Scene34 きみのために
錆びたドアを開けるのに、苦労なんてしなかった。簡単に開いたドアから漏れた光はとても眩しくて、三人とも手で目を覆う。
「あら、来たの……?」
そして、聞こえる声。それは、優しい女王様の声。
「あっ……」
シルヴァが前を見ると、女王が優しく微笑んでいた。まるで、おばあちゃんのように。
「……フィルフィーリィがいないようね。まぁ、いいわ」
そう言うと女王は部屋の奥へと進んでいく。シルヴァたちも、そっと後に続く。
部屋は、冷たくて、暗かった。
その部屋に唯一あったのは、星の子ステラの亡骸だけ。あまりに痩せていて、少しも動かないそれは、死んでいるのだと直感で三人とも分かった。眠っているかのように綺麗なそれは、シルヴァたちの背筋を凍らせた。
「……ああ、気になるの?」
三人の目線に気づいた女王は、クスリと笑って言った。
「星の子よ。まぁ、もう死んじゃったけど。……でも、もうすぐ生き返るのよ」
女王はシルヴァをじっと見た。
「貴方の魔法のおかげでね」
シルヴァは女王を睨み返した。赤くて大きな目には、怒りがこもっていた。
「ぼくたちは、女王様を止めるために来たんだよ」
リーシャも同じように女王を睨むと、女王は高笑いをした。
「へぇ、私を止めに? 身の程知らずもいいとこね」
すると女王の目線はヴァニラに向けられる。
「ねぇ、そうでしょう? あなたが私に手を出せるわけがない」
ヴァニラの顔が、絶望に変わる。女王が近くにあった大きな杖を、地面にコツンと当てる。
「いやっ……‼︎」
ヴァニラが叫んだ瞬間、ヴァニラの体は弾けてしまった。シャボン玉が割れたようだ。血も流さなければ、亡骸も残らない。
なにも、残らなかった。
「あの子は私の魔力で生んだのよ。あの子の心臓は私が握ってる。そんな子が、私に逆らえるとでも思ったのかしら。勘違いもすぎるわね」
「……」
シルヴァもリーシャも、何も言葉を出せなかった。ただ、愕然としていた。
「戦意喪失ってとこかしら。ちょうどいいわね」
女王がまたクスリと笑い、もう一度杖を地面に当てる。
すると杖からはたくさんの蝶が現れ始め、それはシルヴァたちへと向かう。
何もできないシルヴァだが、リーシャは咄嗟に二人を包む小さなバリアーを張った。
「シルヴァ、しっかりして」
「……」
蝶はバリアーを張っても二人に攻撃をしようと群がってくる。シルヴァはただ、なにも出来ずに立っているだけだった。
「このままじゃあ、私たちも死んじゃうのよ。そうなったら、ヴァニラだって、悲しむわ」
「で、でも……」
シルヴァの震える手を、リーシャはそっと握った。
「シルヴァがしっかりしなくてどうするのよ! あなたが、ヴァニラの仇を取るのよ。……あなたしか、できない。私には、できないの!」
リーシャはバリアーを大きくして、蝶を追い払った。リーシャの額にある印が僅かに光る。リーシャに魔力を送っているようで、リーシャのバリアーはより大きく、より強くなった。
「あのねっ、ヴァニラはあなたのこと、好きだったんだと思うの。だから、死ぬと分かっててもあなたをここに連れてきたのよ。ヴァニラが死んだのはあなたのせいじゃない。だから」
シルヴァは大きく頷いた。目に浮かぶ涙を拭って、シルヴァは言った。
「ありがとう、リーシャ。ぼく、頑張るよ。ヴァニラのぶんも」
リーシャは嬉しそうに微笑んで、「うん」と言った。
シルヴァの得意な火の魔法で蝶を消してから、女王をもう一度睨む。
「ぼくは、戦うよ。ヴァニラのぶんも、ステラのぶんも」
女王の顔は、とても嬉しそうだ。シルヴァとリーシャは頷きあい、魔法を出すため手に力を込める。




