Scene35 悪者は女王さま?
シルヴァとリーシャの、息のあったコンビネーションでも、女王に傷をつけるのは困難なことだった。
リーシャがバリアーで二人を守って、シルヴァが隙をついて攻撃する。
それでも女王は軽々と攻撃を避けてはバリアーに傷をつける。
「まるでフィルフィーリィとシャーロットみたいだわ」
クスクスと話す余裕がある女王に比べて、シルヴァたちは話す余裕なんて微塵もない。少しでも集中を切らせば、たちまち攻撃されてしまう。星のおかげで魔力はまだまだあるものの、長期戦になれば体力的に厳しくなることは明白だった。
かと言って闇雲に攻撃することもできない。考えなしに攻撃したって防がれるか跳ね返されるかのどちらかだ。
(……どうしよう)
リーシャのバリアーもいつまで持つか分からない。いくら強くなっているとはいえ、魔力には限りもあるし、攻撃される度にバリアーにはヒビが入り、脆くなる。
「……ホント、あなたたちはあの二人にそっくりなのよね」
「……ぼくの、お父さんとお母さんに?」
シルヴァが魔法を放つ手を止めると、女王も攻撃をやめた。
「ええ。知ってたのね。あの二人はね、ホント……、自慢の弟子だったのよ。私が言えることじゃないけど」
女王は少し悲しそうな目で二人を見た。青い、綺麗な目で見つめられると、思わず目をそらしたくなる。
「……ホントは、ずっとあの子たちといたかった」
「……どうして、一緒にいなくなったの? どうしてお母さんにひどいことをしたの?」
女王は再びシルヴァをじっと見てから、俯いた。涙が、女王の目からこぼれ落ちる。
「いられなくなったのよ。……どうしても」
「どういうこと?」
「……国を強くするには、こうするしかなかった」
「よく、分からない」
シルヴァも同じように俯いた。頭の中には、記憶のないお母さんのことばかりだった。
「私は、どうしてもこの国を強くする必要があったのよ」
「他の人を傷つけても、ですか?」
リーシャが口を開いた。リーシャが喋ったことが意外だったのか、女王は一瞬驚いた顔をしてから、もう一度俯いた。
「ええ。じゃないと、あの人に嫌われちゃうもの」
「あの人?」
「国王……私の、夫ね」
「嫌われるって、どういうことですか? お互い好きで結婚したなら、そんなこと気にしなくても……」
リーシャの言葉に、女王は寂しそうな顔をして言った。
「……私たち、好きで結婚したんじゃない。……政略結婚なのよ。私のお父様……ミシェラル王国の、国王様が、自身の命を見逃すことと引き換えに私をこの国に引き渡したってこと」
「……私の、お母さんは? ……双子、なんですよね」
「ええ。ミシレーヌは、私の妹。幼かった私はね、妹のことが大好きだったから、私が代わりに人質になったのよ。あの子が苦しい思いをするのなら、私が、ってね。
……でも、でもね。私が大人になって、苦しい思いをするたびに、どうして私がこんな目に、って思っちゃうの。
私がやるって言ったのに、嫌になって、それで妹を憎んで……。ほんと、自己中心的よね……」
女王は大きなため息をついてから、「なに子供相手にこんなこと言ってるのかしら」と言った。
シルヴァたちは、なにも言えなかった。女王があの星園の魔法に執着していたのは、国王に嫌われたくなかったから。
リーシャを憎んでいたのは、自分以上に幸せに暮らしていた妹の子ども──つまり、幸せの象徴だったから。
「……女王さまは、完全な悪者じゃ、ないんだね?」
シルヴァが優しく微笑んで言うと、女王はシルヴァをまるで嘲笑うかのように微笑んだ。
「どうかしら? 私は、欲望のために星の子を殺したし、少女の生活をめちゃくちゃにしたわ。それに、あなたたちも傷つけたし。
……たくさんの魔法使いも軍隊に入れて戦わせた。そんな人が、悪者じゃなかったらなんだと言うの?」
「きっと、星園の魔法の被害者なんだよ。この魔法が欲しくて、お母さんを傷つけちゃったんでしょ?」
シルヴァの言葉の続きを言うように、リーシャが話し始める。
「たくさんの魔法使いを軍隊に入れたのは、国王さまに見て欲しかったから。女王さまの国王さまに見て欲しいという気持ちが、あなたを狂わせてしまった……」
二人の言葉に、女王は言葉を詰まらせた。少し俯いて、肩を震わせている。
「……女王さまが悪くない、とは言えないけど。でも、なんて言うか……。完全に悪いわけじゃないと思う。
きっと、星園の魔法がなければ、傷つく人はもっと少なく済んだんだよね」
リーシャは何かに気づいたのか、シルヴァの手をそっと握った。
「……あの魔法は、どんな願いも叶える魔法。
なら、ぼくは、この魔法を使って……
この魔法を消す」
シルヴァが言うと、女王は今までにないくらい驚いた顔をした。
「きっとこの魔法がある限り、人間も、星の子も、傷つくと思うんだ。ぼくのお母さんも、女王さまも、ステラも、ニーも……」
シルヴァは魔法を使うべく、手を上にそっと向ける。
宇宙をイメージすると、そこには小さな宇宙が創られて、それは大きくなって三人を包み込む。
綺麗な流れ星がたくさん流れ、あちこちで綺麗な星が瞬きを繰り返す。
そして、シルヴァたちの前にステラがふわりと現れた。
ステラまるで全てを見透かしたような顔をして、シルヴァに問う。
「さて、何を願う? 『純粋なる星園』に」




