Scene23 魔法をあげる
深い、深い、温かい夢。
シルヴァは気持ちいい夢の中にいた。
(……誰かが、抱きしめてくれてる。誰かなぁ、お母さんかなぁ)
シルヴァは見たことのない母親と父親に思いを馳せていた。
幼い頃は何度も両親に会いたいと口にしていたが、その度におばあちゃんが悲しそうな顔をするので、ついには口にするのをやめた。
ぼくは捨て子なんだ、と不安に駆られるときもあったが、心のどこかではそんなはずないという確信があった。
この黒い髪も、赤い瞳も、両親がくれた大切なもの。
きっと、会えるよね。
今はきっと、なにか事情があって会えないだけなんだ。
シルヴァがそっと夢の中で目を開けると、彼に抱きついているのは母親でないと気づいた。
「えっ……」
驚いてシルヴァの目は点になる。
「き、君は……」
白い髪に真っ赤な瞳、小さな体。
そう、その子は、夢の中に何度も出てきたあのステラという白い子だ。
その子が、シルヴァを優しく抱きしめていた。
シルヴァはそっと体を話すと、震える口で言葉を放つ。
「ど、どうして、ここに?」
口が震えているのは、その子が怖いからだとか、緊張してるからだとかではない。
ただ、ひどく驚いているだけなのだ。
いつもは遠くから見ていただけなのに、今日は、この夢では触れ合っている。
「……おはよ、シルヴァ」
ステラは口を開いた。落ち着いていて、よく通りそうな、透き通った声。
「やっと起きたね」
「えっ、でも、夢……でしょ?」
「……まぁ」
それから、少しばかり沈黙が続いた。
周りに落ちる流れ星が、二人を照らしている。
沈黙に耐えれなくなって、シルヴァが喋ろうとすると、それにかぶさるようにして、ステラが口を開いた。
「ニー、元気?」
「えっ」
「ニースヒール、元気なの?」
ステラの言葉は力強かった。シルヴァは真っ白になった頭を必死に動かした。
「う、うん。この前会った時は、元気だったよ。む、娘さんもいたし……」
「ふぅん」
聞いておいて、興味の無さそうな返事。だけれどシルヴァはそんなこと気にしていなかった。ただ、どうしてステラがここにいるのか、それだけを気にしていた。
「ねぇ、どうしてここにいるの?」
「いちゃあいけないの?」
ステラの大きく赤い目の、静かな威圧に負けて、シルヴァは首を横に振った。
前までの夢なら、とても優しそうで可愛かったのに。
なぜかシルヴァへの当たりはとても強い。
「……まぁ、君に用があってね」
「用?」
ステラは軽く手を前に伸ばすと、ステラの手から小さな宇宙が現れた。
暗くて、いくつかの星が輝いていて。たくさんの惑星があって。
シルヴァはそれを興味深く覗いていた。
「これ、なぁに?」
シルヴァが宇宙を見ながら尋ねると、ステラはそれをもっと大きくした。
その宇宙は二人の足元に広がり、二人はまるで宇宙の中にいるかのようだった。
「綺麗でしょ」
ステラがクスリと微笑むと、シルヴァは何度も頷いた。
とても心が躍る。どうしてか、今まで見たなによりも心を惹かれる。
「これね、星の子だけの魔法なの」
自慢げに微笑むステラからは敵意を感じられない。今までの当たりの強さが嘘のよう。
「ぼくには使えないの?」
「んー」
ステラは近くに落ちてきた流れ星をそっと両手で受け止めると、光り輝くそれをシルヴァにそっと差し出した。
「これが、君の星。触って」
シルヴァが恐る恐るそれに触れると、星の輝きはよりいっそう増して、二人を包み込んだ。
少し経って、眩しさがなくなると、ステラの手から星は消えていた。
「ど、どうなったの?」
シルヴァが聞くと、ステラは宇宙を消し去って、シルヴァの手を前に差し出させた。
「願って、宇宙を」
「え?」
「創るの、君が」
ステラはまるで先生のように、シルヴァの手を地面と平行になるように調整する。
「よ、よく分かんないよ」
シルヴァの頭は混乱していた。
いきなり宇宙を願え、だなんて意味が分からない。
「いいから、『純粋なる星園』を創るの!」
「え、ええっ……」
強いステラの言葉と目力に負けて、シルヴァはいつも魔法を出すように、手に力を込めた。
(純粋なる星園……?よく、分かんないけど、あの宇宙をイメージすればいいのかな)
シルヴァがさっきステラが創った宇宙を頭に浮かべると、シルヴァの手から黒い、小さな球体が生まれた。
それはシルヴァの手を離れ床に落ちると、一気に膨れ上がった。
さっき二人を包んだ宇宙のように、それは姿を変えた。
「……できたね、これが『星園』だよ」
満足気に微笑むステラを、シルヴァはじっと見た。
「ねぇ、星園ってなんなの? ぼく、分かんないよ」
「星園はね、星の子の故郷。ここに入れば、星の子が力を貸してくれるよ。どんな『願い』も叶えてくれるみたいに」
ステラは流れ星をまた手で受け止めると、シルヴァにそっと差し出した。
「君は何を願う? 世界征服? 最強人間? 億万長者? 不老不死?」
いたずらに微笑むステラに、シルヴァは困惑の色を示す。
「い、いきなりすぎて、ついていけないよ」
「ねぇ、願い事はなに?」
「……な、ない」
シルヴァはステラの手を押し返した。ステラの顔には「?」が浮かんでいて、キョトンとした顔でシルヴァを見る。
「願い事、ないの? まぁ、今はなくても、君はいつでも『願える』よ。君はこの星園にいつでも来れるから!」
「これは、魔法なの?」
「うん、星の子のね」
「ぼくは、星の子じゃない」
その言葉をシルヴァが口にすると、周りの景色がぼやけ始める。ステラの体も少しずつ消え始める。
「でもね、君は星の子の魔力を持ってるんだよ! だって、君は──」
ステラの言葉が聞こえない。
夢から、覚めてしまう……!
まだぼくは、意味を理解できていない。
この魔法は何のためにあるの?
どうしてぼくは、星の子の魔法を使えるの……?




