Scene26 ぼくらもいるよ
「……ステラの魔力が、ぼくの魔力なの?」
ニースヒールの話を聞き終えた後、シルヴァは呟いた。先生ニースヒールの代わりにコクリと頷いた。
「たしかに元はそうだったけど、今は使いこなした君のものさ」
心配そうな顔をするシルヴァを優しく見た。それからシルヴァは思い出したように先生に聞いた。
「この前の満月の時、魔法が上手く使えなかったのもそのせいなの? 今まで満月の時に魔法を使うことがあまり無かったから気づかなかったけど……」
それを聞いたニースヒールは頷いた。
「ステラも満月の時は上手く魔法を使えてなかったから、そうだと思う。満月の時は星の明かりが月に邪魔されるんだ。逆に言えば、月の力が一番弱い新月の時が、星の子の一番力を発揮できる時ってワケだ」
「確かに、牢から逃げたシルヴァがものすごい魔法を出したあの日も新月の日だったね」
シルヴァはコクリと頷いた。リーシャはシルヴァを偉人でも見るかのように見ていた。
「シルヴァって、すごいのね。私とは大違いだわ」
少し自虐的に言うリーシャに、シルヴァは首を振った。
「そんなことないよ。……だって、その魔力はぼくのじゃないもん。それに、親だっていないし」
悲しく呟くシルヴァに、先生は少し俯いたけれど、すぐに顔を上げた。
「とにかく、僕は女王を止めないといけない」
その言葉に、場の空気が止まった気がした。
みんな先生の顔を驚いた顔で見ていた。
「止めるって、どういうことだ?」
ニースヒールが聞くと、先生は立ち上がって言った。
「女王は、僕の魔法の先生だ。星の子の力を求めて暴走する女王を止めるのは僕しかいない」
先生の目は鋭かった。重い責任を感じているのだろう、拳は固く握られていた。
「そんな簡単に止めれるのか? 女王はとても強いと聞くぞ。ヘタに動くと殺される。そうなりゃ悲しむのはお前の弟子たちじゃねぇか」
ニースヒールは強い口調で言った。メリッサはそんな父親を見て少し怯えながら、彼の膝の上に座っていた。
「それでも、止めなきゃいけない。女王は星の子の力を持つシルヴァを狙ってる。弟子を危険から守るのは師の役目だ」
「そう簡単に行かないぞ。女王の下には国軍だっているし、何より国王も力を貸している。このままシルヴァたちと遠くへ逃げればいいじゃないか。何も死に急ぐことはないと思うぞ」
「それなら、他の犠牲者が出るかもしれない。それはダメだ」
二人の言い合いは続いた。だんだんと激しさを増し、喧嘩をしているように聞こえる。
メリッサは怖くて半泣きになり、リーシャも怯えていた。
「ちょっと、落ち着いて」
二人の口喧嘩はミシレーヌの言葉によって終わった。
「感情的になっちゃダメ。みんなで話し合って、決めましょう」
「……」
ミシレーヌが二人のコップに紅茶を足すと、そっと言った。
「……あのね、女王様は、根から悪い人じゃないの。あの人、昔はいい人だったのよ」
「どうして知ってるの?」
シルヴァの問いに、ミシレーヌは少し戸惑ってから答えた。
「私の、姉なの。双子の。昔、私たちがミシェラル王国の王女だった頃は悪い人じゃなかった。とても優しくて、気配り上手な人だったの。
姉さまが変わったのは、ミシェラル王国が滅んで、姉さまがこの国に嫁いでからよ。嫁いでから、姉さまは変わってしまったの。人を人と思わないような、冷酷女王になってしまって」
ミシレーヌの声は震えていた。それを見て、ニースヒールは呟いた。
「俺もウワサで聞いたことあるぜ。ミシェラル王国の国王が、自身を解放してもらう代わりに、王女を差し出したってな。それ以来王女の性格がガラリと変わってしまった、って。にして、双子だったとはなぁ。言われてみりゃあ、そっくりだぜ」
ニースヒールが満足気に頷くと、先生は言った。
「それでも、女王がしたことは許されることじゃない。女王のせいで無理やり魔法軍に入れられて死んだ人だっている。僕は、行くよ。王城に」
「待って」
先生の裾を、シルヴァが引っ張った。
「ぼくも行く」
「私も」
シルヴァとリーシャが言うと、先生は驚いた顔をした。
「何言ってるの、二人とも。殺されるかもしれないんだよ。そんなところに、行かせるわけにはいかない」
「関係ないよ! 女王を、止めないといけないんでしょ」
「先生一人じゃダメなこともあるかもしれないわ。私たちがいたら、ダメなことも出来るかもしれないわよ」
二人の目は、とてもしっかりとしていた。決意を固くした顔で、先生は簡単に拒否できなかった。
「で、でも」
「……行かせればいいんじゃねぇの?」
ニースヒールが呟いた。
「シルヴァの力は役に立つだろ? それにその女の子だって役に立つはずだぜ。防御魔法、すごいんだろ?」
「ど、どうして知ってるの?」
リーシャの問いにニースヒールは答えなかった。
「な、一人じゃ流石にキツイぞ。俺も力を貸すしさ。一人で行動するのはやめとく方がいい」
そう言われて先生は少し微笑んだ。
「そうだね、たしかにそうだ。……でもシルヴァにリーシャ、僕は君たちを完全に守ることはできないよ。死んでしまうかもしれない。それでも、いいんだね?」
「うん」
二人は強く頷いた。リーシャはミシレーヌの方を見ると、強い口調で言った。
「あのね、女王さま、殺さないわよ。なんとか説得して、暴走を止めさせるわ。だから、心配しないで。私には、このお守りもあるから」
そう言ってリーシャは額の模様を見せた。
それを見たミシレーヌは、安心したように頷いた。
「なら、王城に行くのは次の新月の時がいいね。それまでに、魔法を練習しないと」
先生が言うと、シルヴァとリーシャは「はい」と大きな返事をした。
ニースヒールとメリッサは、そんな三人を眺めていた。
「パパも戦うの?」
「うーん、わかんねー。魔法使い同士の戦いに、普通の人は力になれねーしな」
「……ふぅん」
興味のなさげなメリッサの反応に二ースヒールは呆れたが、あまり気に留めずに紅茶を一気に飲み干した。




