Scene2 運命の日
大きな魔法大国と、小さくとも強力な軍を備えた帝国の狭間にある、大きな森の中に、少年シルヴァとその育ての親、ミシレーヌの家があった。
小さいが温もりのある家。そこでシルヴァは13年、暮らしている。魔法で火を起こしたり、買い物は遠くの隣町へ行かなければならないが、彼にとってそれは苦痛でもなんでもなかった。
シルヴァたちは森の中で薬草を収穫、調合し、それを隣町で売ることで生計を立てている。森の中には沢山の薬草が生えており、精通しているミシレーヌに教わりながら、シルヴァもだんだんと薬草に関する知識を身につけてきた。
とある暖かい昼。薬棚を整理していたミシレーヌは、薬草の一部が不足していることに気づいた。
「シルヴァ、お願いがあるのだけれど」
薬棚の近くで魔法教本を読んでいたシルヴァに、彼女は優しく言った。
「なぁに?」
「風邪薬と、痛み止めの薬を調合したいのだけれど、薬草が足りないの。採って来てくれないかしら」
「うん、いいよ! 何を採ればいいのかな?」
シルヴァは元気よく立ち上がり、ミシレーヌの側へ駆け寄った。
「リーフィ草と、ナズナミ草が欲しいの。そうね、出来るだけ多く持ってきてくれると嬉しいわ。私も行きたいのだけど、最近は屈むのが辛くて……。情けないわね」
「気にしないで、おばあちゃん。ぼく、薬草を採るのは嫌いじゃないから!」
早速玄関へ駆け寄り、ミシレーヌに手を振って外へ出ようとすると、いきなりドアが強く開いた。慌てて飛び退くシルヴァが見たのは、淡い水色の髪をした、悲しい顔の女の子だった。シルヴァよりも年下に見える彼女の首には、重そうな首輪がついていた。
慌ててミシレーヌが近づき、「どうしたの?」と聞いたが、女の子の顔は何一つ変わらない。
「ど、どうしたの……? 何かあったの?」
シルヴァが尋ねると、女の子は透き通った水色の瞳でシルヴァを睨みつけた。
彼女が強く手をシルヴァに向けると、シルヴァの周りに水のボールが現れた。
「な、何をしてるの……?」
突然の事でシルヴァは頭が上手く回らない。魔法で攻撃されているのは分かる……。でも、どうして?
「何をしているの⁉︎」
ミシレーヌが慌てて駆け寄るも、シルヴァの周りの水のボールはますます膨れ上がり、やがて一つとなってシルヴァを閉じ込めてしまった。
意識を失ったシルヴァを助けようと、ミシレーヌは光の魔法を放つものの、女の子はいとも軽くはじき返してしまった。
「何をするの⁉︎ シルヴァを返して!」
女の子は泣きわめくミシレーヌに目もくれず、水のボールに包まれたシルヴァをつれて、空へ飛んでしまった。
「どうして……! シルヴァ、シルヴァ……!」
綺麗に太陽が輝く空に、悲しげなミシレーヌの声が響き渡った。
鳥はそんな声など気にせず、大空を自由に飛んでいる。