Scene24 「お母さん」
眩しい太陽の光が、シルヴァの顔に当たって、ようやくシルヴァは目を覚ました。
太陽はすでに高く昇り、もう昼頃になっていた。家に帰り、眠りについたのがもう明け方くらいだったので、こんなに遅くまで寝ていたのは仕方ないことだ。
「ふわぁ……」
大きく欠伸をして、着替えをした。いつもつけている星のブローチが、いつもよりキラキラ輝いていた。
剣を突き刺された腕はまだ少し痛むものの、あまり気にするほどでもなかった。
一階に降りると、すでにリーシャは起きていて、傷だらけの先生の手当てをしていた。
先生は包帯をたくさん巻いていて、顔も疲れ切っていた。
「先生、どうしたの?」
シルヴァがソファに横になっていた先生に近づくと、先生はシルヴァを少し驚いた顔をしてから、さっと目を逸らした。
「……?」
普段は優しくしてくれるのに。今日は目も合わせてくれない。やっぱり、疲れてるからかな? そう思うと、あまり構いすぎるのもかわいそうなので、シルヴァは棚からパンを取り出して、遅い朝ごはんを取ることにした。
半分くらい食べたころ、リーシャはシルヴァの向かいの席に座った。
「先生、寝たみたい。先生ね、昨日私たちを助けにお城まで行ったんだって。それで、女王様にやられちゃったみたい」
リーシャは寝ている先生に聞こえないように静かに言った。それから静かに立ち上がり、コップに牛乳を注いでシルヴァに渡した。
「牛乳、飲まないと。背、伸びないわよ」
いたずらっぽく笑うリーシャを、シルヴァは恨めしく見た。
男のシルヴァだが、女の子のリーシャとあまり背が変わらない。今まで気にしたことはなかったが、こう言われると気にせずにはいられなかった。
「まだ成長期じゃないの。いつかぐーんと伸びるんだから! 先生くらいね」
「ふふふ、楽しみね。その頃には大人っぽくなってそうね」
そう言うとリーシャはシルヴァの口周りについたパンカスを取った。
「あ……」
恥ずかしそうにするシルヴァを、リーシャはニッコリと微笑んで見た。
それからは魔法教本を見てしばらく過ごした。
夕方頃になると、先生が目を覚まして、二人に近づいた。
「ごめんね、昨日は。僕がここを離れたばかりに……。二人には、怖い思いをさせちゃって」
申し訳なさそうにする先生を、二人は慌てて元気を出させようとした。
「気にしないでよ、先生! あ、あのね、この前シルヴァにもらったお守りがね、守ってくれたの」
シルヴァはびっくりして、いつもリーシャがブローチをつけていた服の襟を見たが、そこにはブローチはなかった。
リーシャはポケットから粉々になったお守りを取り出した。
シルヴァと先生はそれを興味深そうに見た。
「ふぅん……。これには古代魔法がかかってるね」
先生がつぶやくと、シルヴァは興奮気味で「古代魔法って?」と聞いた。
「……今はもうない、ミシェラル王国の魔法だよ。とても複雑にできている分、効果はピカイチさ」
リーシャは思い出したように前髪を上げて、額にあるお守りと同じ模様を先生に見せた。
「これも、古代魔法なんですか?」
「……そうみたいだね。君は本当についてたね」
優しく微笑むものの、シルヴァにはその微笑みを見せない。シルヴァは少し不満だった。
「あのね、二人とも。
ここは結界もなくて、女王にバレてしまってるんだ。ここにずっといるのは良くないことだから。
シルヴァの『おばあちゃん』……ミシレーヌさんのところに行ってほしいんだ。
僕も治ればすぐにそっちへ行くから」
「えっ、で、でも」
先生は心配そうにするリーシャの頭を軽く撫でると、言葉を続けた。
「大丈夫。あそこには君が待ち望んでいた人もいるから。安心して」
そう言うと先生は二人を外まで押し出した。まるで、早く二人を追い出したいかのように。
「シルヴァ、彼女の家がどこかは覚えてるよね」
「う、うん」
「なら、よろしくね。……ごめんね」
先生はそう言うと優しくシルヴァの頭を撫で、家の中に戻っていった。
「行こ、リーシャ」
シルヴァはリーシャの手を引いて、軽く空を飛びながらおばあちゃんの家へと向かった。
久しぶりに、会える……。
ミシレーヌの家のドアを叩くと、すぐにミシレーヌは出てきた。
シルヴァの顔を見て驚いたが、リーシャの顔を見ると、より一層驚いた顔をした。
今までにないくらい、驚いた顔だ。
「ど、どうしたの?」
目が点になったおばあちゃんを、シルヴァは心配そうに見た。
リーシャはじっと見つめられていて、ただびっくりしながら見つめ返すだけだった。
「あ、あなた……」
「え?」
「リー……シャ?」
リーシャとシルヴァは目を丸くした。……どうしておばあちゃんが、リーシャのことを知っているの?
「え、ええ、たしかに私は、リーシャですけど」
「ああ、会いたかった!」
おばあちゃんはぎゅっとリーシャに抱きついた。
リーシャはなんだか懐かしい気になって、そっとミシレーヌの体を腕で包み込む。
「もしかして、お母さん……?」
「ええ……」
リーシャはにっこり微笑むと、ミシレーヌも微笑み返す。
シルヴァは目を疑った。
たしかに、青い眼の色は同じだけれど、髪の色は違う。リーシャはピンクで、ミシレーヌは金色だ。
「ほ、ほんとに、親子なの?」
「ええ」
「髪の色、違うのに?」
リーシャは嬉しそうにしていた。少し、シルヴァだけが部外者なので、孤立感を感じていた。
「大抵の女の子は、お父さんの髪色を受け継ぐのよ。男の子はお母さんね。だからシルヴァは、お母さんの髪色を継いでいるのよ」
「ふぅん……」
それから家に入り、事情を説明してから夜ご飯を食べた。
部屋は二人分も無かったので、リーシャと同室で寝ることになったが、シルヴァは「リーシャとおばあちゃんが寝ればいい」と言った。
「でも……」
リーシャは困った顔をしてシルヴァを見た。
「せっかくの再開なんだから、二人で話したいこともあるでしょ? ぼくは一人で寝るから。ほら、リーシャだって女の子なんだから、男のぼくと寝るのはちょっと、ね?」
頑張って笑顔を作ったものの、腹の中は寂しさでいっぱいだった。
リーシャとおばあちゃんが親子だと言うのは本当そうだ。
(ぼくのお母さんとお父さんは……どこにいるんだろう。会いたいなぁ。ぼくも、お母さんやお父さんにギュってしてもらいたいなぁ)




