたかもしれないのに……。


でも、そんなの今さら言っても仕方がない。


僕は気を取り直して木の扉を開けた。


その木の扉を開けると………………


中は………………


空っぽだった。


僕は中を探した。隅々まで探した。


でも、本当に、何もない。


「えぇっ!空…………?!」


僕は驚いた。じいちゃんがあんなに楽しみにしていたのに!


中身が空だなんて、じいちゃんが一緒に開けていたら、さぞかしガッカリしただろう。


正直、僕も、何だか……


凄く……凄~くガッカリした。


僕が金庫の前で肩を落としていたら、お父さんの僕を呼ぶ声が聞こえた。


まずい!蔵に入ったのがバレたらまたお父さんに怒られる!


僕はとっさに金庫の中に入った。


「腹の中に入るとは何事だ?」


金庫がそう言った。


そんな事はお構い無しに、僕は木の扉を内側から閉めた。


「ちょっとだけだよ。ほんの少し。ただ隠れるだけ」


そう言って木の扉を閉めると、中は何も見えないくらい真っ暗だった。


僕が息を潜めていると、入り口の方でお父さんの声が聞こえた。


「あれ?開かない。昊の仕業だな!開けなさい!」


それでも僕は、息を潜めた。


お父さんは入り口の戸を何度もガタガタ動かしていた。すると、ガッタン!という何かが倒れる音がして………………


ガッチャン。


なんとなく、嫌な音がした。


それは、鍵のかかる音だった。


僕は、もしかすると、もしかしたら、


金庫の中に…………


閉じ込められた!?


………………どうしよう!!


僕は木の扉を中から力いっぱい押した。


全然…………少しもびくともしない。


開かないってわかってても、何度も何度も押した。


「助けて!!助けて!!」


そう木の扉を叩いて叫んだけど、外の音は全然聞こえなかった。


「助けて!!誰か助けて!!お父さん!!」


外の音が聞こえないって事は………………


僕の声は、外には聞こえない。


それでも僕はしばらくの間、助けを呼ぶ事をやめられなかった。


「助けて!!助けてよ!!お父さん!!お母さん!!助けて!!じいちゃん!!」


そのうち涙が出て来て、泣き叫んだ。


「僕、ちゃんと良い子になるから!お父さんの言うとおり、もう蔵に入ったりしないから!!だから出してよ!!うわぁああああん!!」


中は、恐ろしく暗くて、恐ろしく静かで、恐ろしく狭くて…………


とてつもなく怖かった。


もしこのまま、二度とここから出られなかったら…………?僕はこのままこの中でどうなるの?


怖くて怖くて、たまらなかった。


もうこれ以上、少しもここにいたくないのに……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ