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救援

 店主との話はまとまったので、まずは俺が引き取る分の在庫を確保する。

 これらの価格は、仕入れ値の半額くらい。公表されている裏市での買い取り額だ。ただ、実際はもっと買い叩かれるらしい。なんだかんだと理由を付けられ、市価の10分の1くらいの金額で引き取られる。

 まあ、仕入れ値の半額でも十分安い。この値段で仕入れるのであれば、2割引きで売るなんて余裕だ。


 買い取る商品の金額は、俺が100万、コータローが400万の予定だ。万が一コータローがゴネた場合、俺が負担する額を増やす。

 そして、これが一番重要。コータロー商店には()()()()で買わせる。コータロー商店の得を、最小限に抑えるためだ。


「では、店主さん。悪いようにはしませんので、僕に任せてください」


「元よりそのつもりです。できるだけ多くの在庫を残してください……」


 心配そうに呟いた。


 店主は店の存続を希望している。あとはコータロー次第だが、たぶん上手くいくだろう。

 ただ、この店主がしゃしゃり出てくると面倒だ。コータローとの交渉や商品の選別などは、全て俺が立ち会って間に入る。



 配送の手続きも終えた。月末には商品が届くだろう。200万クラン分の商品が100万クランで手に入った。商品を厳選したので、売れ残るリスクもほとんど無い。

 定価が約300万クラン、値引き後の販売価格が240万クラン。見込み利益は140万クランになる。普通に仕入れて定価で売るよりも儲かるぞ。ヤバイな。癖になりそうだ……。


 でも、この手段は今回限りにしておこうと思う。いくら安いと言っても、不用意に在庫を増やすのは少し怖い。それに、倉庫がパンクしてしまう。次に同じことがあったら、話を断ろう。


 一通りの作業を終えたので、コータロー商店に向かうのだが、その前に。


「あとは僕がやっておきます。ギンは先に帰ってください」


 ギンは追い払う。正直、邪魔なんだよな。ギンのようなチンピラを連れて行くと、話が拗れそうだ。


「いいんすか? 手伝いますよ?」


「必要ありませんよ。僕1人で十分です。ギンは仕事に戻ってください」


「そうすか? まあ、兄さんがそう言うなら……」


 ギンは、不承不承に頷いて去っていった。



 次はコータロー商店だ。例の店からは、歩いて15分程度。かなり近い。この距離だったら、客を取られるのも無理はない。余程特別な理由がない限り、客はコータロー商店を選ぶだろう。例の店は延命を選んだわけだが、やはり倒産の運命は変わらないな。


 コータロー商店の中に入り、近くに居た女性店員に声を掛ける。


「コータローさんはいらっしゃいますか?」


「あの、御用は……」


 怪訝な表情で迎えられた。

 何だよ、いっちょまえにアポイントを求めるのか? 電話も無いような国で、そんなものを求めるなよ。無理だぞ。


「ウォルター商店の店主です。そう言っていただければ、通じると思います」


「少々お待ちください」


 女性店員は、無表情のまま店の奥に消えていった。この店員、見た目は若くて美人だが、無愛想すぎる。もしルーシアがこんな態度をとっていたら、俺なら怒るけどなあ。



 しばらく待っていると、コータローが笑顔で現れた。


「やあ、この間はどうも。何の御用だい?」


「こんにちは。単刀直入に言いますね。店を1つ、救っていただけませんか?」


 挨拶もそこそこに、いきなり話を切り出した。手っ取り早く話を進めるためでもあるが、今回の交渉はインパクトが重要だと考えたからだ。


「はあ? 何言ってんの? お金なら貸さないよ?」


 コータローは訝しげに言う。


 偽善でも何でも無く、誰かを助けたいという思いは多くの人が持っている。その裏にあるのは、いわゆる承認欲求。『感謝されたい』という欲だ。

 そこで、『誰かを救う』というテーマを掲げた。これは詐欺師だけでなく、キャッチセールスもよく利用する手法だ。心と金にある程度余裕がある人間は、比較的引っ掛かりやすい。


「いえ、そんな用件ではありませんよ。ある店の、在庫の一部を引き取ってほしいんです。ただし、『買え』という話ではありません。仕入れ値で手放すので、引き取り手になってほしいんです」


「ちょっと詳しく」


 コータローは前のめりで聞いてきた。予想通り、良い食い付きだ。

 ただ、『救う』という部分は響かなかったらしい。『仕入れ』の部分に強く反応した。意外と余裕が無いみたいだな。


「ある商店が閉店の危機を迎えていまして。抱え込んだ借金を返済するために、在庫の一部を急いで現金化する必要があるんです。

 僕の店でも負担するのですが、うちだけでは厳しい額なんですよね。うち以上に調子が良い店というのは、ここしか思い付かなかったんですよ」


 遠回しにさり気なくヨイショした。「あなたしか頼る人が居ない」というアピールも、承認欲求をくすぐる手法の1つだ。ギンがしょっちゅう使ってくる。やりすぎたら鬱陶しいので、使う時は程々に。


「へえ……。商品は何?」


 コータローは、真剣な顔つきで言う。かなり乗り気になったようだ。


 今、街中の店で商品の入荷が滞っている。それはコータロー商店も例外ではない。しかし、コータロー商店は、今この街で一番売れている店だ。在庫が枯渇しそうになっていると考えられる。


 この相談は、他の弱小商店では無理なんだ。他の商店は、むしろ過剰在庫気味になっている。追加の仕入れというのは受け入れ難いはずだ。


「確認してきましたが、ここでも取り扱っている商品ばかりでした。損はしないと思いますよ」


「ふうん? 悪くないかな……。それで、いくら?」


「コータローさんに引き取っていただきたいのは、400万クラン分くらいですね」


「分かった、いいよ。君に任せるから、適当に送っといて」


 コータローは、ニヤリと笑って答えた。いや、いい加減すぎるだろ。俺は部外者だぞ。そして一応敵だ。

 もしかして、コータローの中では敵と思っていないのか? それはそれで腹が立つぞ……。


「それは拙いですよ。店主なのですから、現物を確認した方がいいです」


 思わず口を出してしまった。任せるというのだから、粗悪品を見繕って送ってもいいのだが、さすがにそれはプライドが許さない。


「いいよ、いいよ。忙しいし。じゃあ、うちの従業員を連れて行ってよ。全部そいつに任せちゃっていいから」


「それでいいのでしたら、そうさせていただきます……」


 コータローは、カラカラと笑って去っていった。俺のことは微塵も疑っていないらしい。


 俺が一方的に敵視しているのが、馬鹿みたいじゃないか。こいつにとって、俺なんて取るに足らない相手だと言うのか? それとも、400万クランなんてはした金だとでも?


 くそっ! 差を付けられた気分だ。


 かなり苛立つが、ちょっと落ち着こう。少し気になることがある。コータロー商店は、潰れそうな個人商店を探っていたはずだ。今回の店も、気になるはずではないだろうか。興味も無い様子だったのが、どうも引っ掛かる。



 しばらく待っていると、1人のおっさんが近付いてきた。以前俺の店に来た気弱そうなおっさんだ。


「お待たせ致しました。私が同行させていただきます。コータロー商店、見習いのイヴァンです」


 中肉中背の、少し頼り無さそうな見た目。歳は35歳くらいだろうか。その歳で見習いというのは、ちょっと厳しいんじゃないかな。普通なら、独立しているか、管理職になっている歳だ。


「ウォルター商店のツ……店主です。よろしく願いします」


 ツカサと言い掛けて、言い直した。ふと思ったのだが、『ツカサ』という名前は良くない。ちょっと日本を連想させる名前だ。コータローには知られたくない。


「こちらこそ、よろしくお願いします。今から行くことはできますか?」


「それは大丈夫ですが、店はいいんですか?」


「はい。ご心配には及びません」


 おっさんは、頼りなさげな笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。

 ずいぶんと礼儀正しい。ちゃんとした大人という感じだ。この店で一番まともな人なんじゃないかな。影は薄いけど。


 コータロー商店を出て、例の店に向かう道中。さっき気になっていたことを探ってみることにした。


「店主さんじゃなくてもいいんですね」


「はい。店主は今、別の案件で忙しいのです」


「へえ……どんなお仕事なんです?」


「……お答えできません。機密情報ですので」


 おっさんは、軽く会釈をしながら答えた。

 やっぱりこいつはまともだな。口が堅い。他のやつだったら、簡単に教えてくれると思うんだけどなあ。


「倒産しそうな店に出入りしているという噂を聞きましたが、関係あります?」


「聞かないでください。答えられません」


 深刻な表情で口を噤んでしまった。これ以上は聞き出せないか……。

 気を悪くさせてしまったようなので、一度立ち止まって深々と頭を下げる。


「変なことを聞いて、申し訳ありませんでした」


「あ、いえ。お気遣いなく。先を急ぎましょう」


 おっさんは、何事もなかったかのように笑顔で言った。おそらく「もう聞くなよ」という意味だろう。


 でも、無関係ではないということが分かった。人は図星を指された時、少なからず態度が変わる。これまで友好的だった態度を一変させたということは、俺の指摘が正しかったという証拠だ。

 おそらく、潰れそうな店を探すという段階は、既に終わってしまったのだろう。何らかの企画が進行しているということだ。次の情報が必要だな……。ギンに探らせよう。

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