Scene33 まさに獅子奮迅
「よっ」
フィルが国王、ニーテヴェーベに氷の塊を投げつけると、国王はいともたやすく剣で氷を打ち砕いた。
(やっぱり国王なだけあって強いね……)
フィルが何度攻撃しても、国王はその度に簡単に返す。国王の攻撃を防御魔法で受けるのも精一杯で、たまに相手の剣が頬や腕にかすり、わずかに血が出てしまう。
「魔法使いは、一対一だとキツイんだろ?」
僅かに口元が微笑む国王に、フィルはムキになってしまう。
何度魔法を使っても返されて、後ろに回り込もうとしても国王の方が素早くて無理だ。
(どうしよう……)
フィルは焦って上手く考えられない。魔法使いは考えて戦わないといけないのに。
国王は休む間も無くフィルに攻撃をする。
「ふぅん、セマレーヌが強い強いと言ってた魔法使いもこの程度か。やっぱり魔法使いは弱いんだな」
ついに国王の剣はフィルのバリアーを砕いた。パリン、と音がして、フィルの体には傷が刻まれる。
「っ……!」
フィルは目の前に炎の壁を作ってなんとか攻撃を妨げた。しかし顔や腹、腕からは血が流れて、体のあちこちが痛む。
(……よし、一か八かだね……)
炎の壁を避けてフィルに向かって走る国王を、フィルは風の魔法で何とか食い止める。やはり力のある国王の動きを完全に止めることはできないが、少しだけ遅くなっている。
(どうか、これで……!)
フィルは服の中から粉末状の眠り粉を取り出し、国王に向けてばら撒いた。
それは風に乗って国王の元へと行き、国王の動きは鈍り始める。
「……ふん、汚いやり方だ」
「ごめんなさい、やっぱ僕は争い事は得意じゃないみたいだ。大丈夫、殺しはしませんよ。国王様ですし」
動きの鈍い国王に、攻撃を当てるのは容易いことだった。氷の刃で国王の手を刺して、その刃を床に刺す。これで国王は動けない。
「……お前、魔法使いのくせに頭は使わないんだな」
息を切らした国王が、フィルを見上げて言った。今にも意識は途切れそうだ。
「まぁ、のんびりしてられませんし。戦いの経験もあまりないんで、仕方ないです」
「……ふっ、俺はもう動けないな。セマレーヌに会いに行けよ。アイツは俺よりお前の方を気にしてたしな」
「……なら、そうします。そうだ、眠りから覚めたらすぐに治療しますから、言ってくださいね」
フィルが屈託のない笑顔を見せると、国王はため息をついた。
「バカ言え、誰が傷を作った張本人に治療を頼むか。早く行けよ」
そう言うと国王は眠りについた。フィルはそれを確かめてから、そっと氷を溶かし、手に包帯を巻いてやった。
自身の傷も魔法で癒し、落ち着いてからシルヴァたちを探すことにした。とは言っても、どこに行ったのか見当もつかない。何しろ王城は広いし、ヘタに動いて兵たちに見つかるのも避けたい。
(……さすがにこの状態で見つかるのは困るしなぁ。まぁ、廊下にいないから、部屋に入らない限りは見つからなさそうだけど)
静まり返った廊下。普段は必ずと言っていいほど誰かは歩いているのに。
もしかして、僕たちが来ることを見透かされていて、どこかで待機しているのかもしれない。どこかで、僕らを叩きのめすために。
(……なら、どうして国王と戦う前に現れなかった?)
普通、国王が戦うなんて滅多にないことだ。あるとしても、兵士たちが戦ったが歯が立たない時くらいだろう。国王なんていう身分の人が、そうやすやすと戦うわけがない。
(やっぱり、ハメられてるのか?)
フィルは不安になってきた。もしかすると、シルヴァたちの元に兵の大群が向かってるのかもしれない。純粋なあの子たちのことだから、人と戦うなんて厳しそうだ。
「なら僕が、どうにかするしかないよね」
フィルはわざと罠にかかることにした。
女王がいそうな部屋に、兵たちが待機していそうな部屋に、あえて入る。そうすれば、もしかしたら途中でシルヴァたちに会えるかもしれない。
(まぁ、すでにシルヴァたちがどうにかしてる可能性もあるけど。とりあえず行ってみよう)
シルヴァとリーシャには、ヴァニラと名付けられたあの女王の手下だった子もいる。きっと正しい居場所も分かるだろう。
(……まずはここだね)
昔、フィルがセマレーヌに魔法を教わっていた頃、女王はよくここでお茶をしていた。
ドア越しに伝わる、緊張感。ここに、兵がいる。
フィルは大きな音を鳴らしてドアを開けた。




