表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/39

Scene17 その子は

「いてて……」


 シルヴァは大きな目をぱっちりと開くと、彼がいるのは小さな部屋だということが分かった。本当に小さな窓からは隙間風が吹き込んできて、彼の髪を少しだけ揺らす。


 起き上がろうとしたとき、足枷がついていて自由に動けないと分かった。重くて冷たい足枷は、シルヴァの片足にだけついていて、もう片方は、あの女の子についたいた。


「あれ……君……」


 おぼろげな記憶が、彼女を記憶していた。淡い水色の長い髪、シルヴァよりも小さな体。


 そんな幼い体のあちこちは血で濡れていた。彼女の真っ白な肌は赤い血で染められており、吐息も苦しそうだ。


「ねぇ……どうしたの? 大丈夫?」


 シルヴァがどれだけ声をかけても反応がない。ただ苦しそうに肩で息をするだけで、シルヴァの方をちらりとも見ない。


「怪我、してる。そうだ、治癒魔法をかけたげる」


 確か、リーシャと一緒に練習したはず。歪な手つきでなんとか彼女に治癒魔法をかけるも、なかなか彼女の傷は癒えない。


「……っ。早く、早く助けてあげないと」


 まだまだ不慣れな彼の手からは、ほんの少しの光しか生まれない。先生なら、こんな傷、数分で治せるだろうに。そんなことを考えつつも、ただ彼女の傷を癒すことだけに集中していた。




 何分、何十分経っただろうか。

 彼女の傷は少しずつ治ってきた。まだ完全に傷口は塞がっていないものの、出血量は減ってきている。彼女の息も落ち着いてきた。


「……あなた、バカなの」


 突然彼女が口を開いた。シルヴァは驚いて彼女を見る。


 綺麗な、淡い色の目と、血のような赤い目が合う。対照的な目の色だ。


「え? な、なにが?」


 驚いてシルヴァが聞き返すと、彼女は治癒魔法をかけるシルヴァの手をはねのけて、彼女は自分自身で魔法をかけた。


 シルヴァより速く傷が癒える。シルヴァはただそれをじっと見ていた。


「……あなた、不慣れなんでしょう。少ししか出来てないくせに、あなたの魔力は底をつき始めてる。非効率ね」


 ボソボソと話す彼女は攻撃的だったが、シルヴァはそんなことを気にせず、ただ感心した目で彼女を見ていた。


「すごい! 君は魔法が上手なんだね」


 にっこり微笑むものの、彼女はすぐに目を逸らした。何があってもシルヴァとは目を合わさない。そんな意志さえ感じ取れる。


「……」


 お互い、黙り込んでしまった。


 さっきまで苦しそうだったのは彼女だったのに、今度はシルヴァが苦しそうに肩で息をし始める。


 魔力が底をつき始めていた。魔力は体を動かすエネルギーでもある。そんな魔力が尽きれば意識を失い、最悪死ぬことだってある。


 苦しそうなシルヴァを見て、彼女はそっとシルヴァに手を向けた。


 彼女の手から出てきたのは、優しい、温かい光。その光がシルヴァを包み込み、彼の魔力を回復させた。


「……あれ、苦しく、ない」


「本当に、バカ。脳みそ、あるんですか」


 隣に座る彼女はじっとシルヴァを見ていた。シルヴァはコクリと頷くと、彼女はため息をついた。


「……私はあの日、あなたを殺そうとした。なのに、あなたは私を助けるんですね」


「そりゃあ……。隣で苦しんでたら、助けなきゃって思うよ」


 シルヴァは足枷を外そうとガチャガチャ弄るも、それは簡単に外れそうもない。彼女はただそれをじっと見ていた。


「私は、女王の手下ですよ。ここで私を殺した方が、いいんじゃないですか」


「でも、君は女王様に従わられてるんでしょ? なら、殺さないよ。それに、魔法は人を傷つけるためにあるんじゃないし」


 足枷を触りながら話すシルヴァに、彼女は低い声で言った。


「そんな綺麗事じゃあ、すぐに死にますよ」


 それと同時に、足枷が外れた。シルヴァは驚いた顔をしたものの、すぐに彼女のほうを見て微笑む。


「ほら、外れた。ここから逃げようよ」


 シルヴァが立ち上がり彼女の手を握るが、彼女は彼の手を拒絶した。


「やめて。逃げたって無駄よ。ここは王城。袋の鼠なのよ。それに今日は新月じゃない。満月じゃないだけマシだけど」


「お月様は関係ないよ。ほら、早く行こうよ。今しかないよ」


 彼女はシルヴァをギッと睨みつけると、震える足で立ち上がり、水の魔法を使おうと手の周りに水を生み出した。


「……あなたには分からないわ。私が、どんな状況なのか。逃げれるなら、とっくに逃げてるわよ」


 シルヴァは彼女を見て、すぐにダメだと感じた。彼女と逃げるのは無理だ。なら、一人で逃げるしかない。


 後退りをしながら、そっとドアまで近づく。彼女の周りには大きな水の塊ができていた。


「はぁっ!」

「っ!」


 彼女がその水をシルヴァに投げつけたその瞬間、シルヴァは風の魔法を唱えた。


 彼女の手から離れた水は、シルヴァの生んだ風のせいで前に進めず、二人の間にとどまっていた。


(今のうちだ……!)


 水が弾け消えた瞬間、シルヴァは眠りの魔法を彼女にかけた。彼女は防御魔法を出すこともできず、シルヴァの魔法で眠ってしまった。


 シルヴァは彼女が寝たのを確認してから、そっと扉を開け、外に出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ