類友募集
カフェスペースを設置してから数日が経った。
レベッカに依頼していた廉価版のリバーシは、ドミニクが順調に売ってくれている。委託販売という形態を気に入ったらしく、他の商品も売ると言っていた。次の商品を考える必要があるな。
当初ガラガラだった席は、徐々に埋まるようになってきている。毎日余っていたロールケーキも、連日完売している。いい傾向だ。
客の大半はお茶が目当てのようで、茶葉が売り切れるという嬉しい事態も発生するようになってきた。リバーシの評判も良く、たまにリバーシ目当ての客も来ている。
そんな中、あまり歓迎したくない客が一組、店に現れた。コータローと不愉快な仲間たちだ。勢いよく扉を開け、ズカズカと入ってきた。
しかし、コータローの取り巻きが、いつものおっさんじゃないな。どうやら、いつものおっさんはリバーシの手配で忙しいのだろう。
あいつ、どれだけのおっさんを従えているんだ?
いや、今はそんなことよりも、コータローがここに来た理由を知りたい。近付いて聞き耳を立てた。
「本当だ……。何だよ、これ! どうなっているんだよ!」
コータローは、リバーシの駒を持って声を荒らげた。どうやら、リバーシの噂を聞きつけたらしい。モタモタしているから悪いんだよ。
「やはり、同じ商品なんですね。どうします?」
「どうするって……こんなのリバーシじゃない! 僕が本物のリバーシを作る!」
どうやら、コータローの中では俺のリバーシは紛い物扱いらしい。そもそも開発者でもないくせに、よくそんなことが言えるな……。
「しかし、模倣品を作るのは良いことではありません。諦めた方がよろしいかと」
取り巻きのおっさんが冷静に諌めた。模倣という概念はあるらしい。そして、それを忌避する文化もあるみたいだ。
「模倣品はコレだよ! 僕のリバーシが本物だ!」
諌めた所で、聞く耳は持たないらしい。先に世に出したのはこっちだ。日本人なら四角い駒に違和感を覚えるだろうが、この国の人にはこの形で認知された。もう遅い。
「しかし、これの販売価格は3600クランだそうです。我々の計画では、5000クランが限界でしたよ。価格の面でも太刀打ちできません」
人の店で堂々と模倣の相談をするなよ……。でもまあ、俺は模倣される前提で動いているんだ。こいつらが何をしてこようが関係無い。
「そんなの、職人に値引きさせればいいじゃん。僕たちの利益も減らせば、半額にはなるでしょ?」
「簡単に言わないでください。職人に支払う額は、もう下げることができません」
「いいからやれって。せめて3600クランまでは値下げ。はい、頑張って!」
無茶苦茶言うなあ……。あいつ、関わる人間全てを困らせているんじゃないのか?
ひとしきり文句を言い終えたコータローは、「ふぅ」とため息をついてカフェスペースの椅子にドカッと座った。お茶の注文は受けていない。ただ座っただけだ。
この店のカフェコーナーは、日本の多くのファーストフード店と同じ、カウンターで先にお茶を注文するスタイルだ。注文もしないで居座られると面倒なので、これは徹底している。
様子見も兼ねて、声を掛けてみよう。
「いらっしゃいませ。カウンターでご注文をしてから、席に座っていただけますか?」
「そうなの? 早く言ってよ。じゃ、適当に何か持ってきて」
コータローが取り巻きのおっさんに顎で指示を出した。
「承知致しました。少々お待ちください」
おっさんはそう言って、苦笑いを浮かべて立ち上がった。このガキ、完全に調子に乗っているぞ……。そのうち刺されるんじゃないかな。
笑顔で対応していると、不意にコータローに話し掛けられた。
「あんた、ここの店の人?」
「そうですが……何か問題でもありました?」
「この店で売っているゲーム。あれ何?」
おいおい、まさか面と向かって文句を言うつもりか?
「何と言われましても……うちの新商品ですが。お気に召しませんでしたか?」
「あんな偽物、売らないでくれる? もうすぐ僕の店でも売るからさあ。困るんだよね」
そのまさかだったよ。雲行きが怪しくなってきたぞ。そんな言い分が通るわけ無いだろうが。何を考えているんだ?
「偽物もなにも、当店が独自に開発した商品です。突然偽物扱いされても困りますよ。偽物を作ろうとしているのは、あなたではないのですか?」
「はあ? 僕が作ろうとしているのは本物のリバーシだ! こんな紛い物と一緒にしないでくれる?」
「あなたが何を作ろうとしていたかは知りませんが、先に商品化して流通させたのは当店です。堂々と模倣品を作ると宣言されて、良い気はしませんよ」
強い口調で宣言すると、おっさんが血相を変えて駆け寄ってきた。
「コータロー様、やめてください。店員さんも、申し訳ございませんでした。これをいただいたらすぐに退散しますので、ここは穏便に……」
焦ったような表情で深々と頭を下げる。こいつは意外と礼儀を知っているようだな。その分、コータローに振り回されているみたいだ。少し同情する。
このままコータローと話をしていると、イラッとしてしまいそうだ。さっさと立ち去るに限る。
「いえ。どうぞ、ごゆっくり」
そう言って踵を返した瞬間、コータローに呼び止められた。
「ちょっと待って。あんたさあ、日本人なんじゃないの?」
その言葉に、少しドキッとした。俺が日本人であることは、できるだけ知られたくない。前歴の問題もあるし、何より自由に行動できなくなる。面倒事が増えるだけだ。
「ニホンジンとは? どういう意味でしょうか」
全力でしらばっくれる。この場合、『はい』か『いいえ』で答えたらアウトだ。もし相手が勘のいい人だと、「なぜ日本人という単語を知っているの?」と突っ込まれてバレる。
この街の住民を見る限り、黒髪は少ないながらも居る。顔立ちが日本的な人もたまに居る。おそらく、過去の迷い人の子孫だと思う。誤魔化せないことは無い。
「どうしてとぼけるの? 黒髪ってさ、珍しいよね。リバーシの発想だって、日本人じゃなきゃ思い付かないでしょ。それに、僕の店に似てるよね。ポイントカードとか」
食い下がるなあ……。どう誤魔化そうか。俺も日本のやり方をふんだんに持ち込んでいるからなあ。「コータロー商店を真似た」とでも言っておくか。
いや、ちょっと待て。俺がコータローのことを知っているのはおかしい。コータローはまだ名乗っていないんだ。こいつが言う『僕の店』と『コータロー商店』を結びつけるのは、まだ早い。
こいつにとっては今日が初対面だ。だったら、俺も初対面という態度を貫かないと拙いだろう。俺がコータローを意識していたことが知られると、「それは何故?」という話になり、そこから俺が迷い人だと感づかれる可能性がある。
「失礼ですが、どちら様ですか?」
「コータロー商店の店主。名前くらいは聞いたことあるでしょ?」
「あ……。あなたがコータローさんでしたか。お店には何度か行かせていただきましたよ。店作りの参考にさせていただきました」
ふう。これで普通に話ができるぞ。
店内のポスターやポップに関しては、本当に参考にした。しかし、これは他所の店でもやっていることだ。ポイントカードも、街中で流行りだした。
「なるほど……。僕の店のやり方をパクったんだね」
確かに一部はパクったんだけど、言い方が悪いなあ。
「コータロー商店には、街中の商店が影響を受けていますからね」
「だとしてもさ。絶対、日本人だと思うんだよね。どうして嘘をつくの?」
まだ疑うのか……。面倒なやつだな。違うと言っているのだから、さっさと引き下がってくれればいいのに。
「嘘? まず、ニホンジンというのは何です?」
「本当に違うんだね。絶対そうだと思ったのに……」
コータローは、心底残念そうに呟いた。ようやく折れたか。
「ははは。ご期待に添えず、申し訳ありません。仮にそうだったとして、何が狙いだったんですか?」
「同じ日本人としてさ、僕の仕事を手伝ってもらおうと思ったんだよね。話も合うだろうし、考え方も近いだろうしね」
うわあ……。マジで隠して正解だったな。こいつは、あくまでも主導権は自分が握るつもりだ。手伝いとは名ばかりで、ただの使いっ走りだろう。
しかも、国からも「手伝え」という命令が来ると思う。コータロー商店は国営事業なので、迷い人として一括りにされる可能性が高い。
同じ日本人だが、こいつとは考え方が合わない。全く合わない。経営方針も、経済に対する意識も、周囲への対応も、全てが違う。
深く関わりすぎないために、今後も絶対に隠し通さないと拙い。
「なるほど。考え方が近い人が現れるといいですね」
と軽く社交辞令を返し、コータローの席を離れた。
心底、そんな奴が現れないことを切に願う。1人でも手を焼いているというのに、これ以上増えたら手に負えないよ。
初めてコータロー本人と話をしたが、予想通り面倒そうな奴だった。自己中心的と言うか、強引と言うか。悪い意味で純粋な奴という印象だ。
協力体制は……たぶん無理だろうなあ。期待などはしていなかったが、改めてそう思った。





