Scene6 もう大丈夫
優しそうな彼の後に続いたシルヴァが着いたのは、大きな窓のある部屋だった。
彼が魔法で部屋に光を灯すと、そこは大きな棚と書類が煩雑に置かれた机、小さなソファーしかない部屋だということが分かった。
リーシャをソファーに寝かせ、シルヴァは彼の近くへと寄った。何やら棚を開けては閉めたり、探しのものをしているようだった。
「なに、してるの?」
シルヴァが恐る恐る尋ねると、彼はリーシャの方をチラリと見て答えた。
「あの子にあげる薬を探してるんだ。確かこの前、女王様が作ってたんだと思うんだけど……。うーん、僕はあんまり薬に精通してないから、分からないんだよね」
えへへ、と微笑んで彼は再び棚を探し始める。
「ぼくも、手伝う」
近くから踏み台を見つけて、シルヴァも探し始めた。熱を抑える薬なら、この前作ったばかりだから分かる。
(……でもこの棚は大きすぎるから、時間がかかりそうだなぁ)
ラベルが貼られているといいんだけど、と思いながら棚を探す。中にはシルヴァの見たことのない薬も多く、少しだけ知識欲が掻き立てられた。
約10分後。ようやくシルヴァは風邪薬を見つけた。
「あった! よかった、きちんとラベルも貼られてるし、見たことのある薬草で作ってる」
「良かった、君のおかげだ。ありがとう。さてと、早く飲ませてあげないとね。ええと、これで少しはマシになるといいんだけど」
彼は魔法で、小さな水のボールをいくつか創り出した。
やがてそれは水蒸気になり、部屋を涼しくしていく。
「わあ、気持ちいい。ひんやりする」
シルヴァはチラリと彼の方を見た。魔法を使っている彼の姿は、まるで千年の魔法使いのような荘厳さを出しつつも、相変わらずの優しさも醸し出していた。なんだか、不思議な人だ。
シルヴァはすぐにリーシャの元へ駆けつけ、薬を渡した。彼がコップに水を注ぎ、リーシャに渡す。
「どう、飲める?」
「……うん」
リーシャはゆっくりと薬を飲んだ。彼の魔法のおかげも相まって、リーシャの熱も少しずつ引いているようだ。
「この薬はすぐに効くんだね」
彼が感心したように言う。
「少しだけ、薬に治癒魔法もかかっているみたい。普通なら、何時間かはかかるよ」
シルヴァは笑顔で答えた。あどけない笑顔に彼は微笑んだ。
「もう少し熱がひくまで待とうか」
「熱が下がれば……また、牢屋に戻らなきゃいけないの?」
リーシャが怯えた目をして彼に言った。今にも涙が溢れそうな瞳。シルヴァは慌てて彼の方を見る。
彼は一瞬だけ目をそらし、再びリーシャの目を見た。
「いいや……。もう、戻らなくていいよ」
その言葉に二人は驚き、えっ、と声を揃えて言った。
「どうして? 逃してくれるの? あなたは看守じゃないの?」
シルヴァは興奮して早口になる。おばあちゃんの元へ帰れると思うと、鼓動が速まる。
「うん、僕は君たちを逃がすためにここに来たんだ。君たちのような子供たちが軍隊に入るとすぐに心を壊してしまう。それだけは避けたいんだ」
シルヴァとリーシャは嬉しさのあまり、二人で一緒に喜びあった。
「はやくここから出してよ!」
「うん、でもその前に彼女と話さないといけないみたいだ」
彼はドアを睨みつけた。