Scene37 僕は
「……何か話すつもりかしら? ……私は特にないわよ」
「僕にはあるんですよ」
フィルは女王の隣に座ると、女王は少し気まずそうに、そっぽを向いた。
「シルヴァたちに、負けたんですね」
嫌味らしく言うと、女王は「そうね」と言った。
「あの子はあんまりあなたに似てないわね」
「そうですかね? 目はそっくりですよ」
フィルが冗談げに言うと、女王は鼻で笑った。
「あの子は母親似ね」
「でもきっと将来は背も伸びて、僕みたいになりますよ」
「そうかしら? あの子はあんまり伸びなさそうよ。……でも、こんなことを話しにきたんじゃないでしょ? フィルフィーリィ」
フィルは「フフフ」と笑うと、女王は遠くをじっと見た。
「……あのですね。先生……」
フィルが言いにくそうにしていると、女王はいつになく優しく微笑んだ。
「なぁに?」
「……これから、どうするんですか」
「そうね、どこか遠くで、ひっそりと暮らそうかしら。私はもう女王として立ってられないし」
女王がフィルの目をじっと見た。フィルは少し恥ずかしそうに目をそらした。
「国王さんには、なにも伝えないんですか?」
「そうね、迷惑かけたし……。きっとあの人、私のこと嫌ってるから、何も言わずに去る方がいいと思うの」
フィルは「そっか」とだけ言うと、そっと帽子とマントを脱いで女王に被せた。
「……僕は、先生といた時が、未だに楽しかったなって思ってますよ。僕がこんなに魔法を使えるようになったのも、先生のおかげですし」
フィルがニコリと笑うと、女王もつられて微笑んだ。
「そんなこと言ってくれるなんて、優しいのね。……シャーロットに会ったら、謝っておいてくれないかしら。私には、あの子に会わす顔もないし」
「分かりました」
女王はゆっくりと立ち上がると、優雅に歩き始めた。
そしてドアにそっと手を伸ばし、ゆっくりとドアを開けた。
「あの、先生」
フィルが出て行こうとする女王を呼び止めた。
「……その、僕にできること、ありませんか……」
悲しい顔をするフィルを見て、女王は言葉を詰まらせた。そしてフィルに近づいて、背伸びをしてそっと頭を撫でた。
「いいの。私が、悪いだけのことだから。いろいろあなたに任せてばかりだし。
その、ありがとう。あなたにいっぱい迷惑かけたのに、優しい言葉をかけてくれて」
女王はそう言うと、そっと部屋から出て行った。
(……この前まで、憎んでばっかりだったけど、いざ別れるとなると複雑になる……。
ダメだなぁ、僕……)
フィルは少し考え事をしてから、部屋を出た。
王城はとても静かで、冷たい風が吹いていた。
フィルは箒に乗って家へ帰った。
空から下を見下ろすと、女王が森に入って行くのが見えた。
(きっとこれで良かったんだよね……? ……そうだよね、シャル……?)




