Scene4 その名は古代の英雄
「ねえ、ねえってば。おーい」
どこからか聞こえる声でシルヴァは目を覚ました。ぱっちりと大きな瞳を開けると、そこには桃色の、もみあげだけが長い、碧眼の少女が映っていた。
「……?」
シルヴァはゆっくりと体を起こし、辺りを見回す。
どうやら見た限り、ここは牢獄らしい。二人でいるには狭い牢屋に閉じ込められている。周りにもたくさん牢屋はあるものの、二人以外に人影はなく、静まり返っていた。
「ここは? どうしてぼくたち、捕まっているの?」
シルヴァは甘くて冷たい足枷にそっと触れた。足枷の片方は少女にもついていて、二人はくっついている他なかった。
「私たち、見ての通り捕まっちゃったのよ。国の軍隊さんたちに。ほら、私もあなたも魔法使いでしょう? だからなの」
彼女の声はとても優しくて、どこかおばあちゃんを思い出させる。
「どうして? どうして魔法使いだと捕まっちゃうの?」
「……知らないの? 今、国は軍隊の魔法使いを増やそうとしているの。ほら、魔法は剣とか槍とかと違って、遠くから、強い威力で攻撃できるでしょう? 国はそんな強力な軍隊を求めてる。だからなの。もし魔法軍に入る、って看守さんに言えば牢から出させてもらえるわ。でも、私は嫌……」
彼女は少し、震えていた。恐怖で慄いているのだろうか? シルヴァはそっと、彼女の手の上に手を置いた。
「ぼくも、軍隊になんて入らないよ。魔法は人を傷つけるためにあるんじゃない、っておばあちゃんがいつも言ってたもの」
「そうよね、魔法は皆んなを幸せにするためのものだものね。良かった。あなたが魔法軍に入るって決めちゃえば、また私一人ぼっちになるところだったわ……。この牢、魔法で傷つけようとしてもできないから逃げれないし……。えっと、あなたの名前、聞いていいかしら」
彼女はじっとシルヴァの瞳を見た。綺麗な青い目に見つめられ、シルヴァはすこし気恥ずかしくて目を少しそらす。女の子にじっと見られるのは、初めてだったから……。うっかり恋に落ちてしまいそう。
「ぼくはシルヴァ。えっとね、森のなかでおばあちゃんと住んでたの。よろしくね」
「私はリーシャ。シルヴァって、とってもいい名前ね。私、あなたの名前とても好きよ」
そんなことを言われて、シルヴァはますます照れてしまう。顔も、耳までも赤くなってしまう。
バレてなければいいんだけども。
出来るだけ平然を装うかま、それでも声は少し上ずってしまう。
「えっ、ホント? 嬉しいな。ぼくもリーシャの名前、とっても素敵だと思うよ! 確か、古代の英雄の名前だよね? ほら、すごい魔法使いで、防御魔法で国全体を守る、っていうさ」
「そうなの? ごめんなさい、私知らなかったわ。でもそんな英雄と同じ名前なんてすごく光栄。あなた、博識なのね」
「そうでもないよ! この前たまたま読んだ本に書いてあっただけなの!」
初めて会った同年齢との会話は、シルヴァにとってとても楽しく、捕らえられているのは嫌だけど、このままこうして話していたいと思うほどだった。牢屋の中とも思えないくらい、明るい会話が続いた。
壁の高いところにある小さな窓から夕日が見えるにつれ、牢屋は少し寒くなってくる。リーシャが咳き込むと、シルヴァは体をくっつけて、二人で温めあった。
心臓がドキドキする。初めての経験に、シルヴァはすこし戸惑ったけれど、なんだか嫌なものではなかった。