Scene18 誰かと彼のお守り
「うっ……」
ゆっくりリーシャが目を覚ますと、そこは見たことのない部屋だった。大きなベッドがあって、綺麗なタンスがある。塵一つない綺麗な部屋の床に、リーシャは倒れていた。
「あら、起きたのね」
声に驚いてリーシャが顔を上げると、そこにはあの恐ろしい女王が立っていた。細い金色の杖を持ち、華やかな黄色の長い髪が女王の動きに合わせて揺れる。
「……あなたは」
リーシャは女王を睨み、低い声で話した。
女王はただリーシャを見下ろして、落ち着いた声で話す。
「私はセマレーヌ。……この国の女王よ。まぁ、そんなことより」
彼女はリーシャに杖を向ける。リーシャの額の前に向けられた杖。リーシャは驚いて動けない。
「あなたを見るとイライラする。私がもがき苦しんでた間、アイツは幸せに暮らしてたのね」
「ど、どういうこと……? アイツ、って?」
今にも涙が出てきそうな目でリーシャが言うと、女王はただため息混じりに言った。
「はぁ。知らないのね。アイツってのは、あなたの母親よ。……まぁ、アイツは子どものあなたを捨てたんでしょうけど」
「ち、違う。私は捨てられたんじゃないわ」
「あら、どこからそんな自信が湧くのかしら? だって、あなたが母親と暮らしてた時期って、ほんの数ヶ月じゃない」
女王の目は鋭く光っていた。しかしリーシャはそんな目に負けず、力強く答える。
「ちがう! 私のお母さんは私に被害が及ばないように私を信頼できる人に預けた、って聞いたもの」
「誰に?」
「……私を、育ててくれた人」
リーシャが呟くと、女王は不気味に微笑んだ。
「ああ、あのフワーリズミーとかいう」
女王のその言葉に、リーシャはひどく驚いた。まん丸な瞳が女王をじっと見つめる。
「し、知っているの……?」
「まぁね。でも、そんなことどうでもいいじゃない」
女王の、杖を握る手の力が強くなる。それでもリーシャは、必死に女王に語りかける。
「ど、どうして? 最近会ったの?」
「……少し話しすぎたみたい。とにかく、私はあなたが嫌い。アイツを思い出すからね」
「ま、待って……!」
リーシャが口を開くと同時に、女王の杖から眩しい光が生まれた。
光の、攻撃だ。
リーシャは防御魔法を使う暇なく、その光を一身に浴びた。
(し、死んじゃう……!)
その時、ガラスの割れるような音がした。
少し経って、リーシャが恐る恐る目を開ける。
何も、起きていない……?
目の前にいる女王は、体が痺れて動けなくなっていた。地面にペタリと座り込んで、リーシャを恨めしそうに睨んでいる。
「くそっ、アイツ……! どこまでも私の邪魔をするのね‼︎」
リーシャは、気づいた。
とても強い結界が張られている!
リーシャの魔法ではない。もちろん、女王でもない。
なら、誰の?
立ち上がろうとした時、何かがリーシャから落ちた。
「これ……」
シルヴァがくれた、お守りだ。
粉々になって、地面に落ちる。
これが、守ってくれたんだ!
座り込む女王が口を開く。
「ミシェラル王国の、お守り……。私の、故郷……」
女王の目は潤んでいた。少女のようなその顔には、少しの涙があった。
「……ごめんなさい」
リーシャは粉々になったお守りを集め、ポケットに全部入れた。
(お礼を、言わなきゃ。シルヴァのおかげで、命が助かった、って)
部屋を出て、廊下を走っている時、窓に写った自身を見て、リーシャはあることに気づいた。
(あれ……、お守りの模様、おでこにもあるわ……。
どうして?)
リーシャがそっと額を触れると、お守りの模様があるところだけ、ほのかに温かかった。
まるで、誰かが手を添えてくれているように。