Scene7 女王
彼がドアを睨みつけると、突然ドアが大きな音を立てて開いた。
びっくりしてシルヴァは飛び上がってしまう。するとドアのところには、おばあちゃんそっくりの女性がいた。おばあちゃんよりだいぶ若いけれど、どこからどう見てもそっくりな彼女は彼を睨み返した。
「フィルフィーリィ、何をしているのかしら。あなたがいきなり私の前に現れたと思えば。どうしてその子たちを牢から出しているのかしら。許可を出した覚えないけれど?」
フィルフィーリィとは、彼の名前だろうか。彼はシルヴァとリーシャを器用に抱き上げて言った。
「理由なんてないですよ、女王様。許可も貰ってませんしね。まぁ、理由を述べるとしたら、彼らは軍に入るにはあまりも若すぎる。子供が人殺しなんてするもんじゃないと思ったからですかね」
女王様、という言葉には、たっぷりの皮肉がこもっていた。
「その行為がどういう意味を持っているのか分かっているのかしら。女王の私に逆らうつもり? 私がその気になれば、あなたなんてすぐに捕まえれるのよ」
「……捕まえられるのは困りますね」
そう言うと彼は風の魔法で窓を割った。バリバリバリ、と大きな音を立てて硝子が辺りに散っていく。あまりにも大きな音にシルヴァは驚いて彼の服をぎゅっと掴んだ。リーシャもびっくりしているようだが、それは彼の魔法というより、女王を見たことによって引き起こされたようだった。
「逃げるつもり? ……その子たちを離せば見逃してあげるけど」
彼女の声は怒りで満ちていた。顔も鬼の形相となり、綺麗な顔も台無しだ。とても低い声がシルヴァの悪寒を引き出した。
(ちがう……あれはおばあちゃんじゃない。でも、でも……)
「いいや、この子達を離すつもりはありませんね。では、僕たちはこれで」
彼は二人を抱いたまま割れた窓の方へ駆け寄って、そこからトン、と身を投げた。
「きゃっ……‼︎」
リーシャが恐怖のあまり叫び、二人はきゅっと目を閉じた。
「大丈夫だよ」
彼の優しい声で、シルヴァがそろりと目を開けると、彼は魔法を使って飛んでいた。ものすごいスピードで進んで行く。
しかし女王の追っ手たちが魔法で彼らを攻撃してくる。彼は何とか避けるも、あまりの数に圧倒されそうだった。
「ねぇ君」
彼はシルヴァの方を見た。シルヴァと同じ赤い瞳が輝いている。
「ありったけの魔法で、彼らを止めてくれないかい。このままじゃあ、ちょっと死んじゃうかもしれない」
「う、うん。やってみる」
今まで使ってきた魔法は実用的な魔法ばかりで、攻撃の魔法なんてほとんど使ったことがない。でも、やらなきゃ。シルヴァは大きな爆発をイメージして、手を相手の方へ向ける。
「おねがい、何か出て……!」
シルヴァが手に力を込めると、シルヴァの手から黄色の光が出てくる。その光はやがて大きな球状になり、それは女王の追っ手たちの方へと行く。
するといきなりその光は爆発を生んで、追っ手たちの攻撃は止んだ。
「……わあ、すごいね君。あんな魔法、今まで見たことないよ。……って、あれ? 君、どうしたの? もしかして気絶しちゃった?」
もしかすると魔力を使い果たしたのかもしれない。そんなことを考えながら、彼はとある所へと急いだ。