Scene32 お城の中は
ヴァニラがふと立ち止まった。三人も立ち止まると、「どうしたの?」とシルヴァが尋ねた。
ヴァニラは「しっ」と言うと、コソコソと言った。
「……誰か来る」
ヴァニラがそう言うと、先生は辺りを見回して、隠れる場所を探した。
「どこかに隠れないといけないけど……。部屋に入るのも危険だね」
「でも、それじゃあ鉢合わせに……」
リーシャが慌てて言うと、ヴァニラはそっと何かの魔法を使った。
女王が魔法を使うと現れる蝶がヴァニラの手からたくさん現れ、三人たちを包み込む。
「じっとしてて」
三人は言われるままじっとしていた。少しした後、大きな槍を持った兵士と、頰を赤らめたメイドが前を通り過ぎた。
兵士たちが人目を忍んで部屋に入るのを確かめると、ヴァニラは蝶を消した。
「……よしっ」
「バレなかったね、魔法のおかげだね」
嬉しそうにシルヴァが言うと、ヴァニラは恥ずかしそうに目をそらした。
「君はすごい魔法を使えるんだね。とにかく先を急ごう」
先生が微笑むと、ヴァニラは頷いて歩き出した。
「きっと、この部屋」
四人の前には、綺麗な装飾のついた扉があった。とても煌びやかな扉で、いかにも中に女王がいそうだ。
「よし、入ろう」
先生がそっと扉を開けた。
恐る恐る中を覗くが、中には誰もいなさそうだ。
「誰もいないの?」
シルヴァが部屋の中に足を踏み入れると、床には紅い魔法陣が浮かび上がる。
「危ない!」
先生が慌ててシルヴァの腕を引き、廊下へ引きずり出した。
代わりに先生が部屋の中に入ってしまい、魔法陣の上に立ってしまった。
「先生っ!」
シルヴァが先生に駆け寄ろうとするも、先生の鋭い睨みで立ちすくんだ。
「……罠だよ、シルヴァ。この部屋に女王はいない。違う部屋を探して」
「でも、先生……」
心配そうにリーシャが言うと、先生は作り笑いで安心させようとした。
「大丈夫、ほら、早く行って」
先生が言うと、シルヴァたちは申し訳なさそうに頷いて、その場を去った。
「……優しい奴だな、『先生さん』は」
「……そりゃあ、生徒を守るのが先生ですし」
フィルが言うと、その人は大きな声を上げて笑った。
「……僕のこと、殺すつもりですよね」
「まぁ殺すまではいかなくても、動けなくはしないとなぁ。セマレーヌにそう言われてるし」
「なら、戦わなきゃいけないってわけだ」
フィルがクスリと口元を笑わせると、相手は少し眉間にしわを寄せた。
「何言ってんだ、お前は魔法陣の上だ。そんなんじゃ魔法もロクに出せないだろ」
フィルは床の魔法陣を見ると、指でそっと魔法陣の線に触れた。
フィルが魔法陣の線をなぞると、魔法陣の光は少しずつ無くなっていく。
「何をしてる?」
相手はただフィルをじっと見ていた。魔法に精通していない彼は、フィルが何をしているのか分からないのだろう。
「よしっ」
フィルがクスリと笑って立ち上がると、魔法陣は消えた。相手は呆然としている。
「この魔法陣、雑だね。急いで作ったんだろう。こんなの、僕の手にかかればショボいものさ」
そしてフィルは相手にそっと手を向けた。
「さて、これでお互い本気で戦えますよね? 国王さま」
フィルの目は、狩りをする獣のように輝いていた。
「あそこに女王がいないとなると、どこにいるの?」
シルヴァはヴァニラに聞いたが、ヴァニラは首を振るだけだった。
「……分からない……。いつもはあそこにいらっしゃるの。でも、いなかった……」
「もしかして、私たちが来るのを見越してるのかしら?」
リーシャが独り言のように呟いた。
「見越してた? ……でもあの女王なら見越してそうだね」
「……なら」
ヴァニラはいきなり駆け出して、地下へと続く階段へと近づいた。
「地下にいるかも。あそこは……」
ヴァニラは言うのを途中でやめた。
シルヴァとリーシャは首を傾げた。
「なぁに?」
「……ううん。でも、いる、かも……」
ヴァニラは少し階段を降りた。
シルヴァとリーシャも続いて階段を降りた。
薄暗い階段。まるで危険な実験でもしてそうな雰囲気。
空気がひやっとしていて、とても寒い。ふとシルヴァは昔捕らえられていた地下牢を思い出す。
「……」
階段は思ったより長くて、進んでいても進めていないように思えてくる。
「あと、どれくらい?」
リーシャがヴァニラに聞くと、ヴァニラは少し冷たく「もう少し」とだけ言った。
先の見えない階段。先を灯すのはシルヴァの魔法の小さな火の玉だけ。
「ここ」
いきなりヴァニラが立ち止まって、シルヴァはヴァニラにぶつかった。続けてリーシャもシルヴァにぶつかる。
三人の目の前には、錆びたような大きな扉があって、小さく「立ち入り禁止」の看板がかけてあった。
「入って大丈夫なの?」
シルヴァがヴァニラの耳元で囁く。ヴァニラもまた、こそっと言った。
「……大丈夫では、ないけど。仕方ないわ」
そう言うとヴァニラは何の戸惑いもなくドアノブを回した。




